タイトルに「Re:」と付いた曲を見かけると、私はいつも少し立ち止まってしまいます。メールの返信、誰かからの手紙への返事。「Re:」という2文字には、その前に誰かの言葉があったことが前提として刻まれています。Official髭男dismの「Re: PLAYLIST」というタイトルも、まさにそういう曲です。すでにある誰かのプレイリストへの返信なのか、それとも過去の自分がつくったプレイリストへ、今の自分が返事を書いているのか。どちらとも取れる、静かな余白を持ったタイトルだと思います。この曲がYouTubeに公開されたのは2018年7月27日[1]。Official髭男dismが同年4月にメジャーデビューを果たし、1stフルアルバム『エスカパレード』を8月に控えていた、ちょうど助走の途中にあたる時期です。当時の私はまだ東京で働いていて、通勤電車の中でイヤホン越しに新しいバンドの曲を追いかけるのが、ささやかな楽しみでした。「Re: PLAYLIST」も、そうやって偶然に近い形で耳に入ってきた一曲です。
メジャーデビュー直後、助走の途中に置かれた一曲
Official髭男dismは、2018年4月11日にシングル「ノーダウト」でメジャーデビューし、同年8月8日に1stフルアルバム『エスカパレード』をリリースしています[3]。「Re: PLAYLIST」のミュージックビデオが公開されたのは、その中間にあたる7月27日[1]。つまりこの曲は、デビューの熱がまだ冷めやらないうちに、次のアルバムへの期待をつなぐタイミングで届けられた一曲だということになります。派手なタイアップを引っさげての登場ではなく、バンドが自分たちの歩幅で、リスナーとの距離を少しずつ詰めていく時期の曲です。Official髭男dismの楽曲の多くは、ボーカルの藤原聡が作詞作曲を手がけていることで知られており[4]、「Re: PLAYLIST」もその系譜にある一曲と見られます。ただし、この曲単体についての公式なクレジット表記や、収録作品としての位置づけを裏付ける一次情報は、今回確認できた範囲では見つかりませんでした。断定はできませんが、YouTube上でOfficial Videoとして単独公開されている点から、当時の配信を軸にした施策の一環だったと推測できます。
この曲がリリースされた2018年前後、Official髭男dismはすでに「Pretender」や「ノーダウト」といった曲でメディアへの露出を増やし始めていた時期でもあります。派手な代表曲の陰に隠れがちですが、こういう時期に差し込まれる曲にこそ、バンドの素の姿勢が出るように思います。ヒット曲を狙いにいく前の、まだ肩の力が抜けた時間の中で書かれた曲だからこその、率直さがあるのかもしれません。
ピアノに導かれる、丁寧な語り口
「Re: PLAYLIST」を聴いて最初に印象に残るのは、ピアノが曲全体の輪郭をつくっていることです。Official髭男dismというバンド名からロックバンドを想像すると、ギターの疾走感を期待しがちですが、この曲はむしろ歌謡曲的な佇まいに近い。イントロのピアノが静かに場を整え、そこに藤原聡のボーカルが、急かすことなく言葉を置いていく。声の通り方は決して大声で叫ぶタイプではなく、むしろ耳元でそっと話しかけてくるような距離感があります。サビに向かうにつれてバンドサウンドが厚みを増していきますが、それでも音数が過剰に膨らむことはなく、常に「歌」を聴かせることを最優先にした設計になっているように感じます。何度か聴き返すうちに気づくのは、Aメロとサビの間の落差の付け方が、決して劇的すぎないという点です。感情を一気に爆発させるのではなく、少しずつ温度を上げていく。だからこそ、聴き終えたあとに残るのは高揚感というより、静かな余韻です。イヤホンで聴くと、ピアノの粒立ちとコーラスの重なりが丁寧に配置されているのがよくわかり、何度も聴き返す価値のある曲だと思います。曲としての完成度は高く、決して主役の座を譲るような弱さはありませんが、この曲が本当に語りたいものは、旋律よりも言葉の側にある。私にはそう感じられました。
「Re:」というタイトルが問いかけてくるもの
この曲の歌詞をそのまま書き写すことはしませんが、冒頭で歌われているのは、手紙を書くように、キスをするように、偽りのない気持ちを届けようとする姿勢です[2]。ラブレターのようでもあり、もっと広く「誰かに向けて言葉を紡ぐこと」全般についての歌のようにも聴こえます。「PLAYLIST」という単語が示すのは、誰かのために選んだ曲の並び。恋人へのプレイリストかもしれませんし、過去の自分がつくった、今はもう聴き返さなくなった再生リストかもしれません。そこに「Re:」が付くことで、この曲は単なるラブソングの枠を超えて、「過去に交わした言葉への返信」という構造を持つようになります。誰かがくれたプレイリストに、今の自分の言葉で応える。あるいは、かつて自分が誰かに贈った曲たちに、今になって自分自身が返事を書く。そのどちらの読み方をしても成立してしまう曖昧さこそが、このタイトルの巧妙さだと思います。恋愛の歌として聴けば甘さが際立ちますが、「記憶への返信」という視点で聴くと、この曲は驚くほど普遍的な奥行きを持ち始めます。手紙、キス、プレイリストという具体的なモチーフを並べながら、その奥にあるのは「言葉にすることの誠実さ」というテーマなのだと、聴くたびに感じます。歌詞全体を通して、飾り立てた比喩よりも、まっすぐに気持ちを差し出そうとする姿勢が一貫しており、それがこの曲の一番の強さだと私は思います。
東京で聴いた曲に、磐田で返事を書く
東京で働いていた頃の私は、今よりもずっと多くの音楽を、目的もなく聴いていました。仕事帰りの電車、休日の作業中、あるいは眠れない夜。そうやって積み重なった曲のリストは、今思えば一種のプレイリストのようなものだったのだと思います。磐田に移り、介護と不動産の仕事を始めてから、当時よく聴いていた曲を久しぶりに再生する機会がありました。「Re: PLAYLIST」もその一つです。あの頃と同じメロディなのに、聴こえてくる手触りは少し違う。当時は恋愛の歌として素直に受け取っていた歌詞が、今は「誰かに向けて丁寧に言葉を届けること」そのものについての歌のように聴こえてきます。この仕事をしていると、ご相続で実家を手放される方や、長く空き家のままだった家の整理を任される方と、たくさんの会話を重ねます。そこには、故人が遺した手紙や、家族が昔よく聴いていたレコード、子どもの頃の写真アルバムが出てくることも珍しくありません。それらは、その家に暮らした人たちの「プレイリスト」のようなものだと、私は感じています。誰かが選び、大切に残してきた記憶の並び。それに対して、今を生きる家族がどう向き合い、どう返事を書くか。「Re: PLAYLIST」というタイトルを聴くたびに、私はそうした場面を思い出します。過去への返信は、必ずしも寂しいものではありません。むしろ、きちんと向き合って言葉を返すことができれば、それは次の時代への静かな一歩になるのだと、この曲は教えてくれる気がします。
参考リンク
- [1] Official髭男dism - Wikipedia
- [2] Official髭男dism「Re: PLAYLIST」歌詞ページ - Lyrical Nonsense
- [3] DISCOGRAPHY - Official髭男dism公式サイト
- [4] Official髭男dism(ヒゲダン)のボーカル藤原聡の経歴や魅力を解説! - エンタメクロス
- [5] Official髭男dism - Re: PLAYLIST[Official Video] - YouTube
プレイリストに残された曲が誰かの記憶であるように、家や土地にも、その人が生きた時間が刻まれています。
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