back numberの「瞬き」は、2017年12月20日にユニバーサルシグマから発売された、バンド17枚目のシングルである[1][2]。作詞・作曲はボーカルの清水依与吏、編曲はback number自身が手がけた[1]。佐藤健と土屋太鳳がW主演した映画『8年越しの花嫁 奇跡の実話』の主題歌として書き下ろされた楽曲で、原因不明の病で長く眠り続けた女性と、その傍らで目覚めを待ち続けた男性という、実際に起きた出来事をもとにした作品に寄り添う一曲だ[1][3]。オリコン週間シングルランキングでは5位、Billboard JAPAN Hot 100では2週連続の2位、同ダウンロードソングでは2週連続で首位を記録した[1]。のちに2019年3月発売の6枚目のアルバム『MAGIC』にも収録され、そのアルバムはオリコン・Billboardの双方で首位を獲得している[1][4]。バラードの多いback numberの楽曲の中でも、恋愛の甘さや切なさから一歩進んで「幸せとは何か」という問いそのものに正面から向き合った曲として、特別な位置にある。
今回取り上げるのは、公式YouTubeで公開されている「瞬き」Music Videoである[5]。この曲は、曲・歌詞・MVのどれを取っても語りどころが多いが、その中でも大石セレクションとして選びたいのは、「幸せとは何か」という誰もが一度は考える大きな問いに、派手な出来事ではなく誰かの傍らにいる小さな時間で答えようとする、歌詞の力である。
静かなピアノから、伸びやかに開くサビへ
音の面から見ていくと、「瞬き」はback numberらしい、決して派手すぎない編成の中に確かな温度を持たせたバラードである。イントロは静かなピアノを軸に始まり、清水依与吏のボーカルが一人の相手にそっと語りかけるような距離感で歌い出す[1]。編曲はback number自身が手がけており、余計な装飾を足さず、歌の輪郭を丁寧に浮かび上がらせる作りになっている[1]。back numberというバンドは、技巧を前面に押し出すよりも「歌」そのものを聴かせることに重心を置いてきたグループだ。この曲でも、Aメロからサビに向かうにつれて音数が少しずつ足されていき、感情の高まりと音の広がりが同期していく構成が丁寧に作り込まれている。
特に印象的なのは、サビでの声の開き方である。それまで抑えられていたボーカルとバンドの音が、サビで一気に伸びていく。この「溜めて、開く」という展開はバラードの定番といえば定番だが、清水依与吏のメロディラインの跳躍と歌声の伸びが噛み合うことで、聴くたびに胸の奥を押し上げられるような高揚感が生まれる。映画の主題歌として書き下ろされた曲であることを思うと、この音の広がり方は、物語の中で長く待ち続けた時間が報われていく瞬間の感情と、自然に重なるように設計されているのだろう[3]。イヤホンで聴くと、静かな箇所での息づかいや、サビ終わりの余韻の残し方まで丁寧に組み立てられていることがわかる。曲としての完成度は高く、これだけでも十分に強い一曲だが、それでも私がこの曲で最も語りたいのは音ではなく言葉の側だ。
「幸せとは何か」という問いに、小さな行為で答える言葉
歌詞をそのまま引用することはしないが、その構造について考えてみたい。この曲の核にあるのは、「幸せとは何か」という、誰もが一度は立ち止まって考える大きな問いである[6][7]。多くのラブソングが「あなたといて幸せだ」と結論から歌い始めるのに対し、「瞬き」はまず問いそのものを差し出す。美しい星空や輝く朝、そうした特別で華やかなものの中に幸せがあるのではないか、と一度は考えてみせる。しかし歌はそこで立ち止まらず、答えを別の方向へと進めていく。
この曲が最終的にたどり着く幸せの姿は、大きな夢を叶えることでも、特別な出来事が起きることでもない。雨が降ってきたときに、大切な人のためにそっと傘を差し出す。そういう、ごく小さな、日常の中に埋もれてしまいそうな行為の中にこそ幸せがある、と歌は静かに言い切る[6][7]。問いは壮大なのに、答えは驚くほど身近で控えめだ。この落差こそが、この歌詞の最大の強さだと感じる。誰かの痛みや不安の傍らに、ただ黙って居続けること。それを幸せと呼べるかどうか。この曲は、そう呼べるのだと、静かに、しかし確かに答えている。
