ページ作成日: 2026年7月5日
元にしたYouTubeリンク: https://youtu.be/EVG-RuaqIXY
確認した動画: Suchmos "FUNNY GOLD" (One Shot Film) / Suchmos Official YouTube

Suchmosの「FUNNY GOLD」は、2018年6月20日に自主レーベルF.C.L.S.から発売されたミニアルバム『THE ASHTRAY』に収録された一曲である[5]。作詞はYONCE、作曲はSuchmos名義によるもので[6]、アルバムの中では5曲目に置かれている。同作には、2018年NHKサッカー中継テーマ曲となった「VOLT-AGE」や、ホンダ「ヴェゼル」のCMソングとなった「808」も収録されており、それらのアッパーな曲と並ぶと、「FUNNY GOLD」の内省的な佇まいはより際立って聴こえる[5]。ソニーミュージックの公式サイトによれば、この曲は「自身初となるラブソング」と紹介されており、ラジオや有線放送への問い合わせが多く寄せられた楽曲だったという[2]。この曲がとりわけ特別なのは、2018年11月6日に公開された「One Shot Film」にある。監督を務めたのはメンバーでドラマーのOKで、これが彼の初ディレクション作品だった[1][2][3][4]。編集でカットをつなぐのではなく、ワンカットで撮り切るという撮影方法そのものが、演奏をそのまま定着させるような緊張感を映像に与えている。ジャケットビジュアルもOKが手がけたと案内されており[2]、バンドを内側から見てきたメンバー自身が、この曲の手触りをもっともよく理解していたのだろうと想像させる。

大石セレクション:MVがいい ★★★★★

  • 曲がいい:★★★★☆
  • 歌詞がいい:★★★★☆
  • MVがいい:★★★★★

選定理由:曲そのものの完成度も歌詞の余白も高いが、この曲を語るときにどうしても外せないのが、ドラマーのOKが初めて監督を務めたOne Shot Filmである。編集でつなぎ足さず、一発撮りで演奏の呼吸をそのまま映像に閉じ込めるという判断は、バンドを内側から知る人間にしか選べない撮り方だ。音楽そのものの外に立つ第三者の演出ではなく、メンバーが自分たちの曲をどう見せたいかを一番よく分かっている、という強さが画面から伝わってくる。曲や歌詞を知らないまま映像だけを見ても引き込まれる求心力があり、映像込みでこの曲に出会う価値がもっとも高いと判断し、主視点はMVがいいに置いた。

ラブバラードという、Suchmosにとっての新しい一歩

Suchmosは神奈川県茅ヶ崎を拠点に活動してきたバンドで、ブラックミュージックやアシッドジャズに根ざしたグルーヴ感のあるサウンドで知られている。「STAY TUNE」のようなアッパーな代表曲を持つ彼らが、自主レーベルF.C.L.S.からのミニアルバム『THE ASHTRAY』で、バンドとして初めて正面からラブソングに取り組んだという事実は、単なる曲調の広がり以上の意味を持つ。メジャーな文脈で期待されがちな曲調を繰り返すのではなく、自分たちのレーベルだからこそ試せる一曲を、あえてここに置いた。ピアノのイントロから始まり、シンセ、ギター、ベース、ドラムが少しずつ折り重なっていく展開は、派手な転調で聴かせるタイプの曲ではない。むしろ、ここでしか流れない時間をゆっくりと刻んでいくような構成になっている。サビにあたる部分でも大きく音量を張り上げるわけではなく、抑制の効いたグルーヴのまま曲が閉じていく。その抑制こそが、Suchmosというバンドが持つ「格好つけすぎない格好よさ」を表しているように思う。ラジオや有線での問い合わせが多かったという事実は、派手な宣伝がなくとも、聴いた人の耳に残る強度をこの曲が備えていたことの裏づけでもある。バンド側が大々的に「新境地」と打ち出したわけではないからこそ、聴き手が自然に見つけて手渡していった曲、という印象を受ける。

