ページ作成日: 2026年7月3日
元にしたYouTubeリンク: https://youtu.be/AYhxRUJxQYM
確認した動画: 未来予想図Ⅱ(DREAMS COME TRUE - Topic / 公式系チャンネル)

白状します。ブレーキランプを5回点滅させる、あの「ア・イ・シ・テ・ル」のサインを、私は何度やったか分かりません。夜、助手席に大切な人を乗せて、家の前で降ろしたあと、走り出す前にブレーキを5回。相手がバックミラー越しに気づいてくれたかどうかは、正直なところ、分からないままの夜も多かったと思います。それでもやらずにいられなかったのは、この曲が、言葉にできない気持ちの伝え方を、若い自分にひとつ教えてくれていたからです。「未来予想図Ⅱ」は、恋人たちの合図の歌であると同時に、かつて思い描いた未来と、実際にたどり着いた現在とを見比べる歌でもあります。若い頃はサインの場面ばかりを聴いていましたが、今聴くと、思い描いていた通りかどうかを確かめる、あの静かなまなざしの方に心が動きます。予想図を描いた側から、予想図を答え合わせする側へ。聴き手の人生の進み方に合わせて、聴こえる場所が変わっていく曲です。

ブレーキランプを5回、点滅させた夜

あの頃の車は、今の車のように何でも自動ではありませんでした。だからこそ、ブレーキを踏むという単純な動作が、そのまま気持ちの表現になり得たのだと思います。相手の家の前の、街灯がひとつだけの暗い道。エンジンをかけたまま、ルームミラーの中で玄関の明かりがつくのを確かめて、それからゆっくり5回。文字にすると気恥ずかしいものですが、当時は真剣そのものでした。言葉で「好きだ」と言うより、あの赤い光の方が、よほど素直だった気がします。

考えてみれば、あの時代の恋愛は、伝わったかどうかを確かめる手段がほとんどありませんでした。携帯電話もメールもなく、家の電話にかければ家族が出る。だから、サインを送ったあとの帰り道は、伝わっただろうかという不安と、伝わっていたらいいなという期待を、ひとりで抱えて走るしかありませんでした。あの宙ぶらりんの時間こそが、恋のいちばん濃い部分だったと、今なら思います。すぐに既読がつく時代の便利さと引き換えに、ああいう時間は失われました。この曲を聴くと、確かめられないまま持ち帰った気持ちの重さを、手のひらに思い出します。

アルバムの最後に置かれた7分19秒

「未来予想図Ⅱ」は、1989年11月にリリースされたDREAMS COME TRUEの2ndアルバム『LOVE GOES ON…』の10曲目、つまりアルバムの最後に置かれた曲です。作詞作曲は吉田美和、編曲は中村正人。シングルとして切られた曲ではないのに、いつのまにかグループを代表する1曲になりました。曲の長さは7分19秒。DREAMS COME TRUEの楽曲の中でも最長の部類で、ポップスとしては異例の長さです。それでも長いと感じさせないのは、この曲が3分のシングルではなく、ひとつの物語として書かれているからだと思います。

デビューから間もない時期に、20代の吉田美和が、何年も先の未来を答え合わせする歌を書いていた。この事実には、あらためて驚かされます。ふつう、若い頃に書く歌は「これからどうなるだろう」という未来への問いになりがちですが、この曲は最初から「あの頃描いた通りになった」という回想の形を取っています。未来を先取りして懐かしむという、時間の折りたたみ方。この構造があるからこそ、聴き手が実際に歳月を重ねたとき、曲の中の視点と自分の視点がぴたりと重なるのだと思います。

この曲はその後も長く生き続けました。2007年には、この曲の世界観をもとにした映画『未来予想図 〜ア・イ・シ・テ・ルのサイン〜』が作られ、主題歌として再び流れました。歌の中のワンシーンだったサインが、20年近く経って映画一本の題名になる。1曲のバラードが世代を越えて物語を生み続けた例として、日本のポップスの中でも際立った存在だと思います。

予想図の、その後

この曲を聴きながら、ふと考えます。あの夜、ブレーキランプのサインを送っていた自分は、どんな未来予想図を描いていたのだろうと。おそらく、東京で働き続ける自分や、誰かと築く家庭を、ぼんやりと思い描いていたはずです。実際の人生は、予想図の通りには進みませんでした。東京を離れ、磐田に戻り、今は家や土地の相談を受ける仕事をしています。描いた通りではなかったけれど、そのことを悔いているわけでもありません。予想図とは、そのとおりに実現させるための設計図ではなく、あの頃の自分が何を大切にしたかったかの記録なのだと、今は思います。

磐田で相続や空き家の相談を受けていると、ご夫婦の長い時間の話をうかがう機会がよくあります。この家を建てたとき、子どもが生まれたとき、どんな未来を思い描いていたか。話してくださる内容は、まさにそれぞれの家の「未来予想図」の答え合わせです。予想通りだった部分と、予想もしなかった部分。どちらの話をされるときも、皆さんどこか誇らしそうに見えます。思い描いた未来をそのまま生きられた人は多くありませんが、描いたことそのものが、その後の時間を支えていた。そういう話を聞くたびに、この曲の本当の主題は、サインでも再会でもなく、未来を思い描くという行為そのものへの祝福なのだと感じます。ブレーキランプを5回点滅させていたあの夜の自分に、悪くない未来だったよと、伝えてやりたくなります。

ATAWI MUSICは、音楽を消費するサイトではありません。曲をきっかけに、かつて描いた未来予想図と、たどり着いた現在を読み直す場所です。