レモネードという飲み物は、酸っぱさと甘さのバランスで成り立っています。酸っぱいだけでは飲めず、甘いだけでは物足りない。KIRINJIの「LEMONADE feat. 小田朋美」を聴いていると、このバランス感覚こそが、堀込高樹という書き手が長年守り続けてきたものなのだと気づかされます。ジャズピアニストの小田朋美を迎えたこの曲は、都会的な洗練と、どこか苦さを含んだ感情の両方を含んでいて、聴き手を単純な甘さだけで満足させません。20年以上のキャリアを重ねてもなお、耳当たりの良さに逃げず、複雑な味わいを提示し続ける。この曲を聴くと、書き続けるということの本当の難しさと豊かさを、あらためて考えさせられます。
2026年、17枚目のアルバムから
この曲は、2026年1月9日にリリースされたKIRINJIの通算17枚目となるオリジナルアルバム『TOWN BEAT』に収録されています。このアルバムは、前作『Steppin' Out』から約2年4ヶ月ぶりの新作で、堀込高樹自身が主宰する自主レーベル「syncokin」からリリースされました。自主レーベルという形態を選んだことは、大手レーベルの制約から離れ、自分の裁量でリリースのタイミングや作品の方向性を決められる自由を意味します。17枚目という数を重ねてなお、こうして自ら環境を作り直す姿勢そのものが、KIRINJIという表現の持続可能性を物語っています。
ジャズシーンで活躍する小田朋美をフィーチャリングに迎えたことも、この曲の重要な要素です。ポップスの文脈にジャズの語彙を持ち込む試みは、KIRINJIがデビュー当初から一貫して続けてきたことでもあります。20年以上のキャリアを経てなお、新しい共演者を迎えて自分たちの音楽を更新し続ける。このサイトで取り上げてきた「killer tune kills me feat. YonYon」や「AIの逃避行 feat. Charisma.com」と同様、異なる才能を取り込みながら進化を止めない姿勢が、この曲にも表れています。
酸っぱさを引き受けるということ
50代になった今、若い頃と同じ甘さだけでは満足できなくなっている自分に気づきます。20代の頃は分かりやすい甘さを求めていたのに、歳を重ねるうちに、苦味や酸味を含んだ味わいの方に、より深い満足を感じるようになりました。これは味覚だけの変化ではなく、人生に対する感じ方そのものの変化なのだと思います。単純な幸福だけでなく、そこに含まれる痛みや複雑さごと引き受けたときに、初めて本物の充実感が得られる。「LEMONADE」というタイトルが選ばれた理由を、私はそのように解釈しています。
2026年という年に、こうしてこの曲に出会えたこと自体、ひとつの巡り合わせだと感じます。長く音楽を作り続けてきたアーティストが、いまだに新しい酸味を曲に加えようとしている。その姿勢は、長く同じ仕事を続けている自分にとっても、静かな励みになります。慣れた仕事に甘さだけを求めるのではなく、時にはあえて酸っぱさを引き受けることで、仕事も人生も、より深い味わいを持てるようになるのかもしれません。
磐田で味わう、酸いも甘いも
磐田で家や土地の相談を受ける仕事は、甘い話ばかりではありません。相続や空き家の問題には、家族の間のわだかまりや、後悔、時に対立といった、酸っぱい感情が付きまといます。それでも、その酸っぱさを避けて通らず、正面から向き合うことでしか、本当の解決には辿り着けません。「LEMONADE」が教えてくれるのは、甘さだけを求めるのではなく、酸っぱさも含めて味わい尽くす姿勢の豊かさです。
KIRINJIが20年以上のキャリアを経てなお、新しい酸味を加え続けているように、私たちの仕事や人生にも、まだ加えられる新しい味わいがあるはずです。慣れた甘さに満足せず、これからも酸っぱさを恐れずに引き受けていきたい。この曲を聴くたびに、そういう静かな決意を新たにします。
ATAWI MUSICは、音楽を消費するサイトではありません。曲をきっかけに、酸いも甘いも引き受けてきた時間を読み直す場所です。
