「新しい文明開化」は、東京事変通算5枚目のアルバム『大発見』(2016年8月22日リリース)に収録された楽曲であり[1]、東京メトロのCMソングとしても起用された[2]。明治維新期の「文明開化」という歴史的な言葉を、現代に置き換えて再解釈するというタイトルの発想そのものが興味深い。MVでは、レトロな未来感を纏った特撮セットのような空間で、椎名林檎とバンドメンバーが演奏する姿が描かれている。
アルバム『大発見』が刻んだ、多様性の記録
『大発見』は、「天国へようこそ [For The Disc]」「絶対値対相対値」「新しい文明開化」「電気のない都市」など、全14曲を収録した大作アルバムだ[1]。バラエティに富んだ楽曲が並ぶこのアルバムの中で、「新しい文明開化」は、東京メトロというタイアップにふさわしい、都市生活のダイナミズムを描いた一曲として位置づけられている。地下鉄という、都市の血流のようなインフラを象徴する媒体とタイアップすることは、この曲が持つ都会的でありながらどこかノスタルジックな質感と、見事に噛み合っている。
「文明開化」を、現代に置き換える発想
「文明開化」という言葉は、本来、明治時代に西洋文化が急速に流入し、日本社会が大きく様変わりしていった時代を指す歴史用語だ。この曲があえてこの言葉を現代に持ち込み、「新しい」という形容を加えたタイトルには、時代が変わっても、人々が新しい価値観や技術に戸惑いながらも適応していくという営みは、繰り返し起こり続けているのだというメッセージが込められているように感じる[3]。歌詞をそのまま引用することは控えるが、この曲が描いているのは、目まぐるしく変化する社会の中で、それでも自分自身の生き方を模索し続ける人々の姿だと感じている。明治の文明開化も、現代のデジタル化や価値観の変容も、本質的には同じ「戸惑いながらの適応」の物語なのかもしれない。
特撮セットのような、レトロフューチャーの美術
MVで最も印象的なのは、まるで昭和の特撮番組のセットのような、極彩色の書き割りの中で演奏する構成だ。「NIPPON」という大きな文字のセットや、チアリーダー風の衣装をまとったダンサーたちが踊る様子は、過剰なまでにポップで、どこか懐かしい昭和の香りを漂わせている。それでいて、この演出は単なるノスタルジーの再現に留まらず、どこか近未来的な色彩感覚とも共存している。過去の「文明開化」のイメージと、これから訪れる「新しい文明開化」のイメージが、ひとつの画面の中で同時に存在しているような、不思議な時間の交差が、この映像の最大の魅力だ。
都市のインフラソングという、新しいジャンル
企業タイアップのCMソングは、時に楽曲そのものの芸術性よりも、商品や企業イメージへの奉仕が優先されがちだ。しかしこの曲は、東京メトロという都市インフラの持つ「人々の生活を支え、日々更新され続ける」という側面を、見事に音楽的なテーマへと昇華させている。CMソングという枠組みを窮屈に感じさせず、むしろその制約の中で独自の芸術性を発揮してみせるという手腕は、東京事変というバンドの懐の深さを物語っている。
タイアップという枠組みが引き出した、新しい表現
企業タイアップは、時にアーティストの自由な表現を制限する要素として語られがちだ。しかしこの曲を見る限り、東京メトロという都市インフラとのタイアップは、むしろ「文明開化」という壮大なテーマを掲げる口実を与えてくれたようにも思える。地下鉄というインフラは、まさに近代日本の文明開化の象徴のひとつであり、そのイメージとバンドの音楽性が結びついたことで、単なる企業広告を越えた、独立した芸術作品としての強度を持つ楽曲が生まれた。制約があるからこそ生まれる創造性というものが、確かにここにある。
ダンサーたちが体現する、集団としての開化
MVに登場するチアリーダー風のダンサーたちの群舞は、個人ではなく集団としての「開化」を視覚的に表現しているようにも見える。ひとりの英雄や天才によってもたらされる変革ではなく、多くの人々が同じ方向を向いて踊り、進んでいくことで初めて成立する「文明開化」。この集団性の描き方は、都市というものが、無数の個人の営みの積み重ねによって成り立っているという事実を、華やかなダンスシーンを通して伝えているのだと思う。地下鉄という毎日多くの人が利用するインフラのCMソングとして、このメッセージが選ばれたことにも、深い納得感がある。毎朝同じホームに立ち、同じ電車に乗り込む無数の人々もまた、それぞれの人生の中で小さな「文明開化」を積み重ねながら生きている。この曲は、そうした名もなき人々の営みにも、静かにエールを送っているように聴こえる。派手な特撮風の映像美と、地下鉄という日常のインフラという、一見結びつきにくい二つの要素をひとつの楽曲にまとめ上げた手腕にも、あらためて驚かされる。企業のCMソングという枠組みは、しばしばアーティストの創造性を狭めるものとして語られがちだが、この曲はむしろその制約を逆手に取り、独自の世界観を築き上げている。タイアップだからこそ生まれた化学反応が、確かにここにある。何十年経っても変わらない「新しい何かへの戸惑いと適応」という人間の営みを、こんなにも軽やかに、そして華やかに描けることに、あらためて感心させられる。次にこの曲を耳にするときは、ぜひ映像とあわせて、あの独特な色彩感覚をじっくり味わってみてほしい。きっと新しい発見があるはずだ。何度見ても飽きない、そんな映像がここにある。
参考リンク
時代が変わっても人が戸惑いながら適応していくように、住まいの整理にも、時代に合わせて見直す時期があります。
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