ページ作成日: 2026年7月3日
元にしたYouTubeリンク: https://youtu.be/tIe-kXTmj3E
確認した動画: 椎名林檎と宮本浩次-獣ゆく細道(椎名林檎 本人公式チャンネル)

「獣ゆく細道」を聴くたびに思うのは、良いコラボレーションというのは足し算ではなく掛け算だということです。椎名林檎という人は、佇まいで魅せる歌い手です。動きを削ぎ落とし、視線と声だけで場を支配する。一方の宮本浩次は、エレファントカシマシのフロントマンとして、全身の熱量を音楽にぶつけ続けてきた人です。静と動、抑制と解放。ふつうならぶつかり合いそうな2つの資質が、この曲では互いを打ち消すのではなく、互いをいっそう際立たせています。宮本浩次さんとのコラボが本当にいい、両者の才能がいかんなく発揮されている、というのは、まさにこの曲を聴いたときの実感そのものです。1人で歌えば見えない部分が、2人になることで初めて可視化される。優れたデュエットにしかできない仕事を、この曲は見せてくれます。

「news zero」新体制のテーマ曲として

「獣ゆく細道」は、2019年5月27日にリリースされました。この曲は、同年10月から有働由美子氏をメインキャスターに迎えて新装される日本テレビ「news zero」の新しいテーマソングとして書き下ろされたものです。平成から令和へと元号が変わる節目の年に、報道番組の顔となる曲を任されたということ自体、椎名林檎という表現者への信頼の厚さを物語っています。作詞作曲は椎名林檎、編曲は長年のパートナーである笹路正徳が手がけました。

宮本浩次を迎えたのは、作家本人たちの願いによるものだったと伝えられています。令和という新しい時代の潮目にふさわしい競演として実現したこの共演は、単なる話題作りのゲスト起用ではなく、双方が本気で歌の応酬をする真剣勝負の場になりました。テレビの音楽番組の生放送では、静かに佇んで歌う椎名林檎と、全身で感情をぶつける宮本浩次という対照的なパフォーマンスがネットで大きな話題となり、多くの視聴者の記憶に刻まれました。

異なる才能が並び立つ瞬間

東京で働いていた頃、優秀な人が2人集まると、かえって成果が出にくい場面をよく見ました。互いのやり方を主張し合い、譲らず、結局中途半端な妥協案に落ち着く。本当に噛み合うコラボレーションというのは、実はとても難しいものです。だからこそ、椎名林檎と宮本浩次のように、方法論がまるで違う2人が、互いのやり方を尊重したまま1つの曲を成立させている光景には、単純な音楽的感動を超えたものを感じます。仕事の現場でも、こういう組み合わせが実現できたら、と何度も思わされました。

「獣」という言葉には、理性で飼い慣らされる前の、剥き出しの衝動という意味合いがあります。細道という言葉には、大きな道ではなく、危うく心もとない道という響きがあります。この2つの言葉が組み合わさったタイトルは、決して平坦ではない道を、それでも自分の獣性を殺さずに歩いていく、という宣言のように聞こえます。椎名林檎の抑制と、宮本浩次の解放。この2つの生き方の両方が、実は同じ「獣の道」の歩き方なのだと、この曲は教えてくれます。

令和という新時代の入り口で、あえてこの2人を組ませたテレビ局の判断にも、私は感心します。無難な組み合わせではなく、化学反応が読めない組み合わせに賭けた。結果として生まれたのは、平成から令和への移り変わりという時代の緊張感を、そのまま音にしたような1曲でした。

磐田で聴く、2つの生き方

磐田で家や土地の相談を受けていると、家族の中にも、椎名林檎のような人と宮本浩次のような人がいることに気づきます。感情を内に溜め込み、言葉少なに物事を進める人。感情をそのまま表に出し、声を大きくして訴える人。どちらが正しいということはなく、両方のやり方があって初めて、家族という単位はバランスを保てているのだと感じることがよくあります。相続や空き家の相談の場でも、静かに黙って座っている家族の1人と、感情を露わにして意見する別の1人が、実は互いを補い合っていることに気づく瞬間があります。

「獣ゆく細道」が教えてくれるのは、対照的なもの同士は、対立するためではなく、互いを完成させるために出会うことがある、ということです。椎名林檎の静けさは、宮本浩次の熱がなければ、その静けさの深さが伝わらない。宮本浩次の熱は、椎名林檎の静けさがなければ、ただの熱狂で終わってしまう。人と人との関係も、家族の中の役割分担も、本質的には同じ仕組みで成り立っているのだと、この曲を聴くたびに思います。細く心もとない道でも、異なる歩き方をする者同士が並んで歩けば、道はきっと続いていきます。

ATAWI MUSICは、音楽を消費するサイトではありません。曲をきっかけに、異なる才能が並び立つ瞬間の記憶を読み直す場所です。