ページ作成日: 2026年7月5日
元にしたYouTubeリンク: https://www.youtube.com/watch?v=X-HyJryYwsA
確認した動画: 「Paradise Has No Border」ライブ映像(「Great Conjunction 2020」2020.12.03)/ TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA(TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA OFFICIAL)

2020年、世界の多くの国境が、現実に閉ざされていた。東京スカパラダイスオーケストラは同年9月30日、ワイヤレスイヤホン「AVIOT」とのタイアップ曲「Great Conjunction 2020」の配信を開始し[1]、トロンボーン奏者・北原雅彦が作曲を手がけたこの新曲のミュージックビデオも公開している[1]。ここで紹介する映像は、その「Great Conjunction 2020」という名を冠したイベントの中で、2020年12月3日に披露された「Paradise Has No Border」のライブパフォーマンスの記録だ。

大石セレクション:曲がいい ★★★★☆

  • 曲がいい:★★★★☆
  • 歌詞がいい:★★★★☆
  • MVがいい:★★★☆☆

選定理由:「楽園に境界線はない」と歌うこの曲が、実際に世界中で国境や都市が封鎖されていた2020年という年に演奏されたという事実そのものが、楽曲の説得力を何倍にも増幅させている。同じ演奏でも、置かれた時代背景によって歌の意味は変わる。分断が現実のものとして立ちはだかっていた年に、あえてこの曲を選んで鳴らし続けたバンドの意志の強さに、曲そのものの持つ力を見出したい。

「Great Conjunction」という、もうひとつの意味

「Great Conjunction」とは、本来は木星と土星が接近して見える天文現象を指す言葉だ。2020年12月には実際に約400年ぶりとされる大接近が話題になった年でもあり、このイベント名にはそうした天文学的な意味と、コロナ禍で分断された人々が再びひとつに集うことへの願いという、二重の意味が込められていたのではないかと想像する。東京スカパラダイスオーケストラが同時期にリリースした「Great Conjunction 2020」という楽曲自体、星々が巡り合う壮大なリズムと、高揚感のあるホーンのメロディを持つインストゥルメンタルとして作られている[1]。その名を冠したライブイベントの中で、あえて「Paradise Has No Border」を演奏するという選曲は、決して偶然ではなく、明確な意図を持った構成だったはずだ。

無観客という条件下で鳴らされた、境界のない歌

2020年という年、多くのアーティストが無観客での配信ライブという、それまで経験したことのない形式での表現を余儀なくされた。目の前に観客がいない状態で、それでも「楽園に境界線はない」と演奏することには、皮肉とも、祈りとも取れる複雑な感情が込められていたのではないだろうか。実際に世界の国境が閉ざされ、人と人が自由に行き来できなくなっていたその瞬間に、あえてこのタイトルの曲を選ぶという判断は、現実を無視した楽観ではなく、むしろ「今だからこそ、この理想を歌わなければならない」という強い意志の表れだったように思える。困難な状況の中でこそ、理想を掲げ続けることに意味がある。この曲を通して、バンドはそのことを静かに、しかし確かに伝えていたのではないかと感じる。

ロゴマークが見守る、記録としてのライブ映像

この映像には、演奏する姿にバンドのロゴマークが重ねられた形で残されている。単なる一回きりのパフォーマンスとしてではなく、「記録」として意図的に残された映像であることが、その構成からも伝わってくる。観客のいない会場で、それでも一音一音丁寧に紡がれていく演奏。派手な照明効果に頼るのではなく、演奏そのものの緊張感を伝えることに重きを置いた作りは、2020年という特殊な年の空気を今に伝える貴重な記録になっている。

同じ曲が、時代によって違う顔を見せる

さかなクンを迎えたにぎやかなライブバージョンと、この無観客の中で演奏されたバージョン。同じ「Paradise Has No Border」という曲でありながら、置かれた状況によってまったく異なる表情を見せることに、あらためて驚かされる。にぎやかな祝祭の場で歌われれば、それは多様性を寿ぐ言葉になり、分断の時代に無観客で歌われれば、それは希望を手放さないための祈りになる。一曲が持つ言葉の強度は、時代や状況によって形を変えながら、何度でも新しい意味を帯びて立ち上がってくる。この曲がそうした力を持っていることを、2020年という特殊な年の記録は、静かに証明している。

ワイヤレスイヤホンという、新しい時代の象徴

「Great Conjunction 2020」がタイアップした「AVIOT」は、完全ワイヤレスイヤホンという、まさに2020年前後から生活に急速に浸透していった製品だった[1]。コードに縛られない自由な音楽体験を象徴するこの製品と、星々が接近するという天文現象の名を冠したタイアップ曲、そして人と人がつながることを願う「Paradise Has No Border」。この三つが同じ時期に重なり合っていたことは、単なる偶然というより、あの年に多くの人が求めていた「つながりたい、でも距離は保たなければならない」という、矛盾した願いを映し出しているように思える。物理的には離れていても、ワイヤレスの技術やインターネット配信を通じて、音楽という共通言語だけは国境や距離を越えて届けられる。この曲がその年に選ばれ続けたことには、そうした時代の切実な願いが重なっていたのだろう。演奏する側もまた、画面の向こうにいる見えない誰かに向けて、いつも以上に丁寧に一音一音を届けようとしていたのではないかと想像する。観客の拍手や歓声が返ってこない空間で演奏し続けることは、決して楽なことではなかったはずだ。それでも鳴らし続けたこの曲は、その困難さごと、あの年の記録として今も価値を持ち続けている。画面越しに届けられた音楽が、それでも確かに誰かの心を支えていたはずだと、今振り返っても思う。あの年を知っている人ほど、この映像を見返したときに込み上げてくるものがあるはずだ。

参考リンク

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書いた人

大石浩之。静岡県磐田市で、介護と不動産の仕事をしています。 若い頃に東京で過ごした時間、仕事の中で見てきた家族や街の記憶、 そして今暮らす磐田で感じることを、音楽をきっかけに書いています。

音楽は、過去の自分に会いに行くための入口です。 家や土地もまた、誰かの記憶が残る場所だと思っています。