スタジオ収録のミュージックビデオと、ステージで一度きり歌われるライブ映像とでは、同じ曲でも聴こえ方がまったく違います。「逢いたくていま」という曲を、私はこれまでスタジオ版のMVで何度も聴いてきましたが、2018年4月、デビュー20周年を記念して開催されたライブツアー「THE SUPER TOUR OF MISIA」での歌唱映像に出会ったとき、正直に言うと少し身構えました[1][2]。大阪城ホールと横浜アリーナで計4日間、世界各国から集まった約50人ものミュージシャンとダンサーを迎えて行われたという、この20周年ツアーは、MISIAのキャリアを総括するような規模の祝祭だったと伝えられています[1]。そうした華やかな祝祭の舞台で、あの静かな祈りの曲がどう歌われるのか。私は身構えながら、この映像を何度も再生しました。結論から言えば、この曲はスタジオ版とは別の顔を見せてくれます。演出をそぎ落とし、その場にいる観客とMISIA自身の呼吸だけで成立する時間が、そこにはありました。20年という年月を経た歌い手の声で「会いたい」という言葉が発されるとき、その言葉の重みは、初めてこの曲を聴いたときとは明らかに違う質感を帯びています。今回はこのライブ版だけが持つ手触りを中心に、あらためてこの曲と向き合ってみたいと思います。
20周年という節目に、あえてこの曲を歌う意味
「THE SUPER TOUR OF MISIA」は、2018年4月に大阪城ホールと横浜アリーナで行われた、MISIAのデビュー20周年を記念する限定ツアーでした[1]。世界各国から集まったという約50人のミュージシャンとダンサーを迎え、後にDVD・Blu-ray「20th Anniversary THE SUPER TOUR OF MISIA Girls just wanna have fun」として2018年10月31日に映像化されています[1][3]。20年という時間を振り返る祝祭のステージで、MISIAはヒット曲やアップテンポのナンバーだけでなく、この「逢いたくていま」も歌唱曲のひとつに選んでいます。今回確認した映像は、MISIA公式YouTubeチャンネルに追加された「逢いたくていま(from 20th Anniversary THE SUPER TOUR OF MISIA Live Ver.)」という一本です[2]。デビュー20周年という、これまでの歩みそのものを祝う場で、なぜあらためてこの曲が選ばれたのか。私はそこに、単なるヒット曲の消化ではない意図を感じます。「逢いたくていま」は、知覧特攻平和会館で読んだ手紙から生まれた、命と絆をめぐる曲です[6]。20年という節目は、多くのファンにとっても、多くの出会いと別れを経てきた時間でもあります。祝祭のステージにあえてこの曲を置くことで、華やかさだけでは終わらない、20年分の重みを持つ夜にしていたのではないか。そう考えると、この選曲そのものが、ツアー全体の構成における静かな意思表示だったように思えてきます。
演出のない場所で、曲だけが試される
スタジオ版のミュージックビデオは、何度でも撮り直しができ、照明や画角、編集によって曲の印象をコントロールできます。しかしライブのステージは、その瞬間の歌声、その瞬間の呼吸がすべてです。今回のライブ映像で私が最も強く感じたのは、この曲が持つメロディとコード進行が、演出という補助線を失ってもまったく揺らがないということでした。イントロのピアノが鳴り始めた瞬間、大阪城ホールなのか横浜アリーナなのか、会場を埋めた観客の空気が一瞬で変わるのが伝わってきます。スタジオ版で聴いていたときは気づかなかった、サビに入る直前のわずかな間の取り方、ブレスの位置、声を張り上げるのではなく少しずつ解き放っていくような歌い回し。そうした細部が、ライブという一発勝負の場だからこそ、より生々しく浮かび上がってきます。作曲を手がけた佐々木潤によるオーケストラアレンジは、弦一徹の編曲とともにスタジオ版でも印象的でしたが[4]、ライブでの生演奏は、録音物特有の均一な美しさとは違う、その日その場でしか鳴らない揺らぎを持っています。20年間、数えきれないステージに立ってきた歌い手が、あらためてこの曲を歌うとき、そこには技術の到達点だけでなく、20年分の経験が声に滲み出ているように聴こえます。だからこそ、私は今回、この曲の主視点を曲そのものの力に置きました。歌詞の切実さは知っていても、それを乗せる声と演奏がここまで揺るぎないものだと、あらためて思い知らされたからです。
「会いたい」という言葉が、20年分の声で歌われるとき
