ブーツという履物には、買ったばかりの窮屈さと、長く履き込んだあとの馴染みの両方があります。新品のブーツは足を締め付け、歩くたびに違和感を覚えますが、時間をかけて履き続けるうちに、いつしか足の形にぴったりと沿うようになる。KICK THE CAN CREWの「Boots」は、そうしたブーツの成熟の過程を、3人の関係性そのものになぞらえた1曲です。「千%」のような若々しい全力疾走とは違い、この曲には、時間を経たからこそ生まれる落ち着きと深みがあります。派手さを競うのではなく、履き込んだ革靴のような、じっくりとした味わいを聴かせる。年齢を重ねたグループにしか作れないバラードが、ここにあります。
3年6ヶ月ぶりの新曲として
「Boots」は、2022年2月2日に配信限定でリリースされ、同年3月30日発売のKICK THE CAN CREW通算5thアルバム『THE CAN』に収録されました。この曲は、2018年8月29日リリースの「住所 feat. 岡村靖幸」以来、3年6ヶ月ぶりとなる新曲でした。「千%」を含む復活作『KICK!』のリリースから数年が経ち、3人はそれぞれの経験を積み重ねた上で、あらためてこのバラードを作り上げました。時間を経た今の3人だからこそ表現できる、味わい深く美しいナンバーだと評されています。
復活直後の勢いに任せた曲作りではなく、あえて時間をかけて熟成させたバラードを選んだこと自体、彼らの成熟を物語っています。若い頃であれば避けていたかもしれない静かなテンポや落ち着いたトーンを、この時期のKICK THE CAN CREWは自然に選び取っています。ブーツが履き込むほどに味わいを増すように、この曲もまた、彼らが積み重ねてきた年月そのものを音にしているのだと思います。
履き込んだものだけが持つ価値
東京で働いていた頃、新しい靴を履くたびに、馴染むまでの数週間を我慢していたことを思い出します。逆に、履き込んだお気に入りの靴は、多少くたびれていても、手放しがたいものでした。人間関係も、これと似たところがあります。出会ったばかりの頃はぎこちなく、互いの距離感を測りながら付き合いますが、長い時間をかけて関係を積み重ねるうちに、言葉にしなくても分かり合える馴染みが生まれます。KICK THE CAN CREWの3人が、活動休止とそれぞれのソロ活動という長い時間を経て再びグループとして音を鳴らすとき、そこには履き込んだブーツのような、揺るぎない馴染みがあったはずです。
新しいものがいつも良いとは限りません。時に、履き古したものの方が、自分の足にぴったりと合っている。この曲が持つ落ち着いた温かさは、そうした「古びることの価値」を静かに肯定しています。若さや新しさばかりを追い求める世の中で、履き込んだ関係や道具の価値を、あらためて思い出させてくれる1曲です。
磐田で履き込む、それぞれのブーツ
磐田で家や土地の相談を受けていると、長く連れ添った夫婦や、長年住み続けた家について語る方々に、よくお会いします。新築の輝きは失われても、そこには履き込んだブーツのような、かけがえのない馴染みがあります。古くなった家を、ただ古いというだけで手放すのではなく、そこに刻まれた時間の価値を見つめ直すこと。KICK THE CAN CREWが「Boots」で見せた、時間を経たからこその成熟の眼差しは、家や暮らしを見る仕事の中でも、大切な指針になっています。
新しいものを追い求める勢いも大切ですが、履き込んだものにしか出せない味わいも、同じくらい尊いものです。この曲を聴くたびに、時間をかけて何かを育てていくことの豊かさを、あらためて思い出させてもらっています。
ATAWI MUSICは、音楽を消費するサイトではありません。曲をきっかけに、時間をかけて履き込んできたものの記憶を読み直す場所です。
