ページ作成日: 2026年7月1日
元にしたYouTubeリンク: https://youtu.be/TQ8WlA2GXbk
確認した動画: Official髭男dism - Pretender[Official Video]

Official髭男dism「Pretender」を初めて聴いた時のことを、今でもよく覚えています。衝撃的でした。曲が始まってすぐ、これは自分が今まで聴いてきた音楽の延長線上にあるものではないと感じました。声の高さ、メロディの動き方、コードの重ね方、歌の情報量。どれもが、こちらの予想を軽々と越えていきます。若い頃に馴染んだ歌謡曲やJ-POPの物差しでは、うまく測れないところに、この曲は立っていました。

そして正直に言えば、その衝撃と同時に、こう思いました。若い世代にはもう勝てない、と。歌の技術も、感覚も、表現の幅も、自分が現役だと思っていた頃とは別の次元に進んでいる。悔しさというより、静かな納得でした。時代は確かに動いていて、その先頭にはもう自分はいない。だから、ろーとるはろーとるの役割を果たそう。この曲は、そんなふうに自分の立ち位置を考え直させてくれた一曲です。ATAWI MUSICで書くなら、憧れや解説ではなく、渡していく側になった人間の心境として書き残しておきたいと思います。

初めて聴いた時の衝撃

音楽を長く聴いてきた人間ほど、たいていの曲は、どこかで聴いた感じの中に落ち着いていきます。ああ、この系統か。この人はこういう歌い方か。そうやって整理して受け止めてしまう。ところが「Pretender」は、その整理の枠に入りませんでした。サビに向かって声がどこまでも伸びていく感じ、メロディが予想外の方向へ跳ねていく感じ、それでいて全体がきれいにまとまっている感じ。聴き慣れた耳ほど、むしろ驚かされます。

特に響いたのは、技術が高いのに冷たくないところでした。難しいことをやっているのに、感情がちゃんとこちらに届く。上手さを見せつけるための上手さではなく、伝えたいものがあるから結果として上手くなっている。そういう歌に聞こえました。若い世代の音楽は軽い、という言い方をする同世代もいますが、少なくともこの曲はそうではありませんでした。むしろ、こちらが背筋を伸ばして聴かないと失礼だと感じるほどの密度がありました。

衝撃という言葉を軽々しく使いたくはありませんが、この曲に関しては、それ以外の言い方が見つかりません。自分が知らないうちに、音楽はここまで進んでいたのか。そう気づかされた瞬間でした。そしてその気づきは、少しの寂しさと、それ以上の敬意を連れてきました。分からないものを拒むのではなく、分からないほど進んでいるものに素直に驚けたことが、自分にとっては救いだったように思います。

若い世代にはもう勝てない、と思った

「もう勝てない」という言葉には、負けを認めるつらさよりも、どこか肩の力が抜けるような感覚がありました。若い頃は、新しいものに触れると、どこかで張り合っていた気がします。自分にもまだできる、遅れていない、と。けれど、ある年齢を過ぎると、その張り合い自体が少しずつ意味を失っていきます。速さや勢いで先頭を走るのは、もう自分の役目ではない。それを認めることは、負けというより、卒業に近いものでした。

「Pretender」を聴いて感じた「勝てない」は、卑下ではありません。若い世代が、自分たちには届かなかった高さまで表現を進めている。それは喜ぶべきことです。前の世代が積み上げたものの上に、さらに新しいものが乗っている。文化とはそういうふうに続いていくものだと、この曲は教えてくれました。自分がその頂点に立てないことは、文化が健全に前へ進んでいる証拠でもあります。だから、悔しさはすぐに、頼もしさに変わりました。

年齢を重ねて分かってきたのは、勝ち負けの土俵から降りたところに、別の役割があるということです。先頭を走れなくても、道を整えたり、後ろから見守ったり、渡すべきものを渡したりする役割がある。ろーとるはろーとるの役割を果たそう、という言葉は、そこから出てきました。この曲を聴いた時に湧いた「勝てない」という感覚は、実は「次の世代に任せられる」という安心の入口だったのだと、今は思います。

ろーとるは、ろーとるの役割を

磐田で仕事をしていると、若い世代と関わる場面が少なくありません。不動産や家の相談、介護の現場、地域のさまざまなやりとり。そこで痛感するのは、時代の感覚も、道具の使い方も、動きの速さも、自分より若い人のほうが圧倒的に長けているということです。かつては自分が引っ張る側だと思っていました。けれど今は、若い人のほうがよほど的確に、よほど速く物事を進めていきます。「Pretender」を聴いて感じたことは、そのまま日々の実感と重なります。

それでも、年を重ねた人間にしかできないことはあります。土地や家にまつわる長い記憶を知っていること。急がずに人の話を聴けること。売る、残す、片づける、継ぐ、といった重い決断の裏にある感情を、時間をかけて受け止められること。速さでは若い世代に敵わなくても、遅さの中で拾えるものがあります。ろーとるの役割とは、たぶんそういうことです。先頭を譲り、後ろに回って、次に渡すべきものを静かに整えておく。

「Pretender」は、若い才能の凄みを見せつける曲でありながら、聴いているこちらに自分の立ち位置を考えさせてくれる曲でもありました。もう勝てないと素直に思えたからこそ、では自分は何をする側なのか、と考えられた。張り合うのをやめると、見えてくる景色があります。次の世代がここまで来ているなら、自分は自分の場所で、渡せるものを渡していけばいい。そう思わせてくれたこの曲を、ATAWI MUSICの一枚として、感謝を込めて書き残しておきます。音楽は勝ち負けではなく、受け渡しなのだと、この曲が教えてくれました。