ジェニーハイは、BSスカパー!のバラエティ番組「BAZOOKA!!!」の企画として2017年に始動した、異色の顔ぶれによるバンドだ。ギターとプロデュースを担うのはindigo la End・ゲスの極み乙女。の川谷絵音、ボーカルとギターはロックバンドtricotの中嶋イッキュウ、キーボードには現代音楽の作曲家・新垣隆、そしてドラムに吉本新喜劇元座長の小籔千豊、ベースにお笑いコンビ「野性爆弾」のくっきー!という、音楽家とお笑い芸人が混在する編成である。バンド名は、川谷が提案した「天才」を意味する仏語「ジェニー」を小籔が固辞し、「天才を超えよう」の意味を込めて「ジェニーハイ」に落ち着いたと伝えられている。2018年3月16日に配信限定シングルとして発表された「片目で異常に恋してる」は、このユニークな編成が世に放った最初の一曲だ。
お笑いと音楽が交差する、異色のデビュー
ジェニーハイの成り立ちは、通常のバンド結成の経緯とは大きく異なる。テレビのバラエティ番組の企画として始まったこのプロジェクトは、当初は話題作りのための一発企画として受け止められても不思議はなかった。しかし、川谷絵音というヒットメーカーがプロデュースを担い、中嶋イッキュウの歌声、新垣隆の演奏技術という確かな音楽的裏付けを持ちながら、小籔千豊とくっきー!というお笑い芸人がリズム隊を担うという構成は、単なる企画バンドの域を超えた仕上がりを見せた。音楽家とお笑い芸人という本来であれば交わることの少ない二つの世界の人間が一つのバンドとして音を鳴らすという試みで、話題性だけで終わってしまうプロジェクトも少なくない中、ジェニーハイがデビュー曲からこれほどの完成度を示せたのは、それぞれのメンバーが自分の持ち場に誠実であり続けたからだろう。川谷絵音は作家性を、新垣隆は演奏技術を、そして小籔千豊とくっきー!は「笑いに逃げない演奏」という覚悟を、それぞれ持ち寄っている。異なる畑から集まった者たちが互いの領分を侵さず、それぞれの強みを発揮し合うことで、単なる企画を超えた音楽が生まれた。この曲を聴くと、異質な者同士が手を組むことの難しさと、それでも生まれ得る豊かさの両方を実感する。
片目で見る恋の、危うい甘さ
歌詞を丸ごと引用することは避けるが、「片目で異常に恋してる」というタイトルが指しているのは、相手のすべてを見ようとせず、都合の良い一部分だけを見つめて恋をしてしまう心理だと考えられる。ファンの間でも、この曲が「嫌われることへの恐怖からの自己防衛」や「理想化していた相手を両目で見ることで気づく現実とのギャップ」を描いているという解釈がなされている。恋愛において、人は時に相手の欠点や複雑さから目を逸らし、見たいものだけを見てしまう。その危うい甘さと、それがいつか崩れる予感を、「片目」という具体的な比喩で切り取った言葉選びの巧みさに、この曲の芯がある。
笑いなしの、本格志向のサウンド
音楽メディアMikikiのレビューでは、この曲のサウンドについて「意外とスマート、意外と美しい」という評価がなされている。川谷絵音によるキャッチーな美メロに、新垣隆の流麗なピアノが彩りを添え、小籔千豊とくっきー!が担うリズム隊は、お笑い芸人らしい茶化しを一切見せない本格志向の演奏に徹しているという。中嶋イッキュウが艶っぽく歌い上げるパートと、川谷・イッキュウによるラップ的なパートが混在する構成も、この曲の聴きどころの一つだ。異色の面々が集まりながらも、カオスに陥ることなく統一感のあるサウンドを作り上げた点が、当時大きな話題を呼んだ。
デビュー曲としての意味
この曲は、後に2018年10月17日発売のメジャーデビュー作となるミニアルバム『ジェニーハイ』にもつながる、バンドの出発点に位置する楽曲だ。テレビ企画から生まれたバンドが、単発の話題で終わることなく、その後『ジェニーハイストーリー』(2019年)、『ジェニースター』(2021年)、『ジェニークラシック』(2023年)とアルバムを重ねていったことを思えば、このデビュー曲が持っていた完成度の高さが、その後の継続的な活動を支える土台になったのだと理解できる。2025年に活動休止が発表されるまでの約7年間、このバンドが真摯に音楽と向き合い続けてきた軌跡の、まさに始まりの一曲である。
見たいものだけを見てしまう、私たちの恋
東京で働いていた頃、好きになった相手の良い面ばかりを見て、都合の悪い部分から目を逸らしていた時期がある。片目で見ていた恋は、いずれ両目で現実を見る瞬間が訪れる。その瞬間、理想は崩れるかもしれないが、同時にようやく本当の相手と向き合えるようになるのかもしれない。この曲を聴くと、恋愛の危うさと同時に、そこから一歩進むための痛みの必要性を思い出す。相続や実家の整理に関わる仕事をしていると、家族の間で「見たいものだけを見て、見たくないものから目を逸らしてきた」結果、後になって大きな問題として表面化する場面によく出会う。片目で見ていた家族の関係も、両目でしっかり見つめ直すことで、初めて本当の解決につながることが多い。「片目で異常に恋してる」というタイトルは、恋愛だけでなく、人間関係全般に通じる普遍的な警句のようにも聴こえてくる。見たいものだけを見て済ませられるうちは楽かもしれないが、片目を閉じたままでいる限り、目の前にあるものの本当の姿には決してたどり着けない。この曲が突きつけてくるのは、そういう厳しくも大切な問いなのだと思う。
参考リンク
- [1] ジェニーハイ - Wikipedia
- [2] ジェニーハイ プロフィール | Warner Music Japan
- [3] ジェニーハイ「片目で異常に恋してる」レビュー | Mikiki by TOWER RECORDS
- [4] MV公開ニュース | Warner Music Japan
片目で見ていたものを両目で見つめ直す勇気が大切なように、家や土地の問題にも、しっかり向き合うことで見えてくる答えがあります。
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