KREVAの代表曲のひとつ「音色」が、2019年、まったく新しい体温を持って戻ってきた。原曲は2004年9月8日発表のマキシシングルで、当時サンプラーを使って作られた楽曲だったが[5]、2019年1月15日、ソロデビュー15周年を記念した9ヶ月連続リリース企画の第1弾として、「音色 ~2019 Ver.~」というタイトルで配信された[1][6]。同じ曲を15年後にもう一度世に出す。そこには、単なる過去の焼き直しではない、作り手自身のたしかな意図があった。
サンプラーからバンドへ、15年越しの再録音
「音色 ~2019 Ver.~」の最大の特徴は、原曲がサンプラーを使ったトラックだったのに対し、この2019年版ではバンド編成での新規レコーディングが行われた点にある[5][6]。参加したのは、KREVAのバックバンドであるKREBANDのメンバー、柿崎洋一郎(キーボード)、近田潔人(ギター)、岡雄三(ベース)、白根佳尚(ドラム)、そして金原千恵子によるストリングスである[6]。作詞・作曲はいずれもKREVA自身によるもので、原曲は2004年のアルバム『新人クレバ』にも収録されている[5]。もともとライブの現場では、すでにバンド編成での演奏が重ねられてきた曲だったという[2]。KREVA自身も「このバンドバージョンは、もう何度もライブで演奏してきた。このタイミングでちゃんとした音源として出すのがふさわしいと思った」という趣旨のコメントを残しており[2]、2019年版は思いつきの企画ではなく、ライブで育てられてきた演奏を、満を持して形にしたものだったことがわかる。ロッキング・オンのレビューでは、この新録について「生バンドの豊かな抑揚と躍動感のなかで刻まれるKREVAの表情豊かなフロウは、より強い人間味を感じられるものになった」と評されている[7]。サンプラーで組み立てられた音の密室性から、生の楽器が呼吸するような空気の中へ。同じメロディ、同じラップでありながら、音の触感がまったく違う場所に置き直されている。それも、性急なリメイクではなく、ライブという反復の中でゆっくり醸成された結果としての再録音であるという点が、この曲を単なる「セルフカバー」以上のものにしている。イントロの入り方ひとつとっても、原曲がタイトに刻まれるリズムで始まるのに対し、バンド編成では生のドラムとストリングスが少しずつ重なっていくような立ち上がり方をする。サビに入る瞬間の音の厚みも、打ち込みの均一さではなく、演奏者それぞれの呼吸が微妙にずれ合うことで生まれる揺らぎがあり、それが「人間味」という言葉で評された所以だろう。KREVAのフロウ自体は当時から大きく崩されていないが、その言葉を受け止める器が変わったことで、同じラインでも重心の置き方が違って聴こえる瞬間がいくつもある。
「音色」という言葉が指しているもの
この曲の歌詞を丸ごと引用することはしないが、そのテーマについては考えてみたい。「音色」というタイトルは、単に楽器や声の響きだけを指しているのではなく、もっと広い意味での音楽そのもの、あるいは音楽という存在への呼びかけとして機能している。あるレビューでは、この曲が「音色」を人格を持ったものとして描き、その存在と「深い世界で愛し合う」という音楽讃歌として書かれていると指摘されている[7]。つまりこの曲は、恋愛の歌のようでいて、実際にはKREVAが自分の仕事道具であり生涯のパートナーでもある「音楽」そのものに向けて書いたラブソングとして読むことができる。ラッパーが自らの音楽活動を歌にするとき、しばしば自己言及的になりすぎて内輪の話に閉じてしまうことがあるが、この曲はその手前で踏みとどまっている。「音色」という一語に抽象化することで、聴く側は音楽の話としてだけでなく、自分にとっての何か大切なもの、何年経っても飽きずに向き合い続けているものに置き換えて聴くことができる。15年前に書かれた言葉が、15年後にバンド編成という新しい器を得て、同じ意味のまま、しかし少し違う手触りで届く。歌詞そのものは変わっていないはずなのに、歌い手が15年分の経験を積んだ状態で同じ言葉を発すると、言葉の重みが変わって聞こえてくる。これは歌詞というテキストの強さというより、同じ言葉を長く生きた人間が発することで生まれる説得力であり、歌詞と歌い手の年輪が一体になって初めて成立する種類の深みだと思う。代表曲を安易に使い回すのではなく、15周年という節目にあえてこの曲を選んだこと自体が、KREVAにとって「音色」という言葉がどれほど大きな意味を持っているかを物語っている。
