人生には、何度か「回してしまう」瞬間がある。安全な道を選べばよかったのに、なぜかリスクのある方へ手を伸ばしてしまう夜。布袋寅泰の「RUSSIAN ROULETTE」を久しぶりに聴き返して、まず蘇ってきたのはそういう感覚だった。イントロのギターリフが鳴った瞬間、体の奥のどこかがきゅっと締まる。あの感じは、賭けの前の緊張によく似ている。私はこの曲を初めて聴いたときの記憶があいまいなくらい、もうずいぶん長く自分の中にある曲なのだが、歳を重ねてから聴き直すと、当時とはまったく違う意味が立ち上がってくる。10代や20代の頃は「かっこいい曲」としてしか受け取れなかったものが、今は「賭けをして生きてきた人間の音楽」として響いてくる。
鬼武者2のテーマとして生まれた、疾走するロック
「RUSSIAN ROULETTE」は、2002年2月6日にVirgin Musicから布袋寅泰の23枚目のシングルとしてリリースされた楽曲である[1][2]。作詞・作曲・プロデュースはすべて布袋寅泰自身が手がけている[2]。このシングルは、同年3月発売のアルバム『SCORPIO RISING』に先駆けて世に出された、いわば先行エップのような位置づけの作品で、表題曲を含む全4曲が収録されている[1]。本人が振り返るところによれば、もともとは2枚の別々のシングルとして企画されていたものが、アルバム全体の流れと世界観を優先する形で1枚にまとめられ、収録順もタイトル曲を最初に置くという構成になったという[1]。
この曲を語るうえで欠かせないのが、PlayStation 2用ソフト「鬼武者2」(カプコン)のテーマソングとしてのタイアップである[1][2]。ゲームの起動時に流れるプロモーション映像にも起用されたと伝えられており、戦国時代を舞台にした剣戟アクションゲームの緊張感と、このギターロックの持つスピード感は、たしかに響き合うものがある。オリコン週間チャートでは9位を記録しており[2]、シングルとしても一定の評価を得た楽曲であることがわかる。なお同じシングルに収録された「FROZEN MEMORIES」は、布袋が音楽を手がけた映画「KT」のメインテーマとしても使われており、このシングル自体が複数のタイアップを背負った、当時の布袋の活動の広がりを象徴する一枚だったこともうかがえる[1]。
引き金は、イントロのワンフレーズで引かれている
曲の魅力を分解していくと、まずイントロの数秒で決着がついていることに気づく。歪んだギターが一定のリズムを刻みながら空気を張り詰めさせ、そこにベースとドラムが畳みかけるように入ってくる。この導入部分だけで、もう聴き手は「これは只事では終わらない曲だ」と直感してしまう。Aメロは抑えたトーンで進みながらも、次に来るサビへの期待を静かに積み上げていく。そしてサビに入った瞬間、メロディが跳ね上がり、ギターのカッティングが前に出てくる。ここでの解放感は、抑えていたぶんだけ大きい。まさに「引き金を引く」瞬間の音がここにある。
布袋寅泰というギタリストの持ち味は、テクニックをひけらかすことよりも、リフそのものの説得力にあると思う。この曲でも、複雑なフレーズを弾いているわけではないのに、一度聴いたら忘れられない強さがある。音数を絞ったヴァースと、音を重ねて厚みを出すサビとのコントラストが明確で、1番と2番、そしてラストサビでわずかにアレンジが変化していく緻密さもある。イヤホンで聴き込むと、ギターの右と左の鳴らし方が微妙にずれていて、それが疾走感をさらに増幅させていることに気づく。歌詞の意味を知らずに、ただ音だけを浴びていても十分に格好いい。それがこの曲の「曲がいい」を★5にした最大の理由である。
賭けという言葉に込められた、短くも鋭い詞
