子どもの頃、誰もが一度は、自分は特別な存在だと信じていた時期があったのではないかと思います。「かつて天才だった俺たちへ」というタイトルは、そういう、まだ何者にもなっていなかった頃の全能感と、大人になって現実を知った今の自分との、埋めがたい距離を突きつけてきます。けれどこの曲は、その距離を悲観するのではなく、むしろユーモアと自嘲を交えながら、笑い飛ばしてしまう強さを持っています。かつての天才だった自分へ語りかけるという構図は、過去の自分を否定するのではなく、あの頃の勢いや無邪気さを、今の自分の中にもう一度呼び覚まそうとする試みなのだと感じます。
自粛期間を経て形になった作品
「かつて天才だった俺たちへ」は、2020年8月26日にリリースされたCreepy Nutsの2ndミニアルバムのタイトル曲です。このアルバムは、新型コロナウイルスの緊急事態宣言下で制作が進められ、自粛期間が明けたあとに、ようやく形になった作品でした。すでに配信限定シングルとして発表されていた「おとな」や「ちるとらべる」も収録され、内容の充実したミニアルバムとなっています。
外出もままならない自粛生活の中で、内省を深める時間が多くあったことが、このアルバムの濃密な内容に結びついたのだと考えられます。かつての自分と向き合う時間は、皮肉にも、誰もが強制的に立ち止まらされたあの時期だからこそ生まれたのかもしれません。
過去の自分への、まなざし
東京で働いていた頃、若い頃に抱いていた大きな夢と、現実の日々の業務との落差を、何度も感じてきました。学生時代には何にでもなれる気がしていたのに、社会に出てからは、決められた枠組みの中で、少しずつ現実的な選択を重ねていく。そういう過程で、かつての自分の無邪気な自信は、少しずつ削られていきました。この曲が投げかける「かつて天才だった俺たちへ」という呼びかけは、そうした削られてきた部分を、あらためて見つめ直させてくれます。
過去の自分を、恥ずかしいものとして切り捨てるのではなく、今の自分にはない何かを持っていた存在として、あらためて敬意を払う。この曲が持つ視点は、単なる懐古趣味ではなく、今を生きるためのエネルギーを、過去から汲み上げる作業のように感じられます。
磐田で振り返る、かつての天才たち
磐田で家や土地の相談を受けていると、若い頃に抱いていた夢や、家族への理想と、実際にたどってきた人生との落差に向き合う方々に、よくお会いします。それでも、かつて描いていた理想があったからこそ、今の自分がある。過去の自分を否定せず、その延長線上に今の自分を位置づけることができたとき、人は初めて、これからの一歩を軽やかに踏み出せるのだと感じます。
「かつて天才だった俺たちへ」という言葉を、自分自身にも、そして相談に来られる方々にも、時々投げかけたくなります。あの頃の勢いを、そのまま取り戻すことはできなくても、あの頃があったからこそ今があるのだと、あらためて思い出させてくれる1曲です。
ATAWI MUSICは、音楽を消費するサイトではありません。曲をきっかけに、かつての自分と向き合ってきた記憶を読み直す場所です。
