事務所から戻る車の中で、ラジオでもなくCDでもなく、息子が見ていた動画の続きが流れてきたことがある。倍、また倍にしていくような跳ねるコールと、若い声が重なる曲だった。あとで調べて、CANDY TUNEというグループの「倍倍FIGHT!」という曲だと知った。7人組のアイドルグループで、KAWAII LAB./ASOBI MUSICというレーベルに所属していると聞いても、正直なところ最初はぴんと来なかった。ただ、繰り返し耳に入ってくるうちに、タイトルの意味だけは妙にはっきりと残った。落ち込んだ分を少しずつ取り戻すのではなく、一気に倍にして跳ね返す。そのくらい思い切った前向きさが、短い動画の中で何度も再生されているらしいということも、あとから知った。仕事で気持ちが沈んだ日に、家に帰って土地の書類を整理しながら、この曲のことをふと思い出す。まっすぐすぎるくらいの元気の出し方を、今の若い世代はこんな形で受け取っているのかと、少し感心しながら聴いている自分がいる。調べてみると、この曲は2024年4月24日に配信リリースされた楽曲で、作詞・作曲・編曲はWiennersの玉屋2060%が手がけたという[1]。リリースから1年近く経った2025年に入ってからTikTokを中心に火がつき、同年3月にミュージックビデオが公開されると、人気曲ランキングで10週連続1位を記録するに至った[2][6]。さらに同年7月には日清食品「シーフードヌードル」のCMに替え歌「夏夏SEAFOOD!」として起用され、12月には第67回日本レコード大賞で優秀作品賞を受賞、大晦日の第76回NHK紅白歌合戦にはグループ初出場でトップバッターとして「倍倍FIGHT!」を披露した[7][8]。一つの曲が一年近くかけて、じわじわと社会全体に届いていく。そういう時間のかかり方があるのだと、この曲の経緯を知って初めて実感した。
2〜3時間の人生相談から生まれた言葉
「倍倍FIGHT!」は、2024年4月24日に配信でリリースされた楽曲である[1]。作詞・作曲・編曲を手がけたのは、Wiennersのボーカルとしても活動する玉屋2060%だ[1]。日経クロストレンドの取材によれば、玉屋2060%はメンバーの普段の考えをリサーチし、それを曲に生かす作り方をしているという[4]。この曲についても、メンバーのモデルプレスの取材で、福山梨乃が「玉屋さんと2時間、3時間ぐらい人生相談をした」ことをきっかけに生まれた曲だと語っている[3]。1周年を控えた時期、様々な困難に直面していたメンバーの本音を聞き取り、そのアンサーとして書かれたのが、この曲だったということになる。応援ソングというと、悩みなど最初からなかったかのように前だけを向く歌詞になりがちだが、この曲はそうなっていない。歌詞には「本音と建前ない私 なりたい 在りたい けどだけど…」という一節があり、なりたい自分と、けどだけど、と踏みとどまる自分が同じ行の中に同居している[4]。強がりだけの言葉なら、ここまで長く聴かれ続けなかったのではないか。迷いを隠さずに書いてしまえるのは、その迷いをまず玉屋2060%が受け止めて、否定せずに曲に変換したからだろう。福山梨乃自身、「最初は私達自身を鼓舞する曲として、ライブ毎に、泣きそうになるぐらいたくさん励まされてきた」と振り返っている[3]。作り手が聴き手である前に、まずメンバー自身がいちばんの聴き手だったという順番が、この歌詞の説得力を支えているように思う。
倍にして跳ね返す、という発想の強さ
この曲の歌詞を丸ごと引くことはしないが、そのかわりに「倍倍」という言葉の発想について考えてみたい。落ち込んだ分を、同じだけ取り戻すのではなく、倍にして跳ね返す。マイナスを引き算で埋めるのではなく、掛け算で押し返すという発想には、こつこつ積み上げる誠実さとは少し違う、勢いの強さがある。しかも、その勢いは根拠のない空元気ではなく、迷いや弱さを一度言葉にしたうえでの跳ね返しだから、聞いていて嘘くさくならない。福山梨乃のコメントにあるように、この曲はまずメンバー自身のための曲として生まれ、その後「日本全国・世界中の皆さんを元気にできるような応援ソングとして」多くの人に届くものへと役割を広げていった[3]。この順番の変化そのものが、歌詞の強さを裏づけている気がする。最初から誰かを励ますために書かれた言葉より、まず自分たちのために書かれ、結果として他人にも届いた言葉のほうが、届いたときの重みが違う。仕事で気持ちが沈んだときや、家や土地の相談で気の重い書類と向き合っているとき、理屈で自分を励まそうとしてもうまくいかないことが多い。そういうとき、単純だけれど迷いを隠さない言葉のほうが、案外すっと入ってくる。「倍倍FIGHT!」というタイトルの一言に、そうした強さが凝縮されているように感じる。