歌詞をそのまま書き写すことはしないが、そのテーマについては触れておきたい。「RUSSIAN ROULETTE」というタイトルが示す通り、この歌は「一か八かの賭け」「引き返せない選択」というモチーフを軸に据えている。恋愛の駆け引きとも、生き方そのものの比喩とも取れるような言葉が並び、安全な場所にとどまるのではなく、リスクを承知のうえで一歩を踏み出す人間の緊張感が描かれていると受け取れる。言葉自体は決して饒舌ではなく、むしろ短いフレーズを繰り返し畳みかけるような構成になっている。
興味深いのは、この歌詞が一人称で語られていながら、誰か特定の相手に向けた恋の歌というより、もっと広く「生きること」そのものへの態度表明のように聴こえる瞬間があることだ。安全な選択肢を積み重ねて生きていくことも、もちろん一つの正しさだろう。けれど、この曲の主人公は、あえて弾が入っているかもしれない銃口を自分に向ける方を選ぶ。それは自暴自棄ということではなく、リスクを引き受けてでも前に進みたいという、ある種の覚悟の表明のように私には読める。歌詞の中に具体的な情景描写が多いわけではないが、その分、聴き手それぞれが自分自身の「賭けた瞬間」を重ね合わせられる余地が残されている。説明しすぎない詞だからこそ、何度も違う場面を思い出しながら聴き返せるという側面も、たしかにある。
この潔さは、曲のスピード感とはよく合っている。ロシアンルーレットという遊び自体、拳銃の弾倉に一発だけ弾を込め、それを回して自分に向けて引き金を引くという、本来なら誰もやりたくない賭けである。それでもなお、その行為に手を伸ばしてしまう心理を歌にするなら、言葉を尽くして説明するよりも、短く鋭いフレーズを畳みかける方が正しい。ただ、正直に言うと、歌詞の物語性という点では、聴くたびに新しい発見があるタイプの詞ではない。一度受け取ったイメージが、そのまま何度聴いても同じ強度で届く。それは長所であると同時に、「歌詞がいい」を主視点に据えるにはもう一段の奥行きがほしいと感じる部分でもある。だからこそ私は、この曲では言葉よりも、その言葉を運ぶ音の疾走感の方に軍配を上げたいと思う。
磐田物語で見てきた、一か八かの決断たち
実は私自身も、若い頃に「賭け」に近い決断をしたことがある。まだ東京で働いていた頃、安定していた仕事を辞めて、まったく畑の違う道に踏み出したことがあった。周囲には反対する人もいたし、自分自身も夜な夜な不安で眠れないことがあった。あのとき感じていた緊張感は、まさに「回してしまう夜」の感覚に近い。今こうして磐田で介護と不動産の仕事をしているのも、あの一つの賭けの延長線上にある。
今の仕事の中でも、似たような緊張感に出会うことがある。相続した実家をどうするか、空き家になった土地をどう手放すか、あるいはこのまま持ち続けるか。相談に来られる方の多くは、答えのない選択の前で足踏みをしている。売るという決断も、残すという決断も、どちらも取り返しがつかないという意味では、小さな賭けに似ている。私はそういう場に立ち会うたびに、「RUSSIAN ROULETTE」のイントロで感じるあの緊張感を、少しだけ思い出す。弾が入っているかどうかは、誰にもわからない。それでも、いつまでも回さずにいることはできない。決断そのものよりも、決断の前にある静かな緊張感を、この曲は音として鳴らし続けているのだと思う。
参考リンク
- [1] 布袋寅泰のシングル「RUSSIAN ROULETTE」の紹介 - HOTEI MODE
- [2] RUSSIAN ROULETTE(布袋寅泰の曲)- Wikipedia
- [3] RUSSIAN ROULETTE[CDシングル] - 布袋寅泰 - UNIVERSAL MUSIC JAPAN
賭けをして踏み出した先に、今の暮らしがある。そう思える瞬間が、誰にでもあるのかもしれません。
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