ページ作成日: 2026年7月5日
元にしたYouTubeリンク: https://www.youtube.com/watch?v=p1qM75a9FeE
確認した動画: 「Official髭男dism - HELLO」公式ミュージックビデオ(Official髭男dism公式YouTubeチャンネル)

朝のテレビから流れてくる曲というのは、不思議と記憶に残る。忙しく身支度をしながら、半分眠っている耳で聴いていたはずなのに、何年か経ってからふと同じメロディに触れると、あの頃の朝の匂いや光の感じまで一緒によみがえってくる。Official髭男dismの「HELLO」は、まさにそうした朝の記憶に紐づいている人が多い曲だろう。フジテレビ「めざましテレビ」のテーマ曲として2020年に世に出たこの曲は、派手さよりも、日々を静かに肯定する力を持っている。

大石セレクション:歌詞がいい ★★★★★

  • 曲がいい:★★★★☆
  • 歌詞がいい:★★★★★
  • MVがいい:★★★★☆

選定理由:「HELLO」というタイトルそのものが、この曲の思想を体現している。出会いや再会を、ドラマチックな出来事としてではなく、毎朝繰り返される小さな挨拶として描いているところに、この曲の歌詞の強さがある。曲もMVも十分に完成度が高いが、聴くたびに「今日をどう迎えるか」という自分自身への問いかけとして響いてくるのは、言葉の置き方によるところが大きい。だからこそ、主視点は歌詞に置いた。

朝の情報番組のために書かれた曲

「HELLO」は、Official髭男dismが2020年3月に発表した「めざましテレビ」新テーマソングとして制作された曲で、同年3月30日から約1年にわたってオンエアされた。作詞・作曲はボーカルの藤原聡が手がけ、編曲はメンバー全員によるクレジットとなっている。デジタル配信は2020年7月24日に先行して行われ、その後8月5日に発売された3rd EP『HELLO EP』に表題曲として収録された。このEPには、カルピスウォーターのCMソングとして先に発表されていた「パラボラ」や、映画「劇場版 コンフィデンスマンJP プリンセス編」の主題歌「Laughter」なども並んでおり、この時期の髭男が数々のタイアップを一気に引き受けていたことがわかる。さらに「HELLO」は、翌2021年8月発売のスタジオアルバム『Editorial』にも収録され、バンドの代表曲のひとつとして定着していった。

特筆すべきは、この曲が「めざましテレビ」という朝の情報番組のために書き下ろされた点だ。ドラマやアニメのような明確な物語がある媒体ではなく、視聴者の日常そのものに寄り添う番組の顔として作られている。だからこそ歌詞は、特定の誰かに向けたラブソングというより、画面の前にいるすべての人に向けた「おはよう」の言葉として設計されている。この曲はBillboard JAPAN Hot 100で最高4位、ダウンロードソングチャートでも4位を記録するなど、放送を通じて着実にリスナーへ浸透していった。

爽やかさの中にある、確かな手応え

曲そのものの作りを見ていくと、イントロから軽やかなギターとリズムが顔を出し、聴き手を身構えさせずに曲の中へ引き込んでいく。Aメロは会話のように語りかける近さを保ち、サビに向かうにつれて音数が増え、視界が開けるような明るさへと切り替わっていく。藤原聡のボーカルは、伸びやかな高音と、少しかすれた実直な低音を使い分けながら、聴く人の一日の始まりに寄り添う温度感を保っている。

髭男というバンドは、時に転調やリズムの変化を大胆に仕掛ける曲を得意とするが、「HELLO」はあえてそうした技巧を前面に出さず、シンプルな進行を選んでいる。これは朝という時間帯、忙しい支度の合間に流れることを前提にした曲だからこそのバランス感覚だろう。派手な仕掛けがない分、何度聴いても疲れない。そこにこの曲の「曲としての強さ」がある。ただし、他の髭男楽曲に見られるような大胆な展開の妙までは求められていないため、曲そのものの評価は「非常に高い」の一歩手前に置いた。