「Do you love?」が繰り返される理由

この曲の歌詞をそのまま書き写すことはしないが、その骨格について触れておきたい。曲中では「Do you love? Do you love me?」という短い問いかけが繰り返される[7]。これは単に恋人の気持ちを尋ねる軽い言葉ではなく、自分自身の愛情の重さをも同時に問い直しているような響きを持つ。一度で終わらず、何度も形を変えて反復されることで、確信よりも迷いに近い感情が浮かび上がってくる。ラブソングというと、愛の確かさを歌い上げる曲を思い浮かべがちだが、この曲はむしろ、愛が定まりきらない時間の方を描いているように聞こえる。タイトルの「FUNNY GOLD」自体にも、その揺らぎが表れている。すべてが輝かしくうまくいく黄金の関係ではなく、どこかいびつで、笑ってしまうくらい不確かで、それでも確かに価値がある時間。歌詞全体を通じて、恋愛の高揚と気恥ずかしさが同居しているような手触りがあり、力強く言い切らないことで、聴き手それぞれの記憶に重ねやすい余白が生まれている。バンドとして初めてこのテーマに取り組んだにもかかわらず、恋愛を美化しすぎず、かといって斜に構えすぎもしない距離感を保てているのは、この曲が持つ大きな美点だと思う。言葉数を絞り、同じ問いを繰り返す構成によって、聴くたびに「今の自分」がその問いにどう答えるかが変わってくる。そういう意味で、この歌詞は一度で聴き終える種類のものではない。

ワンカットの映像に映る、飾らない覚悟

「FUNNY GOLD」One Shot Filmの最大の特徴は、その名の通り編集でカットをつながず、一つの流れとして撮り切っている点にある[1][3][4]。やり直しのきかない一回性を選ぶという判断そのものに、バラードという新しい表現に踏み出した曲を、飾らずに見せようとする姿勢が表れている。監督を務めたOKはバンドのドラマーであり、リズムを内側から支えてきた人間でもある。演奏する側の呼吸を知っているからこそ、カメラワークや間の取り方に、外部の演出家では出せない自然さが宿っているように感じる。派手なロケーションや大がかりなセットに頼るのではなく、限られた画角と時間の中で、曲が持つ気だるさと緊張感を同時に映し出している。この映像を見たあとにもう一度音だけで聴き返すと、画面の中にあった間や視線の動きが、音の中にも実は最初から存在していたことに気づかされる。それは、映像が曲を装飾しているのではなく、曲の中にすでにあった時間の流れを、映像が可視化しただけなのだと思わせる仕上がりだ。ジャケットビジュアルも同じくOKが手がけているという事実は[2]、この曲がバンド内部で一貫した視点のもとに作られた作品であることを裏づけている。YouTubeで偶然この曲に出会う人にとっても、固定されたカメラの前で演奏と表情がそのまま流れていく構成は、作り込まれた物語よりも強い実在感を持って届くはずだ。

それぞれの「FUNNY GOLD」

この曲を形容するなら、完璧ではないが確かに輝いている時間、という言葉がもっともしっくりくる。すべてがうまくいく夜ばかりではないし、心から満たされた愛だけを生きているわけでもない。それでも、その不完全さの中には、笑ってしまうくらい愛おしい瞬間が確かに紛れ込んでいる。Suchmosがアッパーな代表曲の陰で、自主レーベルから静かにこのラブバラードを送り出したように、人の暮らしの中にも、目立たないけれど大切な時間が積み重なっている。ワンカットで撮られた映像がやり直しのきかない一回性を写し取っているように、日々のささやかな出来事もまた、二度と同じ形では戻ってこない。だからこそ、この曲を聴くたびに、自分にとっての「FUNNY GOLD」が何だったかを、少しだけ思い返してみたくなる。

参考リンク

ワンカットの映像がやり直しのきかない一回性を写し取るように、家や土地にも、二度と同じ形では戻らない誰かの時間が残っています。

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書いた人

大石浩之。静岡県磐田市で、介護と不動産の仕事をしています。 若い頃に東京で過ごした時間、仕事の中で見てきた家族や街の記憶、 そして今暮らす磐田で感じることを、音楽をきっかけに書いています。

音楽は、過去の自分に会いに行くための入口です。 家や土地もまた、誰かの記憶が残る場所だと思っています。