ページ作成日: 2026年7月5日
元にしたYouTubeリンク: https://www.youtube.com/watch?v=GeVCgkXm6cg
確認した動画: ASKA - 東京 (Official Music Video)(ASKA Official Channel)

2017年2月22日に発表されたアルバム『Too many people』に収められた「東京」は、ASKAが自身の活動を見つめ直し、あらためて音楽と向き合う中で生まれた一曲だ[1]。このアルバムのために書かれた50曲の中から選び抜かれた13曲の一つであり、東京のスタジオが使えない時期には、知人の紹介で福岡のスタジオを借りてレコーディングが進められたと伝えられている[1]。若いクリエイターたちとの共同作業によって作られたこの曲は、CHAGE and ASKA時代のポップなサウンドを思わせるどこか懐かしい響きを持ちながらも、長い時間を経て戻ってきた場所を見つめ直すような、静かな覚悟が込められているように聴こえる。

困難を越えて、もう一度立ち上がるための一枚

ASKAは、活動の中で大きな困難を経験し、しばらくの間、表舞台から離れていた時期がある[1]。『Too many people』は、その後にあらためて活動を再開した際に生み出されたアルバムであり、50曲もの候補から13曲を選び抜くという作業そのものが、自分自身の音楽と真剣に向き合い直す過程だったのではないかと想像する。「東京」は、そのアルバムの中でも、若手クリエイターとの新しい試みを取り入れながら、かつての自分自身のポップスの感覚を呼び覚ますような一曲として位置づけられている[1]。過去の自分と、今の自分をつなぎ直す作業そのものが、この曲の制作過程には刻まれているのだと思う。長く第一線で活動を続けてきた表現者が、一度立ち止まったあとにもう一度言葉と音を紡ぎ直すという行為は、決して簡単なものではない。それでも50曲という数の楽曲を書き上げたという事実そのものが、音楽と向き合い続けようとする揺るぎない意志を物語っている。

若い世代との共作が呼び覚ました、懐かしくも新しい響き

イントロに使われる鈴の音のような音色は、かつてのヒット曲を思わせる親しみやすさを持ちながら、リズム隊の作りには新しい感覚が取り入れられている[1]。長年第一線で活動してきたアーティストが、若い世代のクリエイターと組むことで生まれる化学反応は、単なる懐古趣味に終わらない新鮮さを楽曲にもたらす。「東京」というタイトルが示す通り、この曲には、かつて自分が活動の拠点としていた街への複雑な思いも重ねられているのかもしれない。離れていた時間があったからこそ、戻ってきた街の情景がより鮮明に、そして感慨深く描かれているように感じられる。かつて福岡のスタジオを間借りして制作を続けていた時期を経て、あらためて「東京」という言葉を曲名に選んだこと自体が、一つの区切りであり、次の一歩を踏み出す宣言でもあったのではないだろうか。

離れた時間だからこそ見えてくる、街と自分自身の輪郭

人は、ずっと同じ場所に居続けていると、その街の輪郭をかえって見失いやすい。一度離れ、あらためて戻ってきたときにこそ、街の匂いや音、人の温かさが鮮やかに見えてくることがある。「東京」という曲が持つ懐かしさと新しさが同居した響きは、まさにそうした「離れたからこそ見える景色」を音楽の形にしたものだと感じる。かつての自分を否定するのでも、単に懐かしむのでもなく、時間を経たことで得られた新しい視点を大切にしながら、もう一度その街と向き合い直す。そうした姿勢は、音楽に限らず、人生のあらゆる場面での「再出発」に通じるものがある。

