タイトルだけを見たとき、少し立ち止まる曲がある。「Nobody's Perfect」もそのひとつだ。完璧な人などいない。当たり前のようでいて、大人になるほど忘れてしまう言葉だ。この曲は、吉川晃司が長く紡いできたロックの歴史の中でも、少し特殊な生まれ方をしている。彼自身の名前ではなく、あるドラマの登場人物の名前で世に出た曲だからだ。それでも、いや、だからこそ、聴く人の胸に静かに残る一曲になっている。
生まれた場所が二つある曲
「Nobody's Perfect」は、2010年6月30日にシングルとしてリリースされた。名義は「鳴海荘吉」。吉川晃司が特撮ドラマ『仮面ライダーW』に俳優として出演した際に演じた役の名前である。作中では、探偵・鳴海荘吉が変身する仮面ライダースカルというキャラクターの、いわば劇中歌としてこの曲が使われた。吉川晃司自身が長年、自作の曲を歌ってきたロック・アーティストであることを踏まえると、これは単なる企画ソングではなく、彼の音楽家としての実力があってこそ成立した仕事だとわかる。
その後、この曲は形を変えてもう一度世に出る。2013年4月17日、ワーナーミュージック・ジャパン移籍後初のアルバムであり、吉川晃司自身が発足した「SAMURAI ROCK」レーベルの第一弾となるアルバム『SAMURAI ROCK』に、「Nobody's Perfect」として収録されたのだ。全11曲中7曲目に置かれ、作詞は松井五郎、作曲は鳴海荘吉。つまり、ドラマの役名義で生まれた曲が、数年の時を経て、吉川晃司名義のアルバムの中で新しい居場所を得たということになる。一つの曲が二つの名前と二つの時間を生きている。これだけでも、この曲がただの一過性のタイアップ曲ではないことが伝わってくる。アルバム『SAMURAI ROCK』はオリコンチャートで6位を記録しており、当時のロックアーティストとしての吉川晃司の地力を裏づける結果となった。
ハードボイルドな響きの中にある優しさ
曲を聴くと、まず感じるのは湿度の低さだ。バラードでありながら、じめじめとした感傷に流れすぎない。ミドルテンポで淡々と進む中に、ギターの音がふっと影を落とす瞬間がある。吉川晃司の歌声は、若い頃のロックアーティストとしての鋭さとは違う、少し低く、少し掠れた大人の声で言葉を運ぶ。声を張り上げて訴えるのではなく、独り言のように、あるいは誰かに背を向けたまま話しかけるように歌う。そのスタンスが、この曲の主題である「不完全さの肯定」と重なっている。
吉川晃司というアーティストは、1984年に映画『すかんぴんウォーク』と主題歌「モニカ」でデビューして以来、常に自分の言葉で詞を書き、自分の意志で音楽性を選び取ってきた人だ。誰かに敷かれたレールの上を歩くのではなく、自ら作詞・作曲を手がける道を選んだことで知られている。その彼が、こうして役の名義を借りて曲を作るとき、そこには演じることと歌うことの境界がほとんどない。芝居の中の言葉のようでいて、本人の声として届く。その二重性が、この曲の音の説得力を支えている。
「完璧な人などいない」という言葉が残す余白
歌詞を丸ごと引用することはしない。ただ、この曲が扱っているテーマだけは、静かに書き残しておきたい。「Nobody's Perfect」というタイトルの言葉は、作中で、ある人物がもう一人の人物に遺した言葉として描かれている。強くあること、完璧であることを求められた者が、それでも自分の弱さを認め、相手にもまた弱さがあっていいのだと伝える。強いだけの存在には価値がない、優しさこそが必要なのだというメッセージが、その背景には流れている。
この構造を知って歌詞を読み返すと、言葉の選び方の意味が変わってくる。誰かを励ますための曲でありながら、命令形でも説教でもない。ただ、そこに立って、隣にいる人へ静かに言葉を渡しているような距離感がある。声高に「頑張れ」と言うのではなく、「頑張らなくていい部分もある」と言ってくれる歌だ。だからこそ、聴く人の年齢や状況によって、刺さる場所が変わる。仕事に疲れた夜に聴けば労いの言葉になり、誰かを支える立場にいる人が聴けば、自分もまた弱くていいのだと思わせてくれる。歌詞そのものの物語性と、そこにある余白の深さが、この曲を何度も聴き返したくなる理由になっている。
