灰(ASH)というのは、何かが燃え尽きたあとに残るものです。それは終わりの証であると同時に、次の何かが始まる土壌にもなります。森が山火事のあとに新しい緑を芽吹かせるように、灰は終わりと始まりの、ちょうど境目に位置する物質です。Nulbarichの「ASH feat. Vaundy」は、そのタイトル通り、何かを終えて次のフェーズへ向かおうとする者たちの、静かな決意を歌った1曲です。80年代、90年代のテイストを下敷きにしながら、サビではJQとVaundyのキャッチーな掛け合いが展開される。懐かしさと新しさが同居するこの曲は、まさに灰の中から次の炎が立ち上がる瞬間を音にしたような、独特の高揚感を持っています。
ロサンゼルスと日本、離れた場所からの共作
「ASH feat. Vaundy」は、2020年10月28日にリリースされたNulbarichの楽曲で、シンガーソングライターのVaundyをフィーチャリングに迎えたコラボレーションです。このコラボレーションは、Nulbarichの中心人物であるJQが、以前から親交のあったVaundyやヨルシカのn-bunaにオファーしたことで実現しました。JQ自身が前年末にさいたまスーパーアリーナでワンマンライブを行い、「Nulbarichが2ndフェーズに向かうにあたって、何をするのが面白いのか」と考えたときに、ふと思い浮かんだのがこのコラボレーションだったといいます。
興味深いのは、この曲の制作環境です。当時、拠点をアメリカ・ロサンゼルスに移していたJQと、日本で活動するVaundyが、直接顔を合わせることなく、オンライン上でアイデアを練りながら1曲を完成させました。太平洋を隔てた2人が、それぞれの制作環境で音を重ね合い、1つのダンスポップ・チューンを作り上げる。物理的な距離を越えて音楽が生まれる、今の時代らしい制作の形が、この曲の背景にあります。
拠点の違う2人が生む化学反応
離れた場所にいる2人が、それぞれの持ち味を持ち寄って1つの作品を作る。この創作の形は、音楽に限らず、あらゆる仕事に通じるものがあると思います。私自身、東京にいた頃は、同じオフィスにいる同僚と顔を合わせて仕事を進めることが当たり前でした。けれど、地方に拠点を移した今は、離れた場所にいる相手と、オンラインでやり取りしながら物事を進める機会が格段に増えています。物理的に同じ場所にいなくても、それぞれが自分の持ち場で力を発揮し、それを持ち寄ることで、1人では作れないものが生まれる。この曲の成り立ちは、そうした新しい協働の形を象徴しているように感じます。
JQとVaundyという、それぞれ独自の音楽性を確立したアーティスト同士の共演は、単純に足し合わせるだけでは生まれない化学反応を起こしています。80年代・90年代のテイストという共通の土台の上で、それぞれの個性がぶつかり合い、混ざり合う。この曲を聴くと、異なる場所、異なる時代の感性を持つ者同士が出会うことで、まったく新しい何かが生まれる可能性を感じさせられます。
磐田から生まれる、それぞれのASH
磐田で仕事をしていると、東京にいた頃とは違う形で、遠く離れた人たちとつながる機会が増えました。オンラインでの相談対応、遠方に住む相続人とのやり取り。物理的な距離があっても、テクノロジーを介して、丁寧に想いを交わすことは十分にできるのだと、日々実感しています。この曲が、ロサンゼルスと日本という遠く離れた場所から生まれたように、地方にいながらでも、遠くの誰かと力を合わせて何かを作り出すことは、今の時代なら十分に可能です。
灰は終わりの印であると同時に、次の始まりの土壌でもあります。東京での日々を終えて磐田に戻ってきた自分自身の歩みも、ある意味ではこの曲のタイトルと重なります。何かを燃やし尽くした場所から、次の芽吹きが始まる。JQとVaundyが距離を越えて生み出したこの曲のように、離れた場所にいる誰かとの協働から、これからも新しい何かが生まれていくのだと、この曲を聴くたびに前向きな気持ちにさせてもらっています。
ATAWI MUSICは、音楽を消費するサイトではありません。曲をきっかけに、距離を越えて生まれる化学反応の記憶を読み直す場所です。