「HELLO」という言葉に込められた出会いの思想

この曲の歌詞を丸ごと引用することはしないが、その骨格にあるのは「出会い」と「再会」を、大きな運命の物語としてではなく、日々の暮らしの中の小さな儀式として描く視点だ。誰かと初めて言葉を交わす瞬間も、慣れ親しんだ人ともう一度顔を合わせる朝も、この曲は同じ「HELLO」というシンプルな一語でつないでいく。特別な出来事がなくても、今日という日にもう一度挨拶を交わせること自体が、ひとつの奇跡なのだと静かに肯定しているように聞こえる。

歌詞の中で繰り返される呼びかけの言葉は、恋愛の対象だけに向けられているわけではない。画面の前で身支度をする視聴者、遠くにいる誰か、あるいは過去の自分自身にも重ねて読める余白が用意されている。だからこそ、聴く年齢やその日の気分によって、この曲が指し示す「相手」が変わってくる。忙しい日々の中で見失いがちな「出会いのありがたさ」を、説教くさくなく、押しつけがましくもなく、そっと差し出してくる。ここに、この曲の歌詞の一番の強さがあると思う。

公式MVが描く、窓の向こうの人々

公式ミュージックビデオは、CMやドラマの演出でも知られる森本千絵がディレクションを手がけ、映像の中には山崎貴によるCG表現も取り入れられている。窓越しに映る人々の表情が次々と移り変わっていく構成になっており、一人ひとりの生活や感情がまるでオムニバスのように積み重ねられていく。特定の主人公を追うのではなく、たくさんの「誰か」の朝を並べていく作り方は、この曲が特定の物語ではなく、視聴者全員に向けて書かれていることと呼応している。

映像の色調は柔らかく、過度に演出的な派手さは抑えられている。曲の爽やかさとテンポにしっかり寄り添いながらも、見る人によって「この窓の向こうにいるのは自分かもしれない」と思わせる余地を残しているのが印象的だ。映像単体としての完成度は高いが、この曲の核心にある「言葉の射程の広さ」を超えるほどの衝撃を与えるものではないため、MVの評価は僅差で歌詞の下に置いた。

大石浩之が「HELLO」に重ねる、出会いと再会の記憶

私自身、東京で働いていた時期があった。慣れない土地で、初めて顔を合わせる人ばかりの毎日を過ごしていた頃、朝のニュース番組を眺めながら支度をするのが日課だった。その頃に「HELLO」がテレビから流れていたのを覚えている。当時はただの朝のBGMとして耳を素通りしていたが、今こうして磐田に戻り、介護や不動産の仕事を通じて人と向き合う日々を送っていると、この曲の意味がまるで違って聞こえてくる。

介護の現場では、毎朝が「出会い直し」の連続だ。昨日と同じ利用者さんでも、その日の体調や表情はまったく同じではない。だからこそ、こちらから発する「おはようございます」の一言には、単なる挨拶以上の意味が宿る。不動産の仕事でも同じで、実家の整理や空き家の相談で訪れる方々とは、最初はまったくの初対面から始まる。緊張した面持ちで話し始めた方が、帰り際には少し柔らかい表情になっている。その変化に立ち会うたび、「HELLO」という一語がどれだけの距離を縮められるかを実感する。この曲が描いている「出会いは日常の中に何度でも訪れる」という感覚は、今の自分の仕事そのものと静かに重なっている。

参考リンク

音楽には、その時々の暮らしの記憶が残ります。家や土地にもまた、誰かの暮らしと出会いの記憶が残っています。

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書いた人

大石浩之。静岡県磐田市で、介護と不動産の仕事をしています。 若い頃に東京で過ごした時間、仕事の中で見てきた家族や街の記憶、 そして今暮らす磐田で感じることを、音楽をきっかけに書いています。

音楽は、過去の自分に会いに行くための入口です。 家や土地もまた、誰かの記憶が残る場所だと思っています。