山下達郎さんのカバー、リメイクが、新しい。この感想は、良いカバー曲が持つべき条件を、そのまま言い当てていると思います。原曲へのリスペクトを保ちながら、それをただなぞるのではなく、まったく新しい響きへと生まれ変わらせる。Nulbarichによる「MAGIC WAYS」は、まさにそういうカバーの理想形です。1984年という時代に生まれたシティポップの名曲を、2022年のNulbarichというフィルターを通すことで、古さを感じさせない、むしろ今この瞬間に生まれたばかりのような新鮮さを持つ楽曲に仕上げています。世界的に再評価が進む日本のシティポップというジャンルを、当のNulbarichならではの解釈で再構築するというこの試みは、温故知新という言葉がふさわしい、見事な仕事だと思います。
初めてのカバー、選ばれたのは達郎
「MAGIC WAYS」は、2022年8月17日に配信リリースされた、Nulbarichにとって初めてとなるカバー曲です。原曲は、山下達郎が1984年に発表したアルバム『BIG WAVE』に収録されている楽曲です。ボーカルのJQは、これまで一度もやったことがなかったカバーという試みに挑戦するにあたり、時間をかけて選曲したと語っています。世界各国で近年再評価が進んでいる日本のシティポップを、Nulbarichならではの視点で解釈し再構築したこの1曲は、単なる懐古ではなく、現在進行形の音楽的挑戦として作られました。
JQ自身、「一人のファン・クリエイター・シンガーとして大好きな山下達郎さんの『MAGIC WAYS』を、単なるカバー企画ではなくバンドのフィルターを通して仕上げることができた」とコメントしています。尊敬する先人の作品を、ただ真似るのではなく、自分たちの音楽性を通して新しく生まれ変わらせる。この姿勢こそが、このカバーを単なる企画物ではない、本物の作品にしています。
古いものを新しく響かせる技術
東京で働いていた頃、古い建物をリノベーションして新しい価値を生み出す仕事に関わる人たちを見てきました。古いものをそのまま保存するのでもなく、すべてを壊して新しくするのでもない。古いものが持つ良さを残しながら、今の時代に合った形に作り変える。これは決して簡単な作業ではありません。「MAGIC WAYS」のカバーも、まさにそういうリノベーションの仕事に近いものだと感じます。1984年の名曲が持つメロディーの良さを損なわずに、2022年の耳にも新鮮に響くサウンドへと作り変える。この橋渡しの技術こそ、優れたカバーの条件だと思います。
山下達郎という、シティポップというジャンルそのものを象徴するアーティストの曲をあえて選んだことにも、意味があります。ジャンルの源流に敬意を払いながら、その源流を今の時代の水路へと導き直す。この曲は、世代を越えて音楽が受け継がれていく、理想的な連鎖の形を見せてくれています。
磐田で受け継ぐ、古きよきものの新しさ
磐田で家や土地の相談を受けていると、古い家や土地を、どう次の世代に受け継いでいくかという相談によく出会います。古いものをそのまま残すことだけが正解ではなく、時には手を加え、今の暮らしに合った形に作り変えることも必要です。「MAGIC WAYS」のカバーが見せてくれた、古きよきものを新しく響かせる姿勢は、家や土地を受け継ぐ仕事の中でも、大切な指針になっています。
山下達郎さんのカバー、リメイクが、新しい。この言葉のとおり、過去を尊重しながら、それを今の形に生まれ変わらせること。それができたとき、古いものは決して古びず、むしろいつまでも新しくあり続けるのだと、この曲は教えてくれています。
ATAWI MUSICは、音楽を消費するサイトではありません。曲をきっかけに、古いものを新しく受け継いできた記憶を読み直す場所です。
