ページ作成日: 2026年7月5日
元にしたYouTubeリンク: https://www.youtube.com/watch?v=36ydeA9sSYM
確認した動画: globe / Get Wild(globe Official YouTubeチャンネル)

「Get Wild」は、もともとTM NETWORKが1987年4月8日に発表した10thシングルである。作詞は小室みつ子、作曲・編曲は小室哲哉。テレビアニメ「シティーハンター」のエンディングテーマとして書かれた曲で、TM NETWORK初のオリコンTOP10入りを果たし、グループの代表曲となった[1]。2023年には日本記念日協会によって4月8日が「Get Wild の日」として認定されている[1]。この記事で取り上げるのは、その「Get Wild」を、小室哲哉自身が在籍するもう一つのユニットglobeで歌ったバージョンである。globeは2008年8月31日、味の素スタジアムで行われた「a-nation'08」のステージでこの曲を披露した[2]。この時点でglobeは本来11月26日にシングルとして正式リリースする予定だったが、同年11月4日に小室哲哉が逮捕されたことにより、シングル発売そのものが中止となった経緯がある[3][4]。音源としては、2010年9月29日発売のベストアルバム『15YEARS -BEST HIT SELECTION-』で初めて正式収録され、その後2016年8月3日発売の自己再構築アルバム『Remode 2』にも新たなアレンジで「GET WILD」として収められている[5][6]。今回確認した公式YouTube動画は、globe公式チャンネルに掲載された「globe / Get Wild」というタイトルの映像で、a-nation'08のステージパフォーマンスを収めたものである。

大石セレクション:曲がいい ★★★★★

  • 曲がいい:★★★★★
  • 歌詞がいい:★★★★☆
  • MVがいい:★★★☆☆

選定理由:この曲の骨格そのものが、小室哲哉が作った中でも屈指の強度を持っている。TM NETWORK版で聴いても、globe版で聴いても、あのイントロのシンセと畳みかけるビートが鳴った瞬間に空気が変わる。歌詞の緊迫感も強いが、それは元々小室みつ子の言葉の力であり、globeが新たに獲得したものではない。MVについても、今回確認できたのはスタジオ収録の公式ミュージックビデオではなく、a-nation'08のライブ映像である。ライブとしての熱量は十分に伝わるが、映像表現・演出という観点では主視点にするには物足りない。以上を踏まえ、作曲そのものの強さと、それを別ユニットが歌うことで浮かび上がる構造の面白さを語れる「曲がいい」を主視点に置いた。

小室哲哉が、小室哲哉の曲を歌うということ

「Get Wild」という曲を語るとき、まず立ち止まって考えたいのは、これがカバー曲でありながら、作曲者自身が歌っているという特殊な構造だ。通常、ある曲を別のアーティストがカバーするとき、そこには「原曲をどう解釈するか」という他者の視点が入る。だがglobeの「Get Wild」には、その他者性がない。小室哲哉は、TM NETWORKのメンバーとしてこの曲を書き、そして十数年後、globeのメンバーとして同じ曲を再び歌台に乗せている。これは解釈ではなく、自分の作品を、違う器で鳴らし直す作業に近い。TM NETWORK版の「Get Wild」は、宇都宮隆のボーカルによる都会的で少しクールな質感が特徴だった。シティーハンターというアニメの疾走感、夜の街を駆け抜けるような緊迫感を、あの独特の裏声混じりの歌唱が支えていた。一方でglobeは、KEIKOのボーカルとマーク・パンサーのラップを軸にした編成であり、そもそも歌い手の声質からして異なる。同じメロディ、同じコード進行を、まったく違う声とビートの上に乗せ直したとき、何が残り、何が変わるのか。この点にこそ、このカバーの一番の聴きどころがあると思う。イントロのシンセフレーズは、原曲の緊張感を保ちながらも、globeらしいダンスミュージックの質感に寄せて鳴らされている。ビートがより前に出て、四つ打ちに近い体の動かし方を促す構成になっている。TM NETWORK版が「見る音楽」だとすれば、globe版は「踊る音楽」に近い方向へ舵を切っているように聴こえる。この変化は、単なるアレンジの違いというより、1980年代のバンドサウンドから1990年代後半以降のダンスミュージックへと、小室哲哉自身の音楽的な立ち位置が移動してきたことの表れでもあるだろう。