この歌詞が、原因不明の病で長く眠り続けた女性と、その目覚めを待ち続けた男性の実話をもとにした映画の主題歌として書かれたことを思うと、問いと答えの結び方の意味がより深く見えてくる[1][3]。作品の詳細な物語との対応関係を断定することは避けたいが、「特別なことが何も起こらない長い時間」を、それでも傍らで過ごし続けることの重みを、この歌詞は真正面から引き受けている。10代でこの曲を聴いた人が大人になって聴き直すと、受け取り方が変わってくるのはそのためだろう。若い頃には「幸せ=特別な出来事」と感じていた人ほど、年を重ねてから、この曲の答えの静かさが効いてくる。そうした余白の広さこそが、この歌詞を主視点に選んだ理由である。
公式ミュージックビデオが伝える、飾らない距離感
今回確認した公式のミュージックビデオは、タイトルに明記されている通り正規の「Music Video」であり、UNIVERSAL MUSIC JAPANの公式チャンネルで公開されている[5]。派手な演出に頼るのではなく、清水依与吏の歌う姿とバンドの演奏を中心に据え、曲が持つ静かな問いかけの空気を丁寧にすくい取った映像だ。強い物語を映像で語るというより、歌そのものに聴き手の意識を向けさせる作りになっている。
この抑えた演出は、「幸せとは何か」という問いに小さな行為で答えていく歌詞の姿勢と呼応している。大きな出来事を並べ立てるのではなく、静かな時間の重なりの中に大切なものを見つけていく——その曲の在り方に、映像もまた寄り添っている。ただし、映像単体としての物語の起伏や、強い印象を残す演出という点では、曲や歌詞が持つ深さに比べるとやや控えめな作りだとも感じる。公式MVとして誠実に、曲の世界観を壊さずに支えている映像であることは間違いないが、この記事では歌詞の持つ問いの深さを主役に据えたいという判断から、MVの評価は中位に置いている。
特別でない日々の傍らで、静かに効いてくる理由
back numberというバンドは、恋愛の甘さだけでなく、その先にある切なさや別れ、時間の経過そのものを歌にしてきたグループである。「瞬き」は、その資質が「幸せとは何か」という普遍的な問いへと広がった一曲だと言えるだろう[1]。映画の主題歌として多くの人に届き、のちにアルバム『MAGIC』へと引き継がれてなお聴かれ続けているのは、この曲が一度きりのタイアップ曲で終わらず、聴く人それぞれの日常に静かに根を張ったからだと思う[4]。
ここで少し、私自身の話をしたい。私は磐田市で介護と不動産の仕事をしているが、若い頃に東京で働いていた頃は、幸せとは何か特別な出来事を手に入れることだと、どこかで思っていた気がする。磐田に戻り、介護の現場で高齢の方々と接するようになってから、その考えは少しずつ変わっていった。長く連れ添った夫婦の話を伺うと、思い出として語られるのは華やかな出来事よりも、体調を崩した相手の傍らで過ごした時間や、何でもない日々を並んで歩いた記憶であることが多い。誰かの痛みや不安の隣に、ただ黙って居続けること。それがどれほど大きな支えになるかを、現場で何度も見てきた。実家を整理する仕事の中でも、遺された品々の中に、誰かがもう一人の誰かの傍らで積み重ねた時間の跡がそっと残っていることがある。この曲が「幸せとは何か」という問いに、雨の日に傘を差し出すような小さな行為で答えるように、私たちの暮らしの幸せもまた、そうした目立たない一つ一つの傍らの時間でできているのだと思う。そのことを、この曲を聴くたびに思い出す。
「瞬き」は、大きな問いを立てながら、その答えを驚くほど静かな場所に置いた曲だ。だからこそ、何か特別なことが起きているわけではない普通の日に不意に流れてきても、深く効いてくる。派手な言葉を使わず、誰かの傍らにいることの意味を丁寧に描くことで、聴く人それぞれの記憶と重なっていく。そういう曲は、そう多くない。
参考リンク
- [1] 瞬き (back numberの曲) - Wikipedia
- [2] 瞬き[通常盤][CD MAXI] - back number - UNIVERSAL MUSIC JAPAN
- [3] back number、映画『8年越しの花嫁』主題歌書き下ろし 佐藤健「感謝しかありません」 - ORICON NEWS
- [4] MAGIC (back numberのアルバム) - Wikipedia
- [5] back number - 「瞬き」Music Video - YouTube
- [6] back number 瞬き 歌詞 - 歌ネット
- [7] back number「瞬き」歌詞の意味を考察|"幸せとは何か"を問いかける愛の名曲
誰かの傍らで過ごした小さな時間が積み重なって、暮らしの幸せになっていくように、家や土地にもまた、誰かが誰かのために過ごした時間が静かに残っています。
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