実は、この曲にはKing Gnuの井口理さんとのコラボレーションで、あらためて好きになったという経緯があります。深夜ラジオでの2人によるデュエットが評判を呼び、その掛け合いに惹かれて、あらためてこの曲の良さを見直すことになりました。それでも今回は、公式性を優先するという判断のもと、aiko本人の公式ミュージックビデオを取り上げることにしました。井口さんとのバージョンが好きという気持ちは、正直に告白しておきたいと思います。それでも、原曲であるaiko本人の「カブトムシ」を聴き直すと、あらためてこの曲の強さと脆さの両方に、心を掴まれます。カブトムシという、昆虫の中でも最強とされる存在に、虚勢を張って恋する自分を重ねる。この発想の転換こそ、aikoという書き手の真骨頂だと思います。
カップリング予定から表題曲へ
「カブトムシ」は、1999年11月17日にポニーキャニオンからリリースされた、aikoのメジャー4作目のシングルです。前作「花火」から約3ヶ月ぶりのリリースでした。興味深いのは、この曲がもともとカップリング曲として予定されていたにもかかわらず、プロデューサーの助言によって表題曲に昇格したという経緯です。当初の予定通りであれば、この曲は日の目を見なかったかもしれません。誰かの的確な判断が、名曲を表舞台に押し出したという事実には、創作の現場における、思いがけない巡り合わせの面白さを感じます。
aikoは、カブトムシという昆虫を、「見た目は強そうだが、甲羅を1枚剥がすだけで柔らかくなり、実は脆く寂しい昆虫ではないか」と捉え、自分を守るための虚勢を張りながら恋する自分を、そこに重ねて歌ったといいます。制作秘話も面白く、当時DJを担当していたラジオ番組の生放送終了後、そのままのテンションで自宅で作り上げた曲だそうです。本来は夏の虫であるカブトムシを、aiko自身は冬の虫だと思い込んでいたため、この曲は実は冬の曲だという、意外なエピソードも残っています。
強そうに見えても、脆い
東京で働いていた頃、周囲からは頼りにされる存在として振る舞いながら、実は内心では不安でいっぱいだった時期がありました。強そうに見せることと、実際に強いことの間には、大きな隔たりがあります。恋愛においても、平気なふりをしながら、実は誰よりも相手のことを気にしている。そういう虚勢の裏にある繊細さを、「カブトムシ」というモチーフはこれ以上ないほど的確に表現しています。
甲羅という硬い外殻は、確かに強さの象徴です。けれど、その内側にある柔らかさこそが、本当のその人らしさなのかもしれません。強がる自分を否定せず、その奥にある脆さごと受け入れること。この曲が持つ優しさは、そうした自己受容の姿勢を静かに後押ししてくれます。
磐田で見つめる、甲羅の内側
磐田で家や土地の相談を受けていると、気丈に振る舞いながらも、内心では大きな不安を抱えている方々に、よくお会いします。相続や空き家の問題で、平気なふりをしながら相談に来られる方の甲羅の内側には、たいてい大きな戸惑いや寂しさが隠れています。そういう脆さに気づき、丁寧に寄り添うことが、この仕事の本質なのだと感じています。
「カブトムシ」を聴くたびに、強さの奥にある脆さへの想像力を大切にしたいと思います。井口さんとのデュエットで再び注目されたこの曲が、世代を越えて愛され続けている理由も、きっとこの普遍的な優しさにあるのだと思います。
ATAWI MUSICは、音楽を消費するサイトではありません。曲をきっかけに、強がりの奥にある脆さの記憶を読み直す場所です。
