2021年9月29日、Original Loveのデビュー30周年を記念して制作された初のオフィシャル・カバー・アルバム『What a Wonderful World with Original Love?』に、東京事変はカバー曲「プライマル」を提供した[1]。同じアルバムには、ボーカルの椎名林檎がソロで「LET'S GO!」をカバーする楽曲も収められており[1]、一組のアーティストから二つの形で参加するという、異例の厚遇ぶりが伺える。原曲はOriginal Loveの田島貴男が手がけた楽曲で、ソウルフルなグルーヴを持つ一曲だ。
後輩バンドから先達へ贈る、最大級の敬意
東京事変のボーカル・椎名林檎は、デビュー当初からOriginal Loveの田島貴男への尊敬を公言してきたアーティストのひとりだ。デビュー30周年という大きな節目に制作された公式カバーアルバムに参加できたということは、単なる企画への参加というだけでなく、長年のリスペクトが本人へ届いた証でもあっただろう。アーティストのデビュー30周年という節目に企画される公式カバーアルバムには、通常、そのアーティストと関わりの深いミュージシャンや、明確に影響を受けたと公言してきた後進の音楽家たちが厳選されて招かれる。東京事変がその一組として選ばれたということは、単に人気があるからという理由だけでなく、Original Loveというバンドの音楽性を正しく理解し、なおかつ自分たちの色でしっかりと再構築できる実力を持つバンドとして、業界内外から評価されていたことを意味する。この事実そのものが、彼らがすでに日本の音楽シーンにおいて、次の世代に影響を与える側の存在として認識されていることを物語っている。
ジャジーなグルーヴを、事変流に鳴らし直す
「プライマル」という原曲が持つ、ジャズやソウルの語法を大胆に取り入れたグルーヴ感は、Original Loveというバンドの真骨頂のひとつだ。東京事変がこの曲をカバーするにあたり、単純に原曲をなぞるのではなく、自分たちのバンドが持つ緊張感のあるアンサンブルを重ね合わせている。ホーンやキーボードを含む多彩な楽器編成を活かしながら、原曲の持つ色気をそのまま引き継ぎつつ、随所に東京事変らしいスリルのある展開を加えている。歌詞をそのまま引用することは控えるが、この曲が描いているのは、飾らない本能的な感情の動きであり、そうしたテーマとも、東京事変のスリリングな演奏はよく合っている。
Topicチャンネルという、静かな記録の形
この楽曲の映像は、公式のミュージックビデオとしてではなく、「Tokyo Incidents - Topic」という、音源を静かに記録するための公式チャンネルを通じて公開されている。派手な映像演出があるわけではないが、その分、音そのものにじっくりと耳を傾けられる構成になっている。カバー曲という性質上、映像的な物語よりも、演奏そのものの質を届けることに重きが置かれたのだろう。ジャケットアートやシンプルな静止画とともに流れるこの曲は、音楽そのものの強度で勝負する潔さを持っている。
敬意が循環していく、音楽シーンの豊かさ
先達の楽曲を、敬意を持ちながらも自分たちの色でしっかりと鳴らし直すこと。それは単なる懐古的な行為ではなく、音楽というものが世代を越えて受け継がれ、豊かになっていく過程そのものだ。この曲を聴いた若いリスナーが、Original Loveというバンドの存在を知り、さらにその源流を辿っていく。そうした循環が生まれることこそ、カバー企画の本当の価値なのだと思う。30年という長い年月をかけて積み重ねられてきた原曲への敬意を、たった数分の演奏の中に凝縮するという作業は、決して簡単なことではない。過去の名曲が、新しい担い手を得てまた別のリスナー層に届いていく。この循環こそが、音楽シーンを長く豊かに保ち続ける仕組みなのだと、あらためて考えさせられる。
バンドとソロ、二つの回路から届ける敬意
同じカバーアルバムの中で、東京事変がバンドとして「プライマル」を、椎名林檎がソロで「LET'S GO!」を、それぞれ別の曲としてカバーしているという構成は[1]、興味深い試みだ。ひとりのアーティストが、バンドとソロという二つの異なる回路を使い分けながら、同じ対象への敬意を表現する。この使い分けそのものが、椎名林檎というアーティストが持つ、バンドの一員としての顔と、独立した表現者としての顔の両方を、あらためて意識させてくれる。ひとつの音楽的なルーツから、二つの異なる表現が枝分かれしていく様子を見比べることも、このカバーアルバムを楽しむ醍醐味のひとつだ。原曲を知る世代にとっても、東京事変を通じて初めてOriginal Loveに触れる世代にとっても、この一曲は世代を越えた対話の入口になり得る。音楽が持つそうした橋渡しの機能を、あらためて実感させてくれるカバーだ。過去の名曲が、新しい担い手を得てまた別のリスナー層に届いていく。この循環こそが、音楽シーンを長く豊かに保ち続ける仕組みなのだと、あらためて考えさせられる一曲だ。カバーという行為は、時に安易な企画として消費されがちだが、この曲のように制作の背景まで丁寧に紐解いていくと、そこには確かな敬意と技術の積み重ねがあることが見えてくる。何度聴いても、原曲への愛情と、自分たちらしさの主張が、絶妙なバランスで同居していることに気づかされる一曲だ。
参考リンク
- [1] 東京事変&椎名林檎、Original Loveオフィシャル・カバー・アルバムより「プライマル」「LET'S GO!」カバーをリリース - Skream!
- [2] プライマル(曲)- Wikipedia
先達への敬意が新しい形で受け継がれるように、住まいの記憶にも、大切に受け継いでいく価値があります。
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