「夜を使いはたして」という言葉には、時間を無駄にしたという後悔ではなく、むしろ夜という時間を余すところなく味わい尽くしたという、静かな充実感が込められています。クラブで遊んで、朝方まで語り合って、気づけば空が白み始めている。そういう夜の終わりを、STUTSの繊細なトラックと、PUNPEEの言葉選びが見事にすくい取っています。この曲が特別なのは、単に夜更かしの快楽を歌っているのではなく、その夜明けを、ヒップホップというシーン自体の夜明けとも重ね合わせている点です。個人的な体験を歌いながら、同時に、まだ誰も知らない次の時代の気配を歌う。この二重の構造が、この曲を単なる遊びの歌以上のものにしています。
3年越しで完成した1曲
「夜を使いはたして feat. PUNPEE」は、2016年にリリースされたSTUTSの1stアルバム『Pushin'』に収録された楽曲です。STUTSがこの曲の原型を作ったのは、2013年の大晦日、「今年最後の曲を作ろう」という思いからだったといいます。そこからおよそ2年以上を経た2016年2月頃、PUNPEEから「いい歌詞が書けました」という連絡が届き、この曲は完成に近づいていきました。実際にアルバムのマスタリングの前日という、ぎりぎりのタイミングで完成したというエピソードも残っています。
PUNPEEは、この歌詞に、ヒップホップシーンへの期待と不安が入り交じった感情を込めたと語っています。クラブで遊んで朝帰りするときの夜明けと、シーンそのものが新しい局面を迎える夜明けを重ね合わせる。この二重写しの構造こそ、STUTSとPUNPEEという、それぞれ異なる立場からシーンを見つめてきた2人だからこそ生み出せた視点だったのだと思います。
使い果たした先にしか見えない景色
東京で働いていた頃、締め切り前の夜を徹夜で仕事に費やし、朝方になってようやく資料が完成したときの、あの独特の高揚感を覚えています。疲れ切っているはずなのに、なぜか頭は冴えていて、朝日を見る目にも、いつもとは違う透明感がある。時間を使い切ったあとにしか訪れない、特別な景色があるのだと、あの経験は教えてくれました。「夜を使いはたして」というタイトルが持つ充実感は、まさにそういう、極限まで時間を注いだ末にしか見えないものへの、静かな肯定です。
3年という制作期間をかけてこの曲が完成したこと自体、時間を惜しみなく使い切ることの価値を、曲の成り立ちそのものが証明しています。すぐに結果を求めず、じっくりと時間をかけて熟成させる。夜も、制作期間も、使い果たしてこそ見える景色があるのだと、この曲は教えてくれます。
磐田で迎える、使い果たした夜の朝
磐田に戻ってきてからも、大切な相談事に向き合うとき、時間を惜しまず、じっくりと話を聞く夜を過ごすことがあります。効率を優先すれば早く切り上げられる場面でも、あえて時間を使い切ることでしか、本当の意味での納得や解決にたどり着けないことがあります。この曲が歌う「使いはたした夜」の充実感は、そうした、時間を惜しまず注ぎ込むことの価値を、あらためて思い出させてくれます。
PUNPEEの声が届けてくれるこの曲を聴くたびに、時間を使い切った先にしか見えない夜明けの美しさを、これからも大切にしていきたいと思います。
ATAWI MUSICは、音楽を消費するサイトではありません。曲をきっかけに、時間を使い切った先に見た夜明けの記憶を読み直す場所です。
