「サチモスといえば」と聞かれたとき、多くの人がまず思い浮かべるのがこの「STAY TUNE」だろう。神奈川県茅ヶ崎出身のメンバーを中心に結成されたSuchmosは、2016年1月13日発売のセカンドEP「LOVE&VICE」にこの曲を収録し、SPACE SHOWER MUSICから世に送り出した[1]。作詞はボーカルのYONCEとギターのHSU、作曲はSuchmosのクレジットになっている[1][2]。この曲の出自には面白い逸話があって、もともとは2015年4月、J-WAVEの番組「GOLD RUSH」用に作られた30秒ほどのジングルだったという[1]。ところが歌詞の中に入れた番組名を「GOLDEN RUSH」と誤って書いてしまい、そのままではオンエアできずお蔵入りになった。しかし、そのメロディの出来があまりに良かったため、後にあらためて一曲として作り直されたのが、この「STAY TUNE」なのだという[1]。偶然の産物が、結果としてバンドの代表曲になった。この経緯を知ってから聴くと、曲の説得力が一段と増して聞こえる。
ジングルから生まれた、脱力とグルーヴの同居
「STAY TUNE」を初めて聴いたときにまず耳を奪われるのは、力の入っていないようでいて、実は緻密に組み立てられた演奏だ。イントロのギターカッティングとベースの絡みは、アシッドジャズやヒップホップ以降のグルーヴ感を下敷きにしながら、日本のロックバンドが持ちがちな熱量の押し出し方とは明確に違う質感を持っている。声を張り上げるでもなく、テンポを煽るでもない。それなのに、聴いているうちに自然と体がリズムを取り始める。この感覚は、ジャズの巨匠ルイ・アームストロングの愛称「サッチモ」からバンド名を取ったという由来を知ると、なるほどと腑に落ちる部分がある。ジャズ的な間の作り方と、現代的なビートの質感を同時に鳴らそうとする試みが、この曲の骨格になっているように聴こえる。もともとこのメロディが、ラジオ番組のための30秒ジングルとして書かれたという経緯も興味深い。短い尺の中で耳を掴む強さが求められるジングルの制約が、逆にこの曲のフックの強さを研ぎ澄ませたのではないか。番組名の誤記という偶発的な事情でお蔵入りになったにもかかわらず、メロディの出来の良さゆえに一曲として蘇った、という流れそのものが、この曲がいかに「捨てるには惜しい」強度を持っていたかを物語っている。Aメロで抑えた温度を保ち、サビでも大きく盛り上がるというより、じわりと質感が変わる程度の展開を選んでいる点も特徴的だ。派手な転調やドラマチックな仕掛けに頼らず、グルーヴそのものの心地よさで最後まで聴かせきる。この「盛り上げない勇気」のようなバランス感覚が、当時の日本のバンドシーンの中でも際立って新しく響いた理由だろう。何度聴いても飽きが来ないのは、演奏の情報量が実はかなり多いからだと思う。イヤホンで聴くと、ギター、ベース、鍵盤、ドラムのそれぞれが控えめに主張し合いながら隙間を埋めていることに気づく。脱力しているように見えて、実際には緻密に設計された音数のコントロールがある。この曲を「新しい時代の入口」として記憶している人が多いのは、そうした音作りの説得力があったからこそだろう。
パーティーソングに見せかけた、渋谷の夜への視線
歌詞について詳しく引用することはしないが、この曲が描いている情景について考えてみたい。制作の発端は、HSUがYONCEに「金曜の夜の渋谷ってやばくない?」と持ちかけたことだったという[3]。始発を待つ、あるいは酔って自分の足で立っていられないような人たちを目にした経験から、二人は「あれはもうゾンビみたいなものだ」という視点にたどり着き、それをテーマに歌詞を書いたと伝えられている[3]。神奈川・茅ヶ崎の出身であるYONCEにとって、東京の夜はどこかアウェイな場所として映っていたのかもしれない。表面的には、アッパーなビートに乗せた軽やかなパーティーチューンに聞こえる。しかし実際の歌詞は、特定の誰かを名指しして揶揄しているのではなく、周囲に流されて自分を見失っていくような生き方そのものに向けられた、静かな批評として読むことができる[4]。ブランドものやファストフード的な消費に象徴される、深く考えずに時代の空気に流されていく姿勢への違和感が、ジョークのオブラートに包まれて歌われている、という読み方だ[4]。この二重構造こそが、この曲を単なる「イケてるパーティーソング」で終わらせていない理由だと思う。表面をなぞるだけで踊れる曲でありながら、耳を澄ませると社会への視線が仕込まれている。タイトルの「STAY TUNE」という呼びかけも、単に「チャンネルはそのままで」という軽い意味だけでなく、まだ何者でもなかったバンドが、これから鳴らし続ける音にチューニングを合わせておいてほしい、という宣言のようにも聞こえてくる。説明しすぎない言葉選びのおかげで、聴く側それぞれが、自分の記憶にある夜の街の情景を重ねられる余白が残されている。
ホンダ・ヴェゼルのCMと、公式MVが見せた東京の光景
この曲が広く知られるようになった大きなきっかけの一つが、2016年9月から始まったホンダ「VEZEL」のCMソングとしての起用だった[5]。年末から年始にかけて集中的にオンエアされたことで、それまでライブハウスや音楽ファンの間で評価されていたSuchmosの名前が、一気に幅広い層に届くことになったと言われている[5]。公式ミュージックビデオは2016年1月7日に公開されており、監督は過去のSuchmos作品も手がけたKento Yamada[1]。冒頭には六本木ヒルズ森タワーの高層階が映り込む場面があり、その後はスタジオでの演奏シーンが中心に展開する[1]。都心の夜景を見下ろすカットから始まり、メンバーが力の抜けた佇まいで演奏する姿へとつながっていく構成は、歌詞やサウンドが持つ「都会の空気を醒めた目で見つめる」という質感とよく響き合っている。ただし、MV全体としては演奏シーンの比重が大きく、歌詞に描かれた「渋谷の夜」を物語として具体的に描写するタイプの映像ではない。曲の持つ脱力感とバンドの佇まいをそのまま切り取った、いわばパフォーマンス寄りの一本だ。そのため、映像を見ることで歌詞の解釈が大きく広がるというよりは、曲とバンドの存在感を確認する時間に近い。MVとしての完成度は十分に高く、彼らの佇まいを知るには申し分ないが、曲や歌詞が持つ多層的な面白さを主視点として選ぶ決め手にするには、もう一歩踏み込んだ物語性がほしいというのが正直な印象だ。
参考リンク
- [1] STAY TUNE - Wikipedia
- [2] STAY TUNE - Suchmos(作詞:YONCE・HSU 作曲:Suchmos) - ChordWiki
- [3] STAY TUNE 制作背景(歌詞テーマの由来) - Wikipedia
- [4] Suchmosの「STAY TUNE」はディスっているだけじゃない!歌詞に隠されたその真意を探る - UtaTen
- [5] Suchmosとホンダが証明したCMタイアップの底力 - 文春オンライン
ジングルとして生まれた30秒のメロディが、時代の入口になる曲へと育っていったように、家や土地にも、そこに関わった人たちの時間が積み重なっています。
静岡県磐田市周辺で、相続した実家・空き家・土地建物の整理にお悩みの方は、富士ヶ丘サービスまでご相談ください。