ページ作成日: 2026年7月5日
元にしたYouTubeリンク: https://www.youtube.com/watch?v=JAT7qi7LXGU
確認した動画: Nulbarich -STEP IT (Official Music Video)(Nulbarich本人公式チャンネル)

「STEP IT」は、Nulbarichが2022年3月16日に配信リリースした楽曲で、貝印のメンズグルーミングブランド「AUGER(オーガー)」のWeb CMソングとして書き下ろされた一曲である[1][2]。同年3月23日発売のミニアルバム『HANGOUT』のリード曲としても収録された[3]。作詞はJeremy Quartus(Nulbarichのボーカル・JQ)とRyan Octaviano、作曲はJQが手がけている[6]。ボーカルのJQ自身がブランドムービーの監修も担当しており、楽曲とCM映像が一体となって作られたタイアップである点が、この曲を特別なものにしている[1]。3月16日には丸山雄大監督によるミュージックビデオも公開され、ダンサーのBOXERが極寒の中で撮影に臨んだという[4][5]。派手な決意表明の歌ではなく、身支度を整えるという日常のささやかな時間に光を当てた楽曲であり、聴くほどに、その静かな軽やかさが効いてくる一曲だ。

大石セレクション:MVがいい ★★★★★

  • 曲がいい:★★★★☆
  • 歌詞がいい:★★★★☆
  • MVがいい:★★★★★

選定理由:この曲は、曲としても歌詞としても十分に魅力的だが、突出しているのは丸山雄大監督が手がけた公式MVである。極寒の中で撮影されたからこそ生まれた白い息、鏡を使った演出、ダンサーBOXERが刻む軽やかなステップ。非日常と日常が混ざり合う不思議な空間の作り方が具体的かつ緻密で、映像を見ることで曲の意味が一段深まる。CMソングという成り立ちを考えても、この曲は「音だけ」より「映像込み」で出会うことでいちばん力を発揮するタイプの作品だと感じたため、主視点はMVがいいに置いた。

グルーミングブランドのために書かれた、軽やかなダンスチューン

「STEP IT」が生まれた経緯は、企業タイアップという言葉から連想されるような、後付けの起用ではない。貝印が新たに立ち上げたメンズグルーミングツールブランド「AUGER」のコンセプトは「Kiss our humanity」というものだったという[2]。JQはこの楽曲について、「身だしなみを整えるという事は同時に心が整うという事、満足いく仕上がりになれば心も踊る。そんな日常の些細な幸せの瞬間を描写した楽曲です」とコメントしている[2]。派手な決意や大きな転機を歌うのではなく、朝、鏡の前で身なりを整えるという、誰もが繰り返している小さな儀式に目を向けたところに、この曲の独自性がある。Nulbarichというバンドは、ファンクやソウルを下敷きにしたグルーヴ感のある音作りで知られてきたが、「STEP IT」でもそのダンスミュージック的な軽さは健在だ。曲のタイトルである「ステップを踏む」という行為が、そのまま身支度を整えるリズムと重なるように作られている。企業ブランドの世界観を、単なるBGMとしてではなく、曲そのものの構造とテーマで体現しようとした一曲だと言える。収録されたミニアルバム『HANGOUT』には、ツアーで披露されていた「It's All For Us」や、タイの歌手Phum Viphuritとのコラボレーション曲「A New Day」なども収められており、この時期のNulbarichが多方向に音楽性を広げようとしていたことがうかがえる[3]。「STEP IT」は配信限定シングルとしても切り出されており、ビクターエンタテインメントの表記でも単独リリースとして扱われている[6]。CMソングでありながら、アルバムのリード曲としても機能する強度を持っていたということだろう。

鏡の前で、心も一緒に整えていく

この曲の歌詞を丸ごと引用することはしないが、繰り返し登場する「鏡」というモチーフについて考えてみたい。歌詞には「Step it Step it In the mirror」という言葉が印象的に置かれているという[7]。鏡というのは、自分の外側を映すはずの道具でありながら、実際に覗き込むときは、その日の気分や体調、内面の状態まで一緒に映し出してしまうものだ。身だしなみを整えるという行為は、他人の目を意識した外向きの作業のようでいて、実は自分自身との対話でもある。この曲が歌っているのは、そうした自分との小さな対話の時間なのではないかと思う。何か大きな決意を語るのではなく、鏡の前でリズムに乗るように支度を整えていく。うまく仕上がった朝は、それだけで心が軽くなる。そういう感覚を持ったことがある人なら、この曲の言葉が説明的すぎないことにも気づくはずだ。テーマ自体はシンプルだが、「日常の中の儀式」を軽やかな言葉で歌にできるというのは、案外難しいことでもある。深刻ぶらずに、しかし軽薄にもならずに、身支度という誰もが行う行為に居場所を与えている。そのバランス感覚に、この曲の歌詞の強さがある。

極寒の白い息と、鏡の演出が作る不思議な空間

公式ミュージックビデオは、丸山雄大が監督を務めた[4]。丸山はミュージックビデオだけでなく、ドキュメンタリーやコマーシャルなど幅広い映像を手がけ、シネマティックな画づくりに定評のある映像作家だという[4]。この映像には、日本を代表するダンサーの一人であるBOXERが起用されている[4][5]。BOXERが体現するのは、「非日常と日常が混ざったような不思議な空間の中で、楽曲のタイトル通り軽快なステップと共に身も心も整えていくひとりの男性の姿」だという[4]。実際の撮影は極寒の環境で行われ、そこで生まれた白い息が幻想的な雰囲気を作り出している[4][5]。寒さの中で吐く息は、体温という、目に見えないはずのものを可視化する現象でもある。身支度を整えて出かける前の、まだ誰にも見られていない静かな時間。その体温や緊張感が、白い息という形で画面に残っている。歌詞に出てくる鏡も、映像の中で印象的に使われているという[4]。鏡に映る自分と向き合いながらステップを踏むダンサーの姿は、「身支度を整える」という行為の外側と内側を同時に見せる仕掛けになっている。CMソングとしての出自を考えると、映像が製品や企業の意図を押し付けてくる可能性もあったはずだが、実際のMVは、ブランドの主張よりも、一人の人間が自分自身と向き合う静かな時間の方を丁寧に描いている。だからこそ、CMソングという枠を超えて、単体の作品として繰り返し見たくなる強さを持っているのだと思う。

小さな一日の始まりを、もう一度

「STEP IT」は、大きな物語を語る曲ではない。けれど、鏡の前で身支度を整える数分間にも、その日一日を左右するだけの意味があるのだと、静かに教えてくれる曲でもある。CMソングとして生まれ、ミニアルバムのリード曲として育ち、丸山雄大とBOXERによる映像を得て、一つの完成された作品になった。その成り立ちを知ってから聴き直すと、軽やかなグルーヴの中に、思いのほか丁寧な設計があることに気づかされる。

参考リンク

音楽には、日々の小さな儀式を照らす力があります。家や土地にもまた、誰かが積み重ねた暮らしの時間が残っています。

静岡県磐田市周辺で、相続した実家・空き家・土地建物の整理にお悩みの方は、富士ヶ丘サービスまでご相談ください。

書いた人

大石浩之。静岡県磐田市で、介護と不動産の仕事をしています。 若い頃に東京で過ごした時間、仕事の中で見てきた家族や街の記憶、 そして今暮らす磐田で感じることを、音楽をきっかけに書いています。

音楽は、過去の自分に会いに行くための入口です。 家や土地もまた、誰かの記憶が残る場所だと思っています。