裏拍とマーチが運ぶ、テレビ的な起承転結
音の作りについても、確認できた範囲で触れておきたい。日経クロストレンドの取材で、玉屋2060%はこの曲について、80年代ユーロビートを基調にしながら、意識的に裏拍を混ぜていると説明している[4]。表拍だけだと日本的な響きになるが、裏拍を混ぜることで洋楽的なダンスミュージック感が出る、という趣旨のコメントだ[4]。さらに曲の終盤では転調してマーチのリズムに変化させることで、テレビ番組のような起承転結を作っているという[4]。実際に聴いてみると、前半のダンサブルな高揚感とは違う足取りが後半に生まれ、それまでの言葉を一度まとめ直すような感触がある。「険しい道も共に歩むんだ」というくだりが、この転調のあとに置かれているとすれば、音の変化と言葉の変化が呼応する形で、曲全体の着地点を作っていることになる[4]。テンポが速く、コールを挟みやすい作りになっている点も、TikTokでの広がり方と無関係ではないだろう。じっと座って聴く曲というより、体を動かしながら誰かと声を合わせるための曲として設計されている。曲がいいという項目でも星4は十分につく作り込みだと思うが、80年代ユーロビートというフォーマットの中での工夫という側面が強く、歌詞が持つ生々しさと比べると、主視点として選ぶにはもう一歩型を破る驚きがほしいというのが正直なところだ。
ダンスから始まったMVと、1年越しの結実
公式ミュージックビデオは、リリースからおよそ1年後の2025年3月に公開された[2]。所属レーベルの発表によれば、このMVは「メンバーのアイデアをきっかけにTikTokで話題となった、縦一列でメンバーが左右に飛び出す印象的なダンス」から始まり、外国人やギャル、子どもたちなど様々な人が登場して、メンバーがみんなを応援し元気づけていく構成になっているという[5]。もともとTikTokの短い動画の中でメンバー自身が生み出したダンスの型が、そのままMVの入り口に採用されている点が興味深い。作り手が一方的に演出を決めるのではなく、ファンやメンバーが日々の投稿の中で育てていった動きを、あとから公式映像が拾い上げていったという順番になる。公開後、このMVはTikTokでの人気曲ランキングで10週連続1位という記録につながり、2025年12月26日時点で再生回数は3100万回を超えたと伝えられている[2][6]。同じ年の7月には、日清食品「シーフードヌードル」のCMで「夏夏SEAFOOD!」という替え歌が使われ、吉田沙保里が出演したことでも話題になった[9]。12月には第67回日本レコード大賞で優秀作品賞を受賞し、大晦日の第76回NHK紅白歌合戦にはCANDY TUNE初出場、しかもトップバッターとして「倍倍FIGHT!」を歌い、先輩グループのFRUITS ZIPPERへマイクを渡してハイタッチでバトンを引き継いだ[7][8]。ただし、MV単体を映像作品として見た場合、色彩や演出の作家性を強く打ち出すタイプの映像というより、ダンス動画の延長線上にある構成という印象が強い。曲や歌詞が持つ生々しい迷いの部分を、映像がそこまで深く掘り下げているわけではない。だからこそMVは十分に魅力的でありながら、主視点として選ぶには歌詞や曲の強さに一歩譲る、というのが今回の評価になった。
2年7ヶ月ぶりの一枚に刻まれた足跡
「倍倍FIGHT!」は、CANDY TUNEにとって2025年10月1日に発売された1stフルアルバム『倍倍FIGHT!』のタイトル曲でもある[6]。KAWAII LAB./ASOBI MUSICから発売されたこのアルバムには、既発のシングルや配信限定曲、新しく録り下ろした楽曲を含めて全14曲が収められている[6]。CANDY TUNEは2022年10月からのオーディションを経て2023年3月14日にデビューした7人組で、福山梨乃、小川奈々子、村川緋杏、南なつ、立花琴未、宮野静、桐原美月というメンバー構成、事務所はアソビシステム、プロデューサーは木村ミサが務めている[10]。