「Feel Like dance」は、小室哲哉・KEIKO・MARK PANTHERの3人によるユニットglobeが、1995年8月9日に放ったデビューシングルである[1]。オリコン週間チャートでは初登場6位から最高3位まで浮上し、最終的に95万枚を超えるセールスを記録して日本レコード協会のダブルプラチナ認定を受けた[1]。フジテレビ系ドラマ「ひとりにしないで」の主題歌としてお茶の間に流れたこの曲は、後の「DEPARTURES」や「FACE」につながるglobeというプロジェクトの、まさに出発点にあたる一曲である。作詞・作曲・編曲のすべてを小室哲哉が手がけ、プロデュースも兼任した[1]。小室自身がnoteで振り返っているところによれば、この曲はレオ・セイヤーの「You Make Me Feel Like Dancing」から着想を得ており、文法的には「Feeling Like dancing」が正しいところをあえて「Feel Like dance」という響き優先のタイトルにしたのだという[2]。当時はtrfやH Jungle with t(篠原涼子とのユニット)が立て続けにヒットを飛ばしていた時期で、globeもまた「売れて当然」という重圧の中でスタートを切ったユニットだった[2]。そういう背景を知ってから聴き直すと、この曲の持つ推進力の強さが、単なる勢いではなく、相当な計算のもとに組み立てられたものだと実感できる。
デビュー曲にして完成形だった、小室哲哉のサウンドメイク
「Feel Like dance」を初めて聴いたとき、多くの人が驚いたのはその完成度の高さだったのではないか。新人ユニットのデビュー曲というと、荒削りな勢いや実験的な手探り感が残っているものも少なくない。ところがこの曲には、そうした未完成さがほとんど見当たらない。イントロで印象的に鳴らされるピアノのフレーズが、聴き手の耳を一瞬で引き寄せる。そこから曲が走り出すと、当時のダンスミュージックのトレンドを踏まえたビートが敷かれ、KEIKOの伸びやかな歌声がその上に乗る。サビに向かうにつれて音数が増え、高揚感が積み上がっていく作りは、小室哲哉がTMNやTRFで培ってきたノウハウの集大成のようにも聴こえる。特筆すべきは、MARK PANTHERのラップパートの配置だ。当時の日本のポップスにおいて、ラップとメロディが対等な立場でパートを分け合う曲は決して多くなかった。この曲では、MARK PANTHERの語りが単なる合いの手ではなく、曲の物語を前に進める役割を明確に担っている。KEIKOの歌、MARK PANTHERのラップ、そして小室哲哉自身も曲中で声を重ねる場面がある。3人がそれぞれ違う声質・役割でひとつの曲を作り上げていくという構造そのものが、後のglobeというプロジェクトの設計思想を先取りしている。編曲面では、当時流行していたユーロビート的な軽さと、もう少し落ち着いたR&B的な質感がバランスよく同居している点も見逃せない。派手なシンセの音色が耳を引く一方で、曲全体の骨格はシンプルで、繰り返し聴いても飽きさせない。イントロからサビ、間奏、ラストサビへと展開していく流れの中に、音数を意図的に引く瞬間があり、そこでまた歌とラップの掛け合いが際立つ。派手さと緻密さが両立しているというのが、この曲の音楽的な強みだと思う。デビュー曲でここまで完成されたフォーマットを提示できたからこそ、globeはその後「DEPARTURES」でミリオンを超えるヒットを生み出し、1997年のアルバム「globe」で400万枚を超える売り上げを記録するところまで駆け上がることができたのだろう[1]。すべての起点は、このデビュー曲の中にすでに詰まっていた。
漢字の多い歌詞が描いた、働く女性の解放感
歌詞に丸ごと触れることはしないが、小室哲哉自身が語っているテーマ設定は非常に興味深い。彼はnoteで、この曲を「厳しい社会の中で働く女性が、仕事を終えて自由になったときの感情」を描くつもりで書いたと明かしている[2]。ドラマ「ひとりにしないで」の主題歌という文脈もあり、恋愛だけに閉じない、もう少し広い意味での「解放」がテーマになっているのが特徴だ。もうひとつ興味深いのは、言葉選びの背景である。小室哲哉は当時、Mr.Childrenの桜井和寿が四字熟語を歌詞に取り入れていたことに刺激を受け、globeの歌詞でもあえて漢字の使用率を高める方向で書いたと振り返っている[2]。ダンスミュージックというと、どちらかというとカタカナや平易な言葉が並びがちなジャンルだが、この曲はそこに硬質な漢字表現を混ぜ込むことで、単なる享楽的なダンスチューンとは違う手触りを持つに至っている。斜に構えた視点で人生の全部を見てきた大人の女性が、それでも「踊るように生きたい」という気持ちを捨てていない、というアンビバレントな感情が、この歌詞の芯にあるように思える。仕事に疲れた自分と、それでも前を向きたい自分。その二つが同居する瞬間を切り取っているからこそ、単なる恋愛ソングにも、単なるダンスアンセムにも回収されない奥行きが生まれている。タイトルの文法的な崩し方も含めて、言葉に対する小室哲哉なりの美意識が随所に表れている歌詞だと感じる。
顔を出さなかった時代のMVと、その後のリメイク
この曲を語るうえで欠かせないのが、デビュー当時のglobeが「メンバーの素顔を積極的に見せない」というスタンスを取っていたという事実だ。オリジナルのプロモーションビデオはCGを中心とした映像で構成されており、小室哲哉・KEIKO・MARK PANTHERの姿がそのまま前面に出る作りではなかった。当時の音楽シーンにおいて、これは決して一般的な戦略ではない。顔を出さずに音楽だけで勝負するという姿勢は、ある意味でリスクの高い賭けだったはずだ。しかし結果としてこの曲は大ヒットし、globeというユニット名そのものがブランドとして定着していった。のちにこの方針は転換され、実写のライブ映像を用いたバージョンへと変化していく。さらに時代が下って公開された「Remode 2」版のミュージックビデオでは、デビュー当時の小室哲哉とMARK PANTHERの貴重な映像に、新しい素材を織り交ぜる構成が取られている[3]。つまりこの曲のMVは、一つの完成形として最初から存在していたわけではなく、globeというプロジェクトの見え方の変化そのものを映す記録になっている。今回確認した公式YouTubeの映像を含め、初期の映像表現は決して情報量が多いわけではないが、あえて顔を隠していた時代のドキュメントとして見ると、これはこれで独特の緊張感を持っている。曲の完成度の高さに比べると、映像単体の演出としての踏み込みはやや控えめに見える瞬間もあり、主視点として選ぶには一歩譲るというのが正直な感想だ。とはいえ、顔を見せないという選択をした新人ユニットが、その後音楽だけでここまでの支持を得ていった経緯を知ってから見返すと、素っ気なく見えていた映像の意味合いが変わってくる。
参考リンク
- [1] Feel Like dance - Wikipedia
- [2] 【globe】Feel Like dance〜女性が仕事を終えて自由になったときの感情を書きたかった(小室哲哉 TK Friday#56)|TETSUYA KOMURO STUDIO
- [3] 「Feel Like dance」新MVも、globeリメイク集全曲試聴 - 音楽ナタリー
デビュー曲がその後のすべての起点になるように、家や土地にも、はじまりの記憶が刻まれています。
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