不完全さを引き受けるということ ― 大石浩之の記憶から
この曲を聴きながら、東京で働いていた頃の自分を思い出すことがある。当時の自分は、失敗を人に見せることが怖かった。仕事でも、私生活でも、うまくやれている自分を見せることに必死で、弱さを見せることは負けだと思い込んでいた。今、静岡県磐田市で介護と不動産の仕事をしていると、その考え方がいかに窮屈だったかがよくわかる。
介護の現場では、完璧な家族などいない。長年疎遠だった親子が、最後になって初めて向き合う姿を何度も見てきた。もっと早く帰ってあげればよかった、もっと素直に話せばよかったと悔やむ声を、数え切れないほど聞いてきた。不動産の仕事で実家じまいや空き家の相談を受けるときも同じだ。片づけながら出てくる古い写真や手紙の中には、うまくいかなかった時間の跡がそのまま残っている。それでも、その不完全さごと引き受けて前に進もうとする人たちの姿に、何度も励まされてきた。「Nobody's Perfect」という言葉は、そうした現場で出会ってきた人たちの姿と、静かに重なる。完璧でなかったことを責めるのではなく、それでも良かったのだと、誰かがそっと言ってくれる。そういう曲だと思う。
もう一つの声、鳴海荘吉という名義について
音楽記事としてもう一つ書き残しておきたいのは、「鳴海荘吉」という名義そのものが持つ面白さだ。俳優が演じた役の名前で音楽をリリースするという試みは、決して多くはない。しかも一度きりの企画で終わらせず、後に本人名義のアルバムへ収録し直し、さらに十年以上を経た劇場版でも同じ名義で新曲を発表し続けている。これは、単発のタイアップ企画ではなく、吉川晃司自身がこの役と楽曲に特別な思い入れを持ち続けてきたことの表れだと感じる。フィクションの中の人物が、フィクションの外でも歌い続ける。声はひとつなのに、名前を変えることで、伝えられる言葉の温度が少し変わる。そうした構造そのものが、この曲の懐の深さにつながっている。
この曲を一度聴いただけで通り過ぎてしまう人も、きっと多いだろう。特撮ドラマの挿入歌という出自だけを見れば、そう思われても仕方がない。しかし、静かな夜にもう一度再生してみると、印象がまったく変わる。イントロで鳴るギターの音数の少なさ、サビに向かって声の温度がわずかに上がっていく過程、間奏で一度呼吸を置いてからまた言葉を紡ぎ始める構成。どれも、劇的に盛り上げるためではなく、聴く人の心にそっと寄り添うために選ばれた音のように感じられる。大人になってから改めて聴くと、「完璧じゃなくていい」という言葉の意味は、十代の頃に聴くのとはまるで違う重さで届く。仕事でも家庭でも、うまくいかないことのほうが多い。それでも誰かがそばにいてくれること、弱さを見せてもいい相手がいることの尊さを、この曲は静かに歌っている。声を張り上げるでもなく、押しつけるでもなく、ただそこに置かれた言葉として。だからこそ、何度でも聴き返したくなる曲なのだと思う。
参考リンク
- [1] SAMURAI ROCK(吉川晃司のアルバム) - Wikipedia
- [2] SAMURAI ROCK(吉川晃司の曲) - Wikipedia
- [3] Nobody's Perfect(鳴海荘吉) - K2 NET CAST 吉川晃司公式サイト
- [4] 吉川晃司 Nobody's Perfect 歌詞 - 歌ネット
- [5] Nobody's Perfect - ピクシブ百科事典
- [6] 吉川晃司 - Wikipedia
不完全なままでも、誰かがそばにいてくれることの意味を、この曲は教えてくれる。
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