デビューから2年7ヶ月というタイミングで、ようやく1枚のフィジカルアルバムという形にまとまった。何年もかけて積み重ねてきたものを一つの形に束ねる、その中心に「倍倍FIGHT!」という曲が置かれていることは、単なる話題性のためというより、このグループの歩みそのものを象徴する選択だったのだろうと思う。長く働いてきた末に一つの区切りを迎えるという感覚は、業種は違っても、自分にも覚えのあるものだ。派手な転機というより、地道な積み重ねの先にふと訪れる節目のほうが、実感には近い。既に発表されていた曲と新しく録り下ろした曲を並べて一枚にまとめる作業は、それまでの歩みを一度棚卸しするような作業でもあったのではないか。ちょうど、家や土地の相続の相談で、これまで積み上げてきた書類や記憶を一度すべて並べ直してから、次の一歩を決めるのに似ている気がする。
磐田で受け取る、まっすぐな元気
磐田に戻り、家や土地の相談を受けていると、複雑な事情を抱えた方々にこそ、シンプルで前向きな言葉が力になる場面によく出会う。相続や空き家の話は、理屈だけでは前に進まないことが多い。最後に背中を押すのは、たいてい単純な一言だ。ただ、この曲を調べて分かったのは、その単純さの裏に、迷いを隠さない時間があったということだ。「倍倍FIGHT!」というタイトルが体現する、まっすぐな元気の出し方は、迷いを消してしまう強さではなく、迷いごと抱えて前に出る強さなのだと思う。息子たちが夢中になっている曲を、自分なりの記憶と結びつけながら聴くたびに、パワーが本当に倍になっていくような気がする瞬間がある。若い世代の音楽に触れることは、自分の中に眠っていたまっすぐさを、思い出させてくれる作業でもあるのかもしれない。家の裏の畑で草を刈りながら、ふとこの曲のフレーズを口ずさんでいることがある。土地に根を張って生きていく暮らしと、テンポの速い今どきの曲は、一見遠いようでいて、案外どこかでつながっているのかもしれない。次に息子の動画からこの曲が流れてきたときは、意味もなく一緒に手を叩いてみようと思っている。この土地で商売を続けていくということは、派手な成果よりも、日々の小さな信頼を積み重ねていくことに近い。倍にも三倍にもならない、地道な仕事の連続だ。それでも、たまにこうして若い世代のまっすぐな曲に触れると、自分が積み重ねてきたものの意味を、少し違う角度から見直せるような気がする。家族と暮らすこの土地で、仕事に迷いを感じたときには、また「倍倍FIGHT!」を思い出すかもしれない。理屈ではなく、まず一歩踏み出す強さを、この曲から借りることになりそうな気がしている。
参考リンク
- [1] 玉屋2060%(Wienners) X投稿 - 「倍倍FIGHT!」作詞作曲編曲クレジット
- [2] CANDY TUNE、ポジティブソング「倍倍FIGHT!」がTikTok楽曲チャート1位獲得 - ORICON NEWS
- [3] CANDY TUNE、"倍倍FIGHT!"は「私達自身を鼓舞する曲」楽曲誕生秘話明かす【第67回輝く!日本レコード大賞】 - モデルプレス
- [4] 25年に大バズり!応援ソング『倍倍FIGHT!』の歌詞とリズムの作り方 - 日経クロストレンド
- [5] CANDY TUNE、TikTokで話題の楽曲「倍倍FIGHT!」のミュージックビデオを公開! - PR TIMES(アソビシステム株式会社)
- [6] CANDY TUNE OFFICIAL WEBSITE - 1stフルアルバム『倍倍FIGHT!』アートワーク&収録曲情報
- [7] 【紅白本番】CANDY TUNE、トップバッターで「倍倍FIGHT!」披露 FRUITS ZIPPERにマイク渡しバトンタッチ - モデルプレス
- [8] CANDY TUNE「レコ大」優秀作品賞までの下積み時代回顧 - エキサイトニュース
- [9] この夏、最強CM説?シーフードヌードル新CMで、吉田沙保里がイカ風船割りに挑む - Advertimes
- [10] CANDY TUNE - Wikipedia
- [11] 【MV】CANDY TUNE「倍倍FIGHT!」(KAWAII LAB.公式)
迷いを隠さずに前へ出るこの曲のように、家や土地の相談にも、すぐには言葉にしにくい迷いが伴うことがあります。
静岡県磐田市周辺で、相続した実家・空き家・土地建物の整理にお悩みの方は、富士ヶ丘サービスまでご相談ください。