ページ作成日: 2026年7月5日
元にしたYouTubeリンク: https://www.youtube.com/watch?v=IIqi3YVC-Bg
確認した動画: 浜田省吾「I am a father」Music Video(浜田省吾 Official YouTube Channel)

2005年6月8日発売、浜田省吾36枚目のシングル「I am a father」は、当初はアルバム『My First Love』収録曲の一つとして仕上げられ、単独でシングル化する予定はなかったと伝えられている。だが、レコーディング中から評判が良く、ちょうど父の日商戦の時期と重なったこともあって、急きょシングルカットされたという経緯を持つ。タイトルの通り「父であること」をまっすぐに歌った楽曲で、浜田省吾自身の実感の詰まったロックチューンに仕上がっている。飾り立てた比喩ではなく、生活のただ中にいる父親の姿をそのまま差し出すような潔さが、この曲の魅力の芯にある。

大石セレクション視点:MVがいい ★★★★☆

  • 曲がいい:★★★☆☆
  • 歌詞がいい:★★★★☆
  • MVがいい:★★★★☆

選定理由:ギターを前面に出したロックな曲調と、父と子の絆をまっすぐに描いた歌詞は、どちらも十分に魅力的だ。ただ、この曲を語るときにどうしても外せないのが、長年の友人である俳優・時任三郎を起用したドラマ仕立てのミュージックビデオである。単なるプロモーション映像にとどまらず、後にこのMVを発展させた短編映画まで作られたという広がり方には、楽曲一つを起点に物語世界を作ってしまう福山とはまた違った、浜田省吾らしい実直な作り込みが感じられる。歌詞とMVの物語がしっかり手を取り合っているからこそ、映像込みで出会う価値がひときわ高い一曲だと感じ、主視点をMVに置いた。

父の日商戦が生んだ、予定外のシングル

「I am a father」は当初、アルバム『My First Love』の収録曲の一つとして制作が進められていたとされる。ところがレコーディングの過程で楽曲の評判が良く、6月という父の日を控えた時期のタイミングも重なったことから、急きょ単独シングルとしてリリースされることになったと伝えられている。オリコン週間シングルチャートでは5位、年間では166位を記録し、当時「3作連続でオリコントップ5入り」を果たすなど、2000年代の浜田省吾の作品群の中でも安定した支持を集めた楽曲の一つである。国民的な大ヒット曲というより、キャリアを重ねた浜田省吾のファン層に深く届いた佳曲、という位置づけがふさわしいだろう。

飾らない言葉で描かれる、父の覚悟

タイトルがそのまま示すように、この曲のテーマは「父であること」だ。歌詞を丸ごと引用することは避けるが、そこにあるのは、父親としての日々の生活と、その中で背負う静かな覚悟をまっすぐに言葉にした世界観である。浜田省吾自身、当時すでに父親としての年月を重ねていたはずで、その実感がにじんだ歌詞には、飾り立てた美辞麗句ではなく、生活者としての手触りがある。父親という立場は、外から見れば強さの象徴のように語られがちだが、実際には日々の小さな不安や迷いの積み重ねでもある。この曲はそういう、格好つけない父親像を歌っている点が誠実だ。

時任三郎が主演する、ドラマ仕立てのMV

このミュージックビデオの特徴は、浜田省吾の長年の友人として知られる俳優・時任三郎を主演に迎え、一本のドラマとして作り込まれている点にある。単に曲に合わせた映像を流すのではなく、父と子の関係性を軸にした物語をきちんと描き切っている。さらに、このMVをもとにした短編映画「TWO LOVE〜Two Love Stories〜」まで制作されたと伝えられており、一曲のミュージックビデオが独立した映像作品にまで発展するのは、決して多い例ではない。歌と映像が互いに補い合いながら、一つの父子の物語を立体的に描き出している構成は、YouTubeで偶然この曲に出会った人にも、その物語の続きを見てみたいと思わせる力を持っている。

「マスターズ甲子園」との結びつき

この曲は、社会人になってから改めて野球に打ち込む「マスターズ甲子園」という企画のイメージソング・テーマ曲として使われたとも伝えられている。かつての球児たちが、家庭を持ち、父となった今、もう一度甲子園を目指すという企画の趣旨と、「父であること」を歌うこの曲のテーマは自然に重なる。仕事、家庭、そしてかつての夢。その三つを抱えながら生きる大人の姿を後押しするような選曲だったのだろうと想像できる。

東京で働いていた頃に聴いていた曲

この曲を初めて意識して聴いたのは、東京でまだ独身の会社員として働いていた頃だったように思う。父になるという実感がまだ湧かないまま、ただロックなギターのリフに乗せられて聴いていた記憶がある。あれから年月が経ち、磐田に戻って介護や不動産の仕事を通じて、多くの父親、そしてかつて父親だった人たちの人生に触れる中で、この曲の歌詞がようやく自分の実感として届くようになった。誰かの父であるということは、常に成功しているわけではない。迷い、失敗し、それでも家族のために立ち続ける。その不格好さこそが、父であることの本質なのかもしれないと、この曲を聴くたびに思う。

今、この曲を聴く人へ

「I am a father」は、派手なヒット曲というより、聴く人の人生の段階によって受け取り方が変わる曲だと思う。まだ父になっていない人には、父という存在への想像力を。すでに父になった人には、自分の日々への静かな肯定を。そして、父を見送った人には、その人の背中を思い出すきっかけを、それぞれに届けてくれるはずだ。ロックなギターの音とドラマ仕立てのMV、そのどちらもが一つの物語として結びついているからこそ、聴くたびに違う顔を見せてくれる一曲だと感じている。

短編映画にまで広がった、一つの物語

この曲を語る上でもう一つ興味深いのは、ミュージックビデオという枠を超えて、独立した短編映画「TWO LOVE〜Two Love Stories〜」にまで物語が発展していった経緯だ。一曲三分から五分程度の映像がドラマ仕立てで作られること自体は珍しくないが、それをさらに一本の映画として作り込み直すという判断には、単なるプロモーションでは終わらせたくないという制作陣の強い意志が感じられる。時任三郎という、浜田省吾自身が公私にわたって深く信頼してきた俳優を主演に据えたことも、この作品が単発の企画ではなく、長年の関係性の上に積み重ねられた一つの共同作業だったことを物語っている。友情や信頼という、目に見えにくい財産が、こうして一つの映像作品を通じて形になっていく過程は、それ自体が「父であること」というテーマと同じくらい、じっくりと味わう価値のあるものだと思う。

参考リンク

父から子へ、あるいは親から子へと受け継がれるものがあるように、家や土地にも代々の思いが積み重なっています。

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書いた人

大石浩之。静岡県磐田市で、介護と不動産の仕事をしています。 若い頃に東京で過ごした時間、仕事の中で見てきた家族や街の記憶、 そして今暮らす磐田で感じることを、音楽をきっかけに書いています。

音楽は、過去の自分に会いに行くための入口です。 家や土地もまた、誰かの記憶が残る場所だと思っています。