誰かに知らせたいことがあるとき、人は声を張り上げるだけでは足りないと感じる瞬間がある。だから鐘を鳴らす。遠くまで届くように、聞こえなかったふりができないように。BONNIE PINKの「鐘を鳴らして」は、タイトルからしてすでに、ただの恋の歌ではないことを予感させる。大石浩之が静岡県磐田市で介護と不動産の仕事をする中で、幾度となく感じてきた「知らせる」という行為の重みと、この曲は静かに響き合う。
リリースの背景――ゲームのために書かれた曲
「鐘を鳴らして」は、BONNIE PINKの24枚目のシングルとして2008年8月6日にリリースされた。作詞・作曲はBONNIE PINK本人、編曲はBurning Chickenが手がけている。この曲には少し珍しい成り立ちがある。まず英語詞のバージョン「Ring A Bell」が、2008年4月16日という彼女の誕生日に配信限定でリリースされ、その約4か月後に日本語版である「鐘を鳴らして」がCDシングルとして届けられた。ひとつの曲が、二つの言語、二つのタイミングで世に出されているのだ。
この曲は、バンダイナムコゲームスのXbox 360用ソフト『テイルズ オブ ヴェスペリア』の日本版主題歌として書き下ろされたと伝えられている。翌2009年には劇場版アニメ『テイルズ オブ ヴェスペリア〜The First Strike〜』の主題歌としても起用され、後年のプレイステーション3版『テイルズ オブ ヴェスペリア』のCMソングとしても使われた。ひとつの楽曲がゲーム、映画、CMという複数の場所で鳴り続けてきたことになる。収録アルバムは主にオリジナルアルバム『ONE』で、オリコンの週間チャートでは9位、登場回数は11回を記録したという情報もある。派手な一位獲得の物語ではないが、静かに長く聴かれ続けてきた曲だということが、この数字から伝わってくる。
曲の魅力――積み上げていく構成の力
この曲の「曲がいい」の核心は、抑制と解放のバランスにある。イントロからいきなり感情を爆発させるタイプの曲ではない。むしろ最初は落ち着いた足取りで始まり、Aメロ、Bメロと進むごとに、少しずつ音の重なりが増え、ボーカルの熱量も上がっていく。この「少しずつ」というのがポイントで、聴き手の中で気づかないうちに期待が育っていく。そしてサビに入った瞬間、それまで積み上げてきたものが一気に開放される。この「開く」感覚は、ゲームや映画の主題歌として求められる機能――プレイヤーや観客の感情を物語のクライマックスへと導く役割――と非常に相性がいい。
BONNIE PINKの声そのものにも触れておきたい。彼女の歌声は、力任せに張り上げるタイプではなく、芯の強さを保ちながらも、どこか風通しのいい抜け感を持っている。だからこの曲は、勇ましいテーマを扱っていながらも、暑苦しくならない。編曲を手がけたBurning Chickenのアレンジも、ギターやリズム隊が曲を前に推し進める一方で、ボーカルの通り道をきちんと空けている印象がある。何度も聴き返すと、1番と2番でわずかに楽器の重なり方が変わっていることに気づく。こうした細かな展開の作り方が、聴くたびに新しい発見を与えてくれる曲の強さにつながっている。
歌詞の考察――誰かのために鳴らす、という決意
歌詞を丸ごと引用することは避けたいが、この曲が描いているものについては少し立ち止まって考えてみたい。「鐘を鳴らす」という行為は、多くの場合、自分のためではなく誰かのために行われる。危険を知らせるため、始まりを告げるため、あるいは離れた場所にいる誰かに「ここにいる」と伝えるため。この曲の歌詞は、恋愛の言葉を使いながらも、その奥に「大切な人のために、迷わず声を上げる」という決意のようなものを感じさせる作りになっている。
タイアップ先である『テイルズ オブ ヴェスペリア』が、男性同士の友情や信頼、それぞれの正義のぶつかり合いを描いた物語だったことを踏まえると、この曲が単なるラブソングとしてではなく、誰かを想って行動を起こす瞬間そのものを歌っていると読むこともできる。歌詞の中の「待つ」という受け身の姿勢から、「鳴らす」という能動的な行為へと切り替わっていく流れは、聴き手それぞれの人生の場面――誰かに連絡を取ろうか迷った夜や、言い出せなかった一言――と静かに重なってくる。説明しすぎない言葉選びだからこそ、聴く側の記憶がそこに入り込む余地が生まれているのだと思う。
大石浩之の記憶と重ねて――「知らせる」ことの重み
東京で働いていた頃、大石は物事を「伝える」仕事に囲まれていた。だが本当の意味で「知らせる」ことの重みを実感したのは、静岡県磐田市に戻り、介護と不動産の仕事に携わるようになってからだったという。介護の現場では、ご家族に体調の変化を伝える電話をかける瞬間がある。深夜であっても、言いにくい内容であっても、鳴らさなければ伝わらない。不動産の仕事でも、実家を離れて暮らす方に「そろそろ空き家の管理について考えませんか」と連絡を差し上げる場面がある。誰かに何かを知らせるという行為は、いつも少しの勇気を必要とする。
この曲を聴くとき、大石はいつも「鐘を鳴らす」という言葉の持つ、静かな覚悟を思い出すという。知らせることは、時に相手の日常に波風を立てることでもある。それでも黙っていることが優しさではない場面が、介護にも不動産にも確かに存在する。サビに向かって音が積み重なっていくこの曲の構成は、そうした「言おうか、言うまいか」という逡巡の末に、ようやく声を上げる瞬間の感情の動きと、どこか似ている。曲を聴き終えたあとに残る静かな余韻は、鐘を鳴らし終えたあとの、少しほっとしたような空気にも通じるものがある。
不動産の相談で印象に残っているのは、何年も空き家のまま放置されていた実家について、ようやくご家族から連絡をいただいたときのことだ。「言い出せなくて、ずるずる時間が経ってしまって」と話される方は少なくない。誰かに相談すること自体が、すでに小さな鐘を鳴らす行為なのだと思う。黙っていれば波風は立たないが、問題も動かない。この曲のサビが持つ、抑えていたものを一気に解き放つような開放感は、そうして重い腰を上げた瞬間の、少し晴れやかな気持ちともよく似ている気がしている。
参考リンク
- [1] 鐘を鳴らして - Wikipedia
- [2] BONNIE PINK 8年ぶりタッグの『テイルズ オブ』シリーズテーマソングを配信リリース | SPICE
- [3] BONNIE PINK 鐘を鳴らして 歌詞 - 歌ネット
- [4] BONNIE PINK - 鐘を鳴らして(YouTube)
誰かに何かを知らせる一言には、いつも小さな勇気が要る。それは音楽の中だけの話ではない。
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