ロンドンで「音」を探して歩く、その映像的な説得力
ミュージックビデオは大喜多正毅監督によって、2019年2月、ロンドンで撮影された[3][4]。舞台となったのは、ストリートアートで知られるリークストリート、歴史ある屋内市場のリーデンホール・マーケット、そしてテムズ川周辺[3][4]。KREVAが街を歩きながら、さまざまな「音」を探し求めるという構成は、この曲のタイトルそのものを文字通り映像化したものになっている。特にゴールドスミス・ホールでの歌唱シーンは「壮観」と評されており、15周年という節目にふさわしいスケールの演出として印象的な場面になっている[3]。監督は「バンドサウンドで新録された『音色』は、人間味と艶を増している。そういう成熟した男によく似合うのは、雨上がりのロンドンの街しかなかった」という趣旨のコメントを残したと報じられている[3]。海外ロケという選択自体が、9ヶ月連続リリースという大きな企画の中でも「規格外」の取り組みだったという評もある[6]。曲のテーマである「音を探す」という行為を、実在する石畳の路地やマーケットのざわめき、川面の光といった具体的な場所に置き換えたことで、抽象的なコンセプトが説得力を持つ映像として立ち上がっている。もし同じ曲を国内のスタジオで撮っていたら、これほどまでに「まだ見ぬ音を探して歩く」という感覚は伝わらなかっただろう。知らない街の路地を歩くという行為そのものが、耳を澄ませて何かを探すという体験と重なり合っているからだ。カメラは終始KREVAを追いながらも、街の質感、雨に濡れた石畳の照り返し、市場の喧騒といった環境音を拾うように画面を作っており、音楽と映像が別々の情報を運ぶのではなく、同じ「音を探す」という一つの体験として統合されている。YouTubeで公開されているのはショートバージョンで、フルバージョンはGYAO!で無料配信されたという経緯もあり[6]、当時から複数の入口を用意して届けようとした形跡がうかがえる。
15年という時間が曲に与えたもの
2019年は、KREVAにとって単なる一年ではなく、9ヶ月連続リリースと日本武道館公演を控えた特別な年だった[1][6]。その幕開けに、新曲ではなく15年前の代表曲を選んだという判断は、一見地味に見えるかもしれない。しかし、あらためて振り返ると、この選択こそがもっとも雄弁だったのではないか。新しい曲で勢いを見せることもできたはずなのに、あえて「音色」という原点に立ち返り、それをバンドという生きた器で鳴らし直す。そこには、15年間変わらず音楽を愛し続けてきたという事実を、言葉ではなく音そのもので証明しようとする姿勢がある。一つの曲を何年もかけて育て直すという行為は、飽きっぽさとは対極にある。むしろ、一度作ったものを手放さず、ライブという現場で磨き続け、然るべきタイミングで新しい形にする。その粘り強さこそが、この曲を聴いたときに感じる説得力の正体なのだと思う。曲を知らない人がこの「音色 ~2019 Ver.~」から入ったとしても、そこにあるのは懐古的な焼き直しではなく、15年分の演奏経験を経て初めて鳴らせるようになった、現在進行形の音楽である。
参考リンク
- [1] KREVA 15TH ANNIVERSARY YEAR スペシャルサイト - JVCKENWOOD Victor Entertainment
- [2] KREVA、クレバの日(9/8)まで9ヶ月連続リリース決定!第一弾「音色 ~2019 Ver.~」配信スタート! - Fanplus Music
- [3] KREVA、ロンドンの街中で"音"を探す「音色 ~2019 Ver.~」MV公開 - BARKS
- [4] KREVA、ロンドンの街中で"音"を探す「音色 ~2019 Ver.~」MV公開 - Billboard JAPAN
- [5] 音色 (KREVAの曲) - Wikipedia
- [6] KREVA、ソロデビュー15周年イヤー始動 9ヶ月連続リリース第一弾は「音色」 - SPICE
- [7] 「音色」を愛し続けた15年間-『音色 〜2019 Ver.〜』KREVA - rockinon.com
15年前の曲をもう一度、違う器で鳴らし直すように、家や土地にも、時間をかけてでなければ見えてこない価値が眠っています。
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