タイトルに「So Wonderful」と書かれた曲を、素直な気持ちで聴ける日は、実はそう多くない。素晴らしいと口にするには、少し勇気がいる。皮肉っぽく聞こえないか、大げさに聞こえないか、心のどこかで身構えてしまうからだ。BONNIE PINKはこの曲で、そんな身構えをふっと外してくる。2005年、デビュー10周年という節目の年に放たれたこの一曲は、飾らずに「素晴らしい」と言い切ってしまう強さを持っている。
10周年の年に届いた、19枚目のシングル
「So Wonderful」は、BONNIE PINKにとって19枚目のシングルとして、2005年8月3日にワーナーミュージック・ジャパンから発売された。前作シングルからは1年以上の間が空いており、デビューから10年という節目の年にリリースされた作品でもある。作詞・作曲はBONNIE PINK自身が手がけ、プロデュースにはスウェーデンのトーレ・ヨハンソンと、若手プロデューサーチーム「Burning Chicken」が参加している。この曲のアレンジはBurning Chickenが担当したと伝えられており、後にアニメ『ガイバー』のエンディングテーマとなった「Cotton Candy」とはまた違う、ロックを基調にしながら80年代シンセサイザーの色を大胆に取り入れたサウンドに仕上がっている。収録アルバムは同年発表の「Golden Tears」で、後年のベストアルバム「Every Single Day -Complete BONNIE PINK (1995-2006)-」にも収められた。10年という長さを一度の休符もなく走り続けてきたアーティストが、次の10年へ踏み出す一歩目に選んだ言葉が「So Wonderful」だったというのは、静かに胸に残る事実だ。
曲の魅力を、音の手触りから見つめる
イントロから、この曲は迷いがない。シンセサイザーの音色が前に出てきて、そこにビートが重なり、あっという間に曲の輪郭が立ち上がる。Aメロでは声の距離感がやや近く、語りかけるようなニュアンスがありながら、Bメロにかけて音数がじわじわと増えていく。そしてサビに入る瞬間、音の重なりが一段階開ける感覚がある。これは、単に音量を上げているのではなく、コード進行そのものが感情を持ち上げているからだろう。BONNIE PINKの声は、力任せに歌い上げるタイプではなく、メロディの起伏に沿って軽やかに乗っていく。だからこそ、シンセの質感が強くても、曲全体が重苦しくならない。1番と2番でアレンジの厚みが微妙に変化し、ラスサビに向けて音像がふくらんでいく構成も丁寧で、繰り返し聴くほどに「どこで音が足されているか」に耳が向くようになる。イヤホンで聴くと、ドラムの輪郭とシンセの残響が別々のレイヤーとして聴こえてきて、何度目かの再生でようやく気づく仕掛けがいくつも隠れている。歌詞の意味を知らなくても、この曲は音だけで十分に人を運んでいける強さを持っている。
言葉が指し示す先にあるもの
歌詞について、丸ごと書き写すことはしない。ただ、この曲が見つめているものについては触れておきたい。「So Wonderful」というタイトルは、劇的な出来事や特別な瞬間だけを指しているわけではないように感じる。むしろ、なんでもない日常の中に、ふと素晴らしさが宿る瞬間を捉えようとしている。誰かと過ごす時間、季節の移ろい、当たり前だと思っていたものが実はかけがえのなかったと気づく瞬間。BONNIE PINKの歌詞は、具体的な情景を細かく描写するタイプではなく、感情の輪郭だけをすっと差し出してくることが多い。この曲でもその傾向は同じで、言い切りすぎない言葉選びが、聴く人それぞれの記憶に余白を残す。10年という時間を歌ってきたアーティストが、あらためて「素晴らしい」と口にするとき、そこには通り過ぎてきた日々への肯定が滲んでいるようにも読める。恋愛の歌としても聴けるし、もっと広く、生きてきた時間そのものへの歌としても聴ける。そういう二重の聴き方ができるところに、この曲の歌詞の強さがある。
公式性が確認しきれない映像と向き合う
今回参照したYouTube動画は、2010年に投稿された音源動画であり、ATAWI MUSICの調査基準に照らして、投稿チャンネルが公式であるという確証は得られなかった。曲のクレジットや配信情報とは別に、ワーナーミュージック・ジャパン提供と明記された音源が別途存在することも確認できたが、それは本記事が参照した動画そのものとは異なる可能性がある。公式MVの有無をはっきりと確認できない以上、MVという項目を主役に据えることは避けたい。もし今後、公式チャンネルによる映像作品が明確に確認できれば、あらためて評価を見直したいと思う。今の時点で言えるのは、この曲は映像に頼らずとも、音と言葉だけで十分に成立している楽曲だということだ。
磐田で聴く「素晴らしい」という言葉
この曲を聴くと、東京で働いていた頃のある夜を思い出す。特別なことが起きたわけではない。仕事帰りの電車で、ただ窓の外を見ていただけの時間だった。それでも、あとになって振り返ると、あの何でもない時間が妙に大切なものとして記憶に残っている。磐田に戻り、介護と不動産の仕事をするようになってから、その感覚はより強くなった。介護の現場では、ご本人やご家族が「昨日と同じ今日」を積み重ねていくことの重みに、何度も立ち会ってきた。不動産の仕事では、長年暮らした実家を手放す決断をされる方に会うことも多い。片づけの途中で見つかる古い写真や、何気ない手紙。そこに写っているのは、当時は特別だと思っていなかったはずの、ごく普通の一日だ。「So Wonderful」というタイトルは、そうした「気づいたときにはもう過ぎている素晴らしさ」を、そっと言い当てているように思う。曲がいいと感じるのも、結局はそのメロディが、当たり前の日々を惜しむ気持ちにちょうど寄り添ってくれるからかもしれない。
実家の片づけに立ち会うたびに思うのは、素晴らしさというのは、その場では気づきにくいものだということだ。毎日の食卓、何気ない会話、季節ごとの行事。渦中にいるときは、それが特別だとは誰も思わない。手放す段になって初めて、その積み重ねの重さに気づかされる。10周年という節目に「So Wonderful」と歌ったBONNIE PINK自身も、きっと駆け抜けてきた日々の中で見過ごしていた何かに、あらためて光を当てたかったのではないかと想像する。過ぎ去ってから輪郭がはっきりする素晴らしさを、あらかじめ言葉にしておく。そういう先回りの優しさが、この曲にはある。
参考リンク
- [1] BONNIE PINK / ボニー・ピンク「So Wonderful」| Warner Music Japan
- [2] So Wonderful - Wikipedia
- [3] Bonnie Pink – So Wonderful – CD (Maxi-Single, Stereo), 2005 | Discogs
何気ない一日を「素晴らしかった」と思えるのは、たいてい後になってからのことだ。
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