ページ作成日: 2026年7月5日
元にしたYouTubeリンク: https://www.youtube.com/watch?v=VeKp78Q8r3A
確認した動画: 東京事変 -「おいしい季節」from Bon Voyage(TokyoIncidentsVEVO)

『Bon Voyage』は、東京事変が2012年2月29日、日本武道館で行った公演を収めた映像作品だ[1]。この公演は「東京事変 LIVE TOUR 2012『ドメスティック』Bon Voyage」の千秋楽であり、当時のバンド活動における最後のライブパフォーマンスを記録したものだった[1]。2012年6月13日に発売されたこの作品は、Blu-ray Discの初週売上2万枚を記録し、6月25日付のオリコンBDランキングで首位を獲得、前作『Discovery』を上回る歴代最高の累計売上を達成している[1]

大石セレクション:MVがいい ★★★★★

  • 曲がいい:★★★★☆
  • 歌詞がいい:★★★★☆
  • MVがいい:★★★★★

選定理由:「Bon Voyage(良い旅を)」という映像作品のタイトルそのものが、この公演が当時のバンドにとって最後のステージであったことを暗示している。ドラマチックな照明の中で演奏される「おいしい季節」を見ていると、単なる一曲のパフォーマンス以上の、ある時代の終わりを見届ける厳粛さが伝わってくる。この歴史的な一夜を映像として残せたことの価値に、主視点を置きたい。

栗山千明へ贈られた楽曲が、辿った長い旅

「おいしい季節」は、もともと2011年、椎名林檎が女優の栗山千明のために書き下ろした楽曲で、演奏を東京事変が担当していたという経緯を持つ[2]。この曲はその後、6年の時を経て、椎名林檎自身によるセルフカバーバージョンもリリースされている[2]。一曲が、まず他者に提供され、バンドとして演奏され、さらに何年も経ってから作り手自身の声で歌い直される。この長い旅路そのものが、この曲の持つ普遍的な強さを物語っている。ここで紹介するライブ映像は、そうした複雑な変遷を辿る前、東京事変というバンドが演奏していた時代の記録だ。

他者のために書き下ろされた楽曲を、提供元のバンド自身が演奏するという形は、ある意味で複雑な立ち位置を伴う。自分たちが生み出した音楽でありながら、歌詞の主人公は別の誰かのために設定されている。それでもこの曲を、東京事変というバンドが自分たちのライブのレパートリーとして大切に演奏し続けてきたという事実は、提供曲であっても手を抜かず、丁寧に育て上げていくという、演奏者としての誠実な姿勢を物語っている。

「I SCREAM」に込められた、言葉遊びの涼しさ

この曲の歌詞には、「I scream(私は叫ぶ)」と「アイスクリーム」を掛け合わせた言葉遊びが含まれており、時間がアイスクリームのように溶けていくというイメージが描かれているという[2]。歌詞をそのまま引用することは控えるが、この言葉遊びは単なる洒落にとどまらず、過ぎ去っていく時間の儚さや、二度と戻らない瞬間の甘美さを、涼しげな筆致で表現している。夏の終わりに溶けていくアイスクリームのように、私たちの手からこぼれ落ちていく時間。そのイメージは、この曲がライブで演奏された、まさにバンドとしての活動の終わりが近づいていた時期の空気と、不思議な符合を見せている。

「良い旅を」というタイトルが持つ、二重の意味

「Bon Voyage」はフランス語で「良い旅を」を意味する、旅立つ人への祝福の言葉だ。当時のバンド活動における最後の公演を収めた作品にこの言葉を冠したことには[1]、深い意味が込められている。それは観客に向けた「今日という夜を楽しんでほしい」という願いであると同時に、バンド自身が次の旅路へ向かうことへの、自分たち自身への激励でもあったのだろう。実際、東京事変は後に活動を再開し、新たな旅を歩み続けていくことになる。この時点では、まだ先のことは誰にも分からなかったはずだが、結果として「良い旅を」という言葉は、正確な予言のようにも響く。

ドラマチックな照明が照らす、一期一会のステージ

映像で確認できるのは、赤や白のスポットライトが交錯する中、ステージに立つメンバーの姿だ。この照明の使い方には、単なる演出以上の、その夜だけの特別な緊張感が滲み出ている。二度と同じ形では再現できない、一期一会のステージ。そのことを演者自身も、観客も、おそらく強く意識していたはずだ。この映像がバンド史上最高の映像作品売上を記録したという事実は[1]、多くのファンがこの特別な夜を、繰り返し見返したいと願ったことの証だろう。

歴史的な一夜が、今も配信され続ける幸福

2012年2月29日という、バンドの歴史における重要な一夜のパフォーマンスが、こうして今もYouTubeを通じて誰でも見られる形で残されているという事実には、あらためて感謝したくなる。当時その場に居合わせることのできなかった人々にとっても、この映像は「あの日、何が起きていたのか」を追体験するための、貴重な扉になっている。時間が経てば経つほど、この記録の価値は増していくのだろう。「良い旅を」という言葉に見送られたあの夜のステージは、今も色褪せることなく、次の世代のリスナーにまで届き続けている。時が経ってから見返すと、当時は気づかなかった細部の表情や仕草に、新しい発見があることも、こうした映像記録ならではの豊かさだ。ひとつの時代の終わりを記録した映像が、こうして次の時代への橋渡しにもなっていることに、静かな感慨を覚える。終わりだと思っていた瞬間が、実は次の始まりへの序章だったのだと、後になって気づくことがある。この映像を見返すたびに、そうした人生の巡り合わせの不思議さを、あらためて思い知らされる。ひとつの節目を、悲壮感ではなく「良い旅を」という祝福の言葉で見送れる強さを、この作品全体から静かに受け取ることができる。誰の人生にも訪れる別れの場面で、この映像が示した姿勢を思い出せたなら、それはきっと大きな支えになるはずだ。良い旅を、と静かに送り出すその強さを、この一夜のステージからいつでも受け取ることができる。何度でも見返したくなる、そんな記録がここに残されている。この一夜の記憶が、これからもずっと多くの人の心に寄り添い続けるはずだと、心から願う。

参考リンク

旅立つ人へ「良い旅を」と願う気持ちがあるように、住まいを次へ引き継ぐときにも、そうした温かな見送りの言葉があります。

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書いた人

大石浩之。静岡県磐田市で、介護と不動産の仕事をしています。 若い頃に東京で過ごした時間、仕事の中で見てきた家族や街の記憶、 そして今暮らす磐田で感じることを、音楽をきっかけに書いています。

音楽は、過去の自分に会いに行くための入口です。 家や土地もまた、誰かの記憶が残る場所だと思っています。