ページ作成日: 2026年7月5日
元にしたYouTubeリンク: https://www.youtube.com/watch?v=oavrIKPzgjA
確認した動画: ぷにぷに電機×Kan Sano『ずるくない?』OfficialMV(ぷにぷに電機 - Punipunidenki 本人公式チャンネル)

「ずるくない?」というタイトルの語感には、責めるような鋭さがない。むしろ、いたずらを見抜かれた側が、少し口角を上げて返すような余裕がある。ぷにぷに電機が作詞作曲を手がけ、キーボーディスト・プロデューサーのKan Sanoがサウンドプロデュースを担当したこの曲は、2021年5月26日、PARKレーベルからシングルとしてリリースされた[1]。「隠れ家BARでのクールな駆け引き」というテーマが公式に掲げられている通り[1][2]、ここで描かれているのは、感情をぶつけ合う恋愛の熱ではなく、探り合いながら互いへの興味を確かめていく、もう少し引いた温度の関係性である。

大石セレクション:曲がいい ★★★★★

  • 曲がいい:★★★★★
  • 歌詞がいい:★★★★☆
  • MVがいい:★★★★☆

選定理由:この曲の一番の聴きどころは、Kan Sanoが手がけたサウンドプロデュースにある。ジャズやソウルの語法を踏まえたコード運びと、バックコーラスとして自ら重ねる声の質感が、ぷにぷに電機のボーカルを立てながらも曲全体の温度を丁寧に整えている。歌詞の駆け引きというテーマも、渋谷のレコードバーで撮られた公式MVも十分に魅力的だが、「一度作家性の違う2人が組んだときにしか生まれない音の完成度」を語れる強さという点で、主視点は曲がいいに置いた。

隠れ家BARというテーマから生まれた1曲

この曲がどのように作られたかは、公式のニュースリリースで比較的はっきりと辿ることができる。作詞・作曲はぷにぷに電機自身によるもので、サウンドプロデュースとバックコーラスをKan Sanoが担当している[1]。ぷにぷに電機は、もとはジャズシンガーとしての活動歴を持ちながら、ネットミュージックやゲームミュージックへの関心を経て、コミックマーケットへの出展をきっかけに現在のスタイルへとたどり着いたインターネット発のシンガー・プロデューサーである[5]。ジャズやボサノバ、ラテンといった素養を土台にしながら、シティポップやフューチャーファンクなど、ジャンルを軽やかに横断する音楽性を持つ作家だ。一方のKan Sanoは、バークリー音楽大学でジャズ作曲を学び、2011年のソロデビュー以降、CHARAや土岐麻子、大橋トリオ、青葉市子といったアーティストのライブやレコーディングに参加してきたキーボーディスト・プロデューサーである[6]。この2人が組んだとき、単なる客演では終わらない何かが生まれる。ぷにぷに電機が持つポップな旋律の骨格に、Kan Sanoが培ってきたジャズ的な和声感覚と生演奏の呼吸が重なることで、打ち込みだけでは出せない「人が弾いている手触り」が曲の随所に宿っている。実際、この2人の共演は一度きりでは終わらず、2024年12月にはおよそ3年半ぶりとなる新曲「真夜中はチャイナ・ブルー」でも再びタッグを組んでいる[7]。一度の化学反応で終わらせず、時間を置いて再びスタジオに戻ってくる。その事実だけでも、「ずるくない?」がその場限りのコラボレーションではなく、互いに信頼を置いた制作関係の始まりだったことが窺える。

マニアックに音の作りを追ってみると、イントロのわずかな小節から、すでにこの曲の設計図が透けて見える。派手なシンセの主張ではなく、鍵盤とベースが静かに空間を作り、そこにぷにぷに電機の声がすっと入ってくる。Aメロは言葉数を抑えながら、Bメロで少しずつ温度を上げ、サビでコード進行がふわりと開ける。この「開け方」が控えめなのがいい。劇的に転調して盛り上げるのではなく、あくまで大人の余裕を保ったまま、聴き手の耳だけを一段階持ち上げる。Kan Sanoのバックコーラスは主旋律を邪魔せず、むしろ影のように寄り添う形で配置されており、二重に重なる声の質感が、曲全体にジャジーな奥行きを与えている。ソウルフルでありながらポップに着地する、そのバランス感覚こそが、この曲を一度聴いただけで終わらせない理由だと思う。