磐田で見つめる、それぞれの「もう一度」という物語

私自身、東京で仕事に打ち込んでいた時期があり、その後、故郷である静岡県磐田市に戻って介護と不動産の仕事を始めた。長く離れていた場所に戻り、あらためてそこでの暮らしを築き直すという経験は、多かれ少なかれ、この「東京」という曲が持つ「もう一度」というテーマと重なる部分がある。介護の現場では、大きな病気やけがを経て、それまでの暮らしに戻れなくなった方々が、新しい環境の中でもう一度自分らしい生活を築いていく姿を数多く見てきた。不動産の仕事でも、長年離れていた実家に久しぶりに向き合い、これからの暮らし方をあらためて考え直すご家族に出会うことがある。誰にでも、一度立ち止まり、あるいは離れた場所から、もう一度何かを始め直さなければならない瞬間がある。ASKAが「東京」という曲を通じて、かつての自分と向き合いながら新しい一歩を踏み出したように、私たちも、それぞれの人生の中で、何度でも「もう一度」を選び直すことができるのだと思う。実家じまいや空き家の整理も、何かを終わらせるだけの作業ではなく、そこにあった時間を受け止め直し、次の暮らしへとつなげていくための、静かな「もう一度」のプロセスなのだと、私は考えている。

介護の現場でも、大きな病気やけがをきっかけに、それまで暮らしていた自宅を離れ、施設での生活を始めるという決断を迫られるご家族に数多く出会う。住み慣れた場所を離れることは、簡単には受け入れがたい変化だ。それでも、新しい環境の中で、ご本人が少しずつ自分らしい生活のリズムを取り戻していく姿を見ると、「もう一度」という言葉の持つ力を実感する。慣れ親しんだ場所を離れることは、必ずしも何かを失うことだけを意味するわけではない。新しい場所で、これまでの経験や人柄を活かしながら、あらためて自分らしい日々を築き直すことができる。ASKAが困難な時期を経て、あらためて「東京」という街と向き合い直したように、人は何度でも、新しい場所やかたちで、自分自身の物語を紡ぎ直すことができるのだと思う。

50曲の中から選び抜かれた13曲、そのうちの一曲である「東京」を、こうして数年後にあらためて聴き返すと、当時の再出発への静かな決意が、今もなお色褪せずに響いてくる。困難な時期を経験したからこそ書けた言葉やメロディがあるのだとすれば、この曲は、逆境の中にあっても音楽を諦めなかった一人の表現者の記録として、これからも聴き継がれていくのだろう。私自身、介護事業を立ち上げた当初は、右も左も分からないまま試行錯誤を重ねる日々だった。制度の複雑さに戸惑い、ご利用者様やご家族の期待に応えられているのか不安になる夜も少なくなかった。そうした時期を経て、今こうして磐田の地に根を張り、多くの方々に信頼していただけるようになったのは、決して平坦な道のりではなかったからこそ得られた実感なのだと思う。不動産の仕事で出会う空き家の多くも、かつては誰かが困難な時期を乗り越えながら守り続けてきた場所である。そこに刻まれた苦労の跡を軽んじることなく、次の暮らしへとつなげていくことこそが、私たちの仕事の本質なのだと感じている。「東京」という曲が、困難を経てもなお音楽と向き合い続けた記録であるように、家や土地もまた、そこに関わった人々の粘り強さの記録として、大切に受け継がれていくべきものだと思う。「東京」という一曲が鳴らす鈴の音は、遠い記憶を呼び覚ますと同時に、今この瞬間からもう一度歩き出そうとする人の背中を、そっと押してくれるように聴こえる。何度立ち止まっても、そのたびにもう一度歩き出せばいい。この曲は、そのことをやさしく肯定してくれているように思える。困難を経験したことのある人ほど、この曲の持つ静かな強さに、深く共感できるのではないだろうか。誰の人生にも、立ち止まらざるを得ない時期がある。それでも、そこからまたゆっくりと歩き出せるということを、この一曲は音楽という形で証明してくれている。「東京」という言葉には、これからもさまざまな人の再出発の記憶が、静かに積み重ねられていくのだろう。

参考リンク

音楽が昔の街や自分を思い出させてくれるように、家や土地にも、誰かの時間が残っています。

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書いた人

大石浩之。静岡県磐田市で、介護と不動産の仕事をしています。 若い頃に東京で過ごした時間、仕事の中で見てきた家族や街の記憶、 そして今暮らす磐田で感じることを、音楽をきっかけに書いています。

音楽は、過去の自分に会いに行くための入口です。 家や土地もまた、誰かの記憶が残る場所だと思っています。