ドリフの登場シーン(オープニング)をまねることができるサカナクションさんの感覚。とってもいいです。この感想には、この曲、そしてこのバンドの本質を見抜く鋭さがあると思います。『8時だョ!全員集合』や『ドリフ大爆笑』のオープニングは、昭和の茶の間の記憶そのものです。あの様式美を、令和にも近いこの時代のロックバンドが、照れることなく、しかも見事な完成度で再現してみせる。ふつうなら気恥ずかしくなりそうなパロディを、ここまで堂々とやり切れるのは、対象への深い理解と敬意があってこそです。単なる懐古趣味ではなく、あの時代の様式が持つ祝祭性を、正確に読み取って翻訳している。この曲を聴き、MVを観るたびに、過去の様式をここまで的確に「まねる」ことができる感覚の鋭さに、感心させられます。
バンド再始動を告げる、11thシングル
「新宝島」は、2015年9月30日にリリースされたサカナクションの11枚目のシングルです。映画「バクマン。」の主題歌として起用されました。ミュージックビデオは、2015年9月25日に動画サイト「GYAO!」内の映画特集で先行公開され、翌26日にバンド公式YouTubeチャンネルで公開されています。MVは、70年代後半から90年代にかけて放送されたフジテレビ系の人気バラエティ番組『ドリフ大爆笑』のオープニングを彷彿とさせる内容で、昭和のバラエティ番組や音楽番組をオマージュしたレトロ感あふれるセットと仕掛けが象徴的な映像に仕上がっています。
この曲は、サカナクションにとってバンドとしての再始動を象徴する楽曲でもありました。そのため、あえて華々しいオープニング感あふれる演出が取り入れられたのだといいます。過去の様式をオマージュすることが、後ろ向きな懐古ではなく、新しい始まりを祝う演出として機能する。この逆説的な構造こそ、この曲の企画の巧みさだと思います。
まねることのできる感覚の鋭さ
何かをまねるという行為は、一見簡単なようでいて、実はとても高度な観察力を必要とします。表面をなぞるだけでは、対象の本質を捉えられません。ドリフ大爆笑のオープニングが持っていた、あの独特の高揚感やタイミング、色彩感覚。それらを正確に読み取り、現代の技術と美意識で再構築する。この曲のMVには、そうした緻密な観察と分析の跡が見えます。
東京で働いていた頃、優れた仕事をする人ほど、他者や過去の事例を丁寧に観察し、そこから本質を抽出する力に長けていたことを思い出します。単なる模倣ではなく、対象の核心を掴んだ上での再構築。サカナクションがこの曲で見せた「まねる」技術は、まさにそういう、高い観察力に裏打ちされた創造性の証明です。
磐田で受け継ぐ、様式の記憶
磐田で家や土地の相談を受けていると、地域に古くから伝わる祭りや行事の様式を、次の世代にどう引き継いでいくかという話題によく出会います。形だけをなぞるのではなく、その様式が持っていた本来の意味や高揚感を理解した上で、今の時代に合わせて再構築していく。サカナクションが「新宝島」で見せた、過去の様式への向き合い方は、そうした地域の文化継承の現場でも、大切な視点を与えてくれます。
ドリフの登場シーンをまねることができる感覚。それは単なる物真似の技術ではなく、時代を越えて残していくべき様式を見極める、確かな審美眼なのだと思います。
ATAWI MUSICは、音楽を消費するサイトではありません。曲をきっかけに、時代を越えて受け継がれる様式の記憶を読み直す場所です。
