椎名林檎の「長く短い祭」は、タイトルからしてすでに時間についての矛盾した感覚を突きつけてきます。長くもあり、短くもある祭。それは夏という季節そのものの性質でもあります。この曲は、2015年8月5日にリリースされた両A面シングル『長く短い祭/神様、仏様』の一曲として発表され、コカ・コーラの2015年サマーキャンペーンCMソングに起用されました。正式なCD発売に先駆けて配信された段階で、iTunesの週間シングルランキングで1位を獲得するなど、発売前から大きな反響を呼んでいます。曲中では東京事変のギタリストである浮雲とのデュエットという編成が取られ、オートチューンを効かせたボーカルと、ブラジル音楽の要素を取り入れたダンサブルなトラックが組み合わされています。準備をしている間はやけに長く感じる一方で、始まってしまえばあっという間に終わってしまう。この曲の疾走感のあるサウンドは、まさにその「あっという間に過ぎていく熱狂」を音として体現しています。
夏を彩るキャンペーンソングとして多くの人に知られたこの曲は、単なる季節の賑やかしにとどまらず、椎名林檎らしい独特のリズムと言葉選びによって、聴くたびに新しい発見のある奥行きを持っています。祭というモチーフを通して、人生における高揚と儚さの両方を同時に鳴らしている点が、この曲の非凡さだと感じます。
浮雲との共作が生んだ、南米のリズム
両A面シングルのもう一曲「神様、仏様」にはZAZEN BOYSの光速斎藤がラップで参加し椎名林檎とのコラボレーションが実現している一方、「長く短い祭」では東京事変のメンバーでもある浮雲がデュエット相手として参加しています。椎名林檎のソロ名義の作品でありながら、バンドの仲間との共作という座組みは、彼女の音楽活動が常にソロと東京事変という二つの軸を行き来しながら形作られてきたことを象徴しています。ブラジル音楽由来のリズムを大胆に取り入れた点も、それまでの椎名林檎の楽曲群と比べて新機軸であり、CMソングという枠組みの中でも実験を止めない姿勢がうかがえます。
コカ・コーラという大手飲料メーカーの夏キャンペーンという、極めて商業的な文脈の中に置かれながらも、音楽的な冒険心を失わなかったこと。それがこの曲が単なるタイアップ曲で終わらず、椎名林檎のディスコグラフィの中でも独自の位置を占め続けている理由だと思います。
東京の夏に感じた、祭の高揚と儚さ
東京で働いていた頃の夏は、まさに長く短い祭のような日々でした。ある夏、隅田川花火大会の日に、仕事関係の知人たちと屋形船で花火を見る機会がありました。何ヶ月も前から予定を調整し、当日を心待ちにしていたのに、実際の花火は正味一時間ほどで終わってしまいます。「長く短い祭」を聴くと、そうした夏特有の時間感覚が、そのまま音楽になって鳴っているように感じます。
都会の夏は、暑さの厳しさと同時に、独特の高揚感を持っています。夜になっても人通りが絶えない街、遠くから聞こえる花火の音、冷たい飲み物を片手に過ごす短い休憩時間。そうした一瞬一瞬は、あとから振り返ると驚くほど短く感じられます。この曲のスピード感のあるメロディは、まさにその「振り返ったときの短さ」を先取りして鳴らしているかのようです。
磐田の祭りと、人生の節目
磐田に戻ってからは、地域の祭りや行事に触れる機会がまた違った形で増えました。地元の祭りには、都会のイベントとは違う、世代を超えて受け継がれてきた重みがあります。長く続いてきた行事でありながら、実際に開催される時間は短い。「長く短い祭」というタイトルは、そうした地域の祭りの本質をも言い当てているように感じます。
家や土地、相続の相談を受ける仕事の中でも、人生の節目は祭りのような性質を持っています。長い準備期間を経て迎える引っ越しや家族の集まり、相続の手続き。当日そのものはあっという間に過ぎていきますが、そこに至るまでの時間、そしてそのあとに残る記憶は、ずっと長く続いていきます。椎名林檎と浮雲が異なる持ち味を持ち寄って一曲を作り上げたように、家族の相談も、それぞれ違う立場の人が持ち寄って初めて答えが見えてくることがあります。ATAWI MUSICにこの曲を置くのは、あっという間に過ぎていく大切な瞬間を、惜しむだけでなく、しっかりと味わい尽くすための姿勢を思い出すためです。
ATAWI MUSICは、音楽を消費するサイトではありません。曲をきっかけに、人の暮らし、仕事、家、土地、記憶をもう一度読み直す場所です。
