ポケットの中というのは、いつも持ち歩いていたい、大切なものをしまっておく場所です。鍵、財布、お守り。誰にでも、無意識のうちにポケットに入れて確かめる習慣のようなものがあるのではないでしょうか。Nulbarichの「In Your Pocket」は、そういう身近で個人的な大切さを、ファンクネスあふれるグルーヴに乗せて歌い上げた1曲です。あなたのポケットの中にいたい、という、控えめでありながら深い愛情表現。この曲のリズムに身を委ねていると、大げさな愛の言葉よりも、こういうさりげない存在の仕方の方が、実はいちばん確かな絆を表しているのではないかと感じさせられます。
JQという声が、初めて姿を見せた曲
「In Your Pocket」は、2017年11月28日にミュージックビデオが公開された楽曲で、同年12月6日発売のEP『Long Long Time Ago』に収録されました。のちに、2018年3月7日発売の2ndアルバム『H.O.T』にも収録されています。この曲は、Nulbarichのボーカルであり中心人物であるJQが、初めて姿を見せた楽曲としても知られています。それまで顔を明かさず活動していたバンドが、この曲でようやくJQの存在を可視化させたことは、リスナーにとって大きな出来事でした。
声だけの存在から、姿を持った存在へ。この曲を境に、Nulbarichというバンドの物語は、新しい段階に進みました。ポケットの中という、非常に個人的でプライベートな場所をテーマにした曲で、初めて自分自身を明かすという選択には、どこか象徴的な意味を感じます。プライベートな親密さを歌う曲だからこそ、そこに自分の姿をさらすことにも、必然性があったのかもしれません。
ポケットの中の、確かな存在
東京で働いていた頃、財布やスマートフォンと一緒に、いつもポケットに入れていた小さなお守りがありました。特別な力を信じていたわけではありませんが、それがそこにあるという事実だけで、不思議と安心できました。大切な人や物は、必ずしも目に見える形で誇示される必要はありません。ただ、自分のすぐそばに、確かに存在しているという感覚だけで、十分に支えになることがあります。「In Your Pocket」というタイトルが持つ親密さは、まさにそういう、控えめだけれど確かな絆の形を歌っています。
華やかな愛の言葉よりも、日常の中にさりげなく寄り添う存在の方が、実は長く続く関係を作ります。この曲のグルーヴが持つ心地よさは、そうした、誇示しない愛情表現の豊かさを教えてくれます。
磐田で持ち歩く、ポケットの中の記憶
磐田で家や土地の相談を受けていると、空き家の整理の中から、故人が長年ポケットや引き出しに大切にしまっていた小さな品物に出会うことがあります。特別高価なものではなくても、その人にとってかけがえのない存在だったことが、しまわれ方から伝わってきます。誰かにとっての「ポケットの中」にあり続けたものには、言葉にならない愛着の記憶が宿っています。
「In Your Pocket」を聴くたびに、そうした、目立たないけれど確かな存在の大切さを思い出します。この曲がJQという声の姿を初めて見せた曲であるように、目に見えない大切さが、ある日ふと形になって現れることもあるのだと、あらためて感じさせられます。
ATAWI MUSICは、音楽を消費するサイトではありません。曲をきっかけに、そばにあり続けた大切なものの記憶を読み直す場所です。