駆け引きという言葉に込められた、もう一つの誠実さ

歌詞を丸ごと引用することはしないが、そのかわりに、この曲が描いている関係性の質感について考えてみたい。「ずるくない?」という問いかけは、相手を非難する言葉ではなく、むしろ相手の駆け引きに気づいた側が、それを面白がっているようなニュアンスを含んでいる。正面からすべての感情を明かし合うことだけが誠実さではない、という視点がこの曲の芯にある。手の内を少しだけ隠しながら、相手の反応を楽しみ、探り合う。それは一見するとずるさのようでいて、実は互いへの敬意と余裕がなければ成立しない、もう一段階大人びたコミュニケーションの形だ。歌詞に描かれる場面は、隠れ家的なバーの薄暗い照明の下で交わされる会話を思わせる。声を張り上げる必要のない距離感、視線と間合いだけで通じ合う呼吸。そうした情景を、説明的な言葉を重ねすぎずに描いているところに、この歌詞の余白の巧さがある。恋愛の駆け引きというテーマは使い古されたようでいて、「駆け引きこそが誠実さの一形態である」という逆説的な視点に立ったとき、この曲の言葉は急に新しく聞こえてくる。聴く側の年齢や経験によって、この駆け引きを幼く感じるか、それとも心地よい大人の距離感として受け取るかが変わってくる曲でもある。

渋谷のレコードバーで撮られた、公式MVの手触り

公式MVは、2021年5月28日に公開された[2]。撮影場所は、東京・渋谷の百軒店にある実在のレコードバー「RECORD BAR analog」で、監督・演出をShunki Baba、撮影をHayato Ishikawaが手がけている[2]。出演はぷにぷに電機、Kan Sanoに加え、ファッションモデルのイシヅカユウの3人[1][2]。実際に営業しているレコードバーという空間を選んだことで、映像には作り込みすぎない生々しい生活感が漂っている。薄暗い店内の照明、レコード棚、カウンター越しの距離感。そうした具体的な場所の空気が、歌詞が描く「隠れ家BARでのクールな駆け引き」というテーマと、無理なく重なっている。カメラはイシヅカユウの視線や仕草を丁寧に追いながら、時折ぷにぷに電機とKan Sanoの演奏する姿に切り替わる構成になっており、3人がそれぞれ別の役割を持ちながら、一つの空間の中で緩やかに交錯していく様子が伝わってくる。派手な物語の起伏があるわけではないが、その抑制された演出こそが、曲の持つクールなムードを裏切らない選択だったと感じる。実在する場所で撮られたという事実は、この曲を聴いたあとに「あの店に行ってみたい」と思わせる引力にもなっており、音楽と場所の記憶が結びつく、良質なMVの条件を満たしている。

磐田で仕事をしながら、この曲を思い出すとき

静岡県磐田市で介護と不動産の仕事をしていると、家族間の話し合いや相続の相談の場に立ち会うことがある。そうした場では、すべての本音をいきなりぶつけ合うよりも、互いの立場を確かめながら、少しずつ言葉を選んで進めていく方が、結果として良い着地点にたどり着くことが多い。それは駆け引きというより、相手への配慮の一形態だ。「ずるくない?」が描く隠れ家BARでの探り合いも、根底にあるのは同じような、相手を尊重するがゆえの慎重さではないかと思う。若い頃に東京で過ごした時間の中で見聞きした、大人同士の距離の取り方を、この曲を聴くたびに思い出す。すべてを正直に語ることだけが誠実さの証明ではない。時には駆け引きという形をまといながら、相手への興味と敬意を伝えること。この曲のクールな佇まいは、そういう遠回りの誠実さを、静かに肯定してくれる。

参考リンク

駆け引きの中にも誠実さがあるように、家や土地の相談にも、じっくり言葉を選ぶ時間が必要です。

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書いた人

大石浩之。静岡県磐田市で、介護と不動産の仕事をしています。 若い頃に東京で過ごした時間、仕事の中で見てきた家族や街の記憶、 そして今暮らす磐田で感じることを、音楽をきっかけに書いています。

音楽は、過去の自分に会いに行くための入口です。 家や土地もまた、誰かの記憶が残る場所だと思っています。