セルフカバーという行為の意味

小室哲哉は、TM NETWORK、globe、そのほか数多くのプロデュース楽曲を通じて、常に「作曲家」と「表現者」の両方の顔を持ち続けてきた人だ。その中で、自分の代表曲を、自分が所属する別のユニットで再演するという選択には、単なる懐メロ的な回顧以上の意味があると考えられる。一つには、それがa-nation'08という大きな舞台での再始動を象徴する選曲だったという事情がある。globeとしての活動を印象づける上で、自分たちの新曲ではなく、あえて聴衆の誰もが知っている「Get Wild」を選んだことは、原点回帰と再出発を同時に伝えるメッセージだったのではないか。もう一つ興味深いのは、この選曲が結果的にシングルとして世に出なかったという事実だ。2008年11月に予定されていたリリースは、同月の逮捕によって中止となり、音源が正式に日の目を見るのは2年後のベストアルバムでのことだった[3][4]。本来であれば華々しい再始動の証となるはずだった選曲が、思いがけない形で足止めされた。その後、2016年の『Remode 2』で改めてこの曲に手を入れ、新しいアレンジで収め直したという経緯からは、小室哲哉自身がこの曲を一度で終わらせず、繰り返し向き合い続けてきたことがうかがえる[5][6]。一つの曲が、作曲家自身によって何度も形を変えて演奏され続けるというのは、決して当たり前のことではない。多くの作曲家は、一度世に送り出した曲を他者の手に委ね、自らは次の曲へと進んでいく。だが「Get Wild」に関しては、小室哲哉は繰り返しこの曲へ立ち戻っている。それだけこの曲が、彼にとって特別な原型であり続けているということなのだろう。

歌詞が描く「今」への渇望

歌詞の内容そのものを長く引用することは避けるが、「Get Wild」の言葉が描いているのは、都会の夜を舞台にした、今この瞬間への渇望と焦燥感だ。小室みつ子が書いたこの詞は、具体的な状況説明を極力削ぎ落とし、疾走感のあるフレーズの積み重ねで聴き手の想像力を喚起する構造になっている。シティーハンターという都会派アクションアニメのために書かれた出自を踏まえると、そこに描かれているのは決して穏やかな日常ではなく、危うさと隣り合わせの高揚感なのだと感じられる。この歌詞の強さは、原曲のTM NETWORK版でもglobe版でも変わらず機能している。言葉そのものが持つ緊張感が、歌い手が変わっても揺らがない骨格として存在しているからだ。ただし、globeというユニットの持つ質感、とりわけKEIKOの少し翳りのある声とマーク・パンサーのラップが入ることで、原曲よりもさらに都市の孤独感が強調されて聴こえる瞬間がある。これは歌詞そのものが変化したわけではなく、歌い手の声質と編曲によって、同じ言葉が違う影を帯びるという現象だ。歌詞がいいという評価を★4とした理由もここにある。言葉そのものの強度は非常に高いが、それはあくまで小室みつ子がTM NETWORK時代に書いたものであり、globe版特有の新しい歌詞的発見があるわけではない。だからこそ、この曲の主視点は歌詞ではなく、作曲そのもの、そしてそれを異なる編成で鳴らし直すという構造の面白さに置くのが妥当だと考えた。

ライブ映像が伝えるもの、伝えきれないもの

今回確認できた公式動画は、スタジオで撮影された演出込みのミュージックビデオではなく、a-nation'08というフェスのステージ映像だった。カメラは客席の熱気とステージの様子を交互に捉えており、演出的な作り込みよりも、その場の空気をそのまま記録することに重きが置かれている。これは、globeというユニットの活動再開を印象づける瞬間そのものを残す映像としては十分に価値がある。観客の声援、ステージ上のメンバーの表情、夏の野外フェスならではの熱量は、画面越しでも伝わってくる。ただし、大石セレクションにおける「MVがいい」という項目は、映像表現・色彩・構図・物語性といった演出面を評価するものであり、ライブのドキュメント映像はその評価軸とは性質が異なる。ステージパフォーマンスとしての熱量は高く評価できるものの、曲の世界観を映像として新たに切り拓くタイプの作品ではないため、★3にとどめた。もし将来、スタジオ収録の公式ミュージックビデオが公開されれば、この評価はまた違ったものになるだろう。今はまず、a-nation'08という一夜に、小室哲哉が自分の代表曲を、自分のもう一つのユニットで鳴らしたという事実そのものを、映像込みで記憶しておきたい。

参考リンク

一つの曲が形を変えて何度も鳴らされるように、家や土地にも、時間の中で姿を変えながら残っていく記憶があります。

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書いた人

大石浩之。静岡県磐田市で、介護と不動産の仕事をしています。 若い頃に東京で過ごした時間、仕事の中で見てきた家族や街の記憶、 そして今暮らす磐田で感じることを、音楽をきっかけに書いています。

音楽は、過去の自分に会いに行くための入口です。 家や土地もまた、誰かの記憶が残る場所だと思っています。