歌詞そのものを書き写すことはしませんが、「逢いたくていま」が背負っている言葉の重みについては、あらためて触れておきたいと思います。この曲はMISIA自身の作詞によるもので、TBS系日曜劇場『JIN-仁-』の主題歌として書き下ろされました[4][5]。知覧特攻平和会館で、二度と帰れないと分かっていながら「会いたい」と書き残した人たちの手紙に触れたことが、この曲の芯になったとMISIA本人が語っています[6]。スタジオ版でこの曲を聴くとき、私はその成り立ちの重さにまず心を動かされていました。しかし今回、20周年ツアーというキャリアの節目で歌われる「会いたい」という言葉には、もうひとつ別の層が重なって聴こえてきます。デビューから20年、数えきれない出会いと別れ、ファンとの再会と、時には叶わなかった再会もあったはずの歳月を経て歌われる「会いたい」は、ドラマのための言葉であると同時に、歌い手自身の20年をも背負った言葉に聴こえるのです。歌詞の意味は変わっていないのに、それを歌う声の年輪によって、言葉の届き方が変わっていく。これは、同じ曲の同じ歌詞でありながら、ライブという形式でしか味わえない発見だったように思います。ただ、歌詞そのものの言葉選びや物語性という点では、既にスタジオ版で語り尽くした知覧の手紙という一次体験の強さが核であることに変わりはなく、今回のライブ版が新たに書き換えたのは、その言葉を届ける声の方でした。だからこそ、歌詞がいいの評価は高く保ちながらも、今回の主役は曲そのものの生命力に譲る形にしています。
磐田で、20年という時間の重みを思う
磐田で家や土地、相続の相談を受けていると、「20年」という時間の単位に何度も出会います。20年前に建てた家、20年間空き家のまま放置されていた実家、20年ぶりに顔を合わせる兄弟姉妹での相続の話し合い。20年という歳月は、人の記憶を薄れさせることもあれば、逆に会えなかった時間の分だけ、再会の重みを増すこともあります。私自身、東京で働いていた20代の頃と、磐田に戻って介護と不動産の仕事に携わるようになった今とでは、同じ「家族に会う」という言葉ひとつをとっても、感じ方がまったく違います。今回、20周年ツアーというキャリアの節目でMISIAが歌う「逢いたくていま」を聴きながら、私は自分自身のこの20年余りの時間を、静かに重ねずにはいられませんでした。ステージの上で、歌い手が自分の歩んできた年月を声に乗せて歌うように、私たちもまた、それぞれの持ち場で積み重ねてきた時間を抱えて生きています。相続や空き家整理の相談に来られる方の中には、「もっと早く会いに行けばよかった」と語る方が少なくありません。演出のないライブのステージが、曲の骨格をむき出しにして見せてくれるように、20年という時間もまた、飾りを削ぎ落として、本当に大切だったものだけを残していくのかもしれません。この曲のライブ版を聴くたびに、私はそのことを、あらためて静かに教えられている気がします。
ライブ映像だからこその余韻、演出映像とは違う手触り
あらためて確認しておきたいのですが、今回取り上げている映像は、実写とアニメーションを組み合わせたり、物語性のある演出を凝らしたりする、いわゆる制作されたミュージックビデオではありません。20周年ツアーの本番ステージを収めた、ライブ映像そのものです[2]。カメラワークや照明も、あくまでコンサート本番の記録という性格が強く、スタジオ版MVのように意図された画角や色彩設計によって曲の世界観を補強するタイプの映像ではありません。それでも、この映像には映像でしか伝わらないものがあります。歌い終えた瞬間の会場の空気、観客の反応、ステージに立つ本人の表情の変化。作り込まれた演出がない分、そこにあるのは嘘のない、その日そのステージだけの一回性です。私はこの一回性にこそ、ライブ映像の価値があると思っています。何度でも見返せる完成されたMVとは違い、ライブ映像は「あの日、あの場所で、確かにこの曲が歌われた」という記録としての重みを持っています。20周年という、二度と繰り返されない特別な夜に、この曲が選ばれ、歌われた。その事実そのものが、映像の演出以上に雄弁だと感じます。ですから今回のMV評価は、演出された映像作品としての完成度ではなく、その場の空気をどれだけ誠実に伝えているかという観点で、控えめな星にとどめています。演出に頼らない分、評価としては高くしすぎず、しかし記録映像としての価値は静かに認めておきたいと思います。
参考リンク
- [1] MISIA、20周年の祝祭<THE SUPER TOUR OF MISIA>が映像化 - BARKS
- [2] MISIAオフィシャルYouTubeチャンネルへのライヴ動画追加のお知らせ | NEWS |【公式】MISIA | MISIA OFFICIAL SITE
- [3] 20th Anniversary THE SUPER TOUR OF MISIA Girls just wanna have fun | DISCOGRAPHY |【公式】MISIA | MISIA OFFICIAL SITE
- [4] 逢いたくていま - Wikipedia
- [5] 新曲「逢いたくていま」がTBS系日曜劇場「JIN-仁-」主題歌に決定!! | ソニーミュージックオフィシャルサイト
- [6] MISIAによる楽曲解説「逢いたくていま」 | NEWS |【公式】MISIA | MISIA OFFICIAL SITE
- [7] 逢いたくていま(from 20th Anniversary THE SUPER TOUR OF MISIA Live Ver.)(MISIA公式チャンネル)
20年という時間は、音楽の中でも、暮らしの中でも、大切なものだけを静かに残していきます。
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