ページ作成日: 2026年7月5日
元にしたYouTubeリンク: https://www.youtube.com/watch?v=Ix8Inb2wAl4
確認した動画: 東京事変 - OSCA(TokyoIncidentsVEVO)

「OSCA」は、2007年9月26日発売の3rdアルバム『娯楽(バラエティ)』からの先行シングルとして発表された楽曲だ[1]。このアルバムでは、椎名林檎が作詞とボーカルに専念し、作曲はギターの伊澤一葉、ドラムの浮雲、ベースの亀田誠治という、他のメンバーたちに委ねられている[1]。バンド全体で作品を作り上げるという東京事変のコンセプトが、最も明確な形で結実したアルバムのひとつだ。

大石セレクション視点:曲がいい ★★★★☆

  • 曲がいい:★★★★☆
  • 歌詞がいい:★★★☆☆
  • MVがいい:★★★☆☆

選定理由:ボーカルであり長年バンドの顔でもあった椎名林檎が作曲から手を引き、メンバーそれぞれの作曲家としての個性に主導権を委ねたことで生まれる、カオティックでありながら緻密なアレンジの妙。複数の要素が複雑に絡み合いながら、リズムが目まぐるしく変化していくその構成力に、東京事変というバンドの「ひとりのカリスマだけに頼らない強さ」が現れている。この演奏そのものの実験性に、主視点を置きたい。

作詞・ボーカルに専念するという、椎名林檎の決断

それまで多くの楽曲で作詞・作曲の両方を手がけてきた椎名林檎が、アルバム『娯楽』では作詞とボーカルだけに専念し、作曲をメンバーに委ねるという体制を敷いたことは[1]、東京事変というバンドの在り方を大きく印象づける決断だった。ソロ活動で圧倒的なカリスマ性を発揮してきた彼女が、あえて自分の音楽的な主導権の一部を手放し、バンドメンバーの個性を前面に押し出す。この選択は、東京事変が単なる「椎名林檎のバックバンド」ではなく、対等な創作集団であることを、何よりも雄弁に証明している。

三者三様の作曲家が生む、カオスの美学

「OSCA」を含むアルバム『娯楽』は、新作は今までにない混沌とした柔軟なサウンドを持ち、複数の要素が複雑に絡み合い、リズムがダイナミックに変化していく作品だと評されている[2]。ギターの伊澤一葉、ドラムの浮雲、ベースの亀田誠治という、それぞれ異なる楽器を主戦場とするメンバーが作曲を手がけることで、ひとつの統一されたバンドサウンドというよりも、複数の作家性がぶつかり合うような、緊張感のあるアンサンブルが生まれている。この曲でも、予測のつかない展開が次々と現れ、聴き手を飽きさせない構成になっている。単一の作曲家による整った美しさではなく、複数の個性がせめぎ合うことで生まれる、生々しいエネルギーこそが、この曲の魅力だ。

先行シングルとして託された、挑戦のバトン

アルバムの先行シングルという立ち位置は、そのアルバム全体の方向性を予告する、重要な役割を担っている[1]。「OSCA」がこの役目を担ったということは、バンド自身が、メンバー主導の作曲によるカオティックなサウンドこそが、このアルバムの新しさを象徴する要素だと考えていたことを示唆している。歌詞をそのまま引用することは控えるが、この曲が描いているのは、既存の枠組みに収まらない衝動や、予測不可能な展開そのものへの信頼だと感じている。安定した心地よさよりも、次に何が起こるか分からないスリルを楽しむ。そういうリスナーへの信頼が、この曲には込められている。

リーダーの不在が生む、バンドとしての成熟

多くのバンドにとって、看板となるボーカリストが作曲の主導権を手放すことは、勇気のいる決断だ。しかし東京事変は、その決断によって、むしろバンドとしての奥行きと強度を増した。「OSCA」という一曲は、椎名林檎という圧倒的な個性が、あえて一歩引くことで見えてくる、バンド全体の総合力の高さを証明している。カリスマひとりに依存しない、対等な創作の場としてのバンド。この曲は、そうした東京事変というグループの理想的な在り方を体現した、貴重な記録だ。

ベーシスト・亀田誠治という、稀有な存在

この時期のベーシストであった亀田誠治は、椎名林檎のソロ活動時代から編曲家として深く関わってきた人物であり、後に数々のヒット曲を手がける音楽プロデューサーとしても広く知られるようになる。彼が作曲家の一人としてこのアルバムに参加していたという事実は、東京事変というバンドが、単なる演奏者の集まりではなく、それぞれが独立した音楽的キャリアを持つプロフェッショナル集団であったことを物語っている。プロデューサーとしての視点と、いちバンドメンバーとしての視点。その両方を行き来できる人材が加わることで、このアルバムの音楽的な奥行きは一層深まっていたのだろう。

歌詞の言葉数を絞ることで生まれる、演奏への集中

作詞に専念した椎名林檎の言葉選びは、この時期、饒舌に語りすぎず、あえて余白を残す方向へと向かっていたように感じられる。作曲を他のメンバーに委ねたことで、楽曲の構成そのものが複雑になった分、歌詞は言葉数を絞り、演奏の複雑さと拮抗しすぎないバランスを保っている。ボーカルと演奏、どちらか一方が突出するのではなく、互いを引き立て合う関係性を意識した制作姿勢が、この曲全体の完成度を支えている。役割を固定しすぎず、その都度柔軟に配分を変えていける懐の深さこそが、長く続くバンドの強さなのだと、あらためて感じさせられる。ひとつの役割に固執せず、必要とあれば主導権を手放すという判断は、個人としての誇りよりもバンド全体の完成度を優先する、成熟した創作姿勢の表れでもある。この曲を聴くたびに、ひとりのカリスマの陰に隠れがちな、他のメンバーたちの確かな作曲力にも、あらためて光を当てたくなる。バンドという形態の面白さは、まさにこうした個々の才能が予想もつかない形でぶつかり合い、ひとりでは決して生まれなかった音楽が立ち上がってくる瞬間にある。「OSCA」は、その面白さを凝縮した記録として、今も色褪せない輝きを放っている。単独では成し得なかった音の複雑さを、バンドという集団の力で実現してみせたこの一曲は、東京事変というグループの底力を証明する、重要な作品のひとつだと言えるだろう。この曲を起点に、アルバム『娯楽』の他の楽曲にも耳を傾けてみると、それぞれのメンバーの個性がより鮮明に浮かび上がってくるはずだ。ぜひ一度、通しで聴いてみてほしい。きっと新しい発見に満ちているはずだ。一曲だけでは見えなかった全体像が、必ず見えてくる。

参考リンク

一人のカリスマに頼らず対等な力を持ち寄るように、住まいの相談にも、複数の視点で考えることの大切さがあります。

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書いた人

大石浩之。静岡県磐田市で、介護と不動産の仕事をしています。 若い頃に東京で過ごした時間、仕事の中で見てきた家族や街の記憶、 そして今暮らす磐田で感じることを、音楽をきっかけに書いています。

音楽は、過去の自分に会いに行くための入口です。 家や土地もまた、誰かの記憶が残る場所だと思っています。