タイトルを見た瞬間、これは歌ではなく問いなのだと思った。「僕にはどうしてわかるんだろう」。何が、とは書かれていない。分かっていることの中身ではなく、分かってしまうという現象そのものへの戸惑いが、そのままタイトルになっている。仕事の判断でも、人との距離の取り方でも、これでいいと確信する瞬間は誰にでもある。けれどその確信がどこから来たのかを、あとから言葉で追いかけようとすると、たいてい途中で行き止まりになる。理由を並べているつもりが、実は後付けしているだけだと気づく瞬間がある。この曲はその行き止まりを、隠さずにそのまま歌にしている。2025年4月25日に配信リリースされたこの楽曲は、内野聖陽が主演する、テレビ朝日系木曜ドラマ『PJ~航空救難団~』の主題歌としてVaundyが書き下ろした一曲だ。航空自衛隊の全面協力のもと制作されたこのドラマは、パラレスキュージャンパー、通称PJと呼ばれる救難隊員の訓練教官を描いている。人の命がかかった現場で、迷っている暇はない。けれど、その判断の正しさを、その場で完全に説明できるわけでもない。使命や情熱がどこから湧いてくるのか、目的を成し遂げたときの自信の根拠がどこにあるのか。Vaundyはそうした、ひとりの人間の自問自答をこの曲に込めたと語っている。派手な高揚を煽る曲ではなく、確信の手前にある戸惑いを、丁寧に持ち続けている曲だと思う。この曲を何度も聴き返してしまうのは、東京で働いていた頃の判断の記憶と、磐田で家や土地に向き合ういまの記憶の両方が、「どうしてわかるんだろう」という一節に静かに引き寄せられるからだ。
訓練教官の物語に書き下ろされた、迷いの歌
『PJ~航空救難団~』は、航空自衛隊の全面協力によって作られたドラマで、内野聖陽が15年ぶりにテレビ朝日系連続ドラマに主演することでも話題になったと報じられている[1]。パラレスキュージャンパーは、遭難者の救助のために危険な現場へ真っ先に飛び込む、自衛隊の中でも特に過酷な任務を担う部隊だとされる[2]。Vaundyはこの作品への書き下ろしにあたり、使命や情熱がどこから生まれるのか、目標を成し遂げたときの根拠のない自信がどこから来るのかを考えたという趣旨のコメントを残している[1]。人は色のついた世界をずっと探し求めるけれど、そこには辿り着けない。それでも、答えのようなものはなんとなく分かっている。そういう趣旨の言葉も伝えられている[1]。訓練教官という役割は、自分自身の判断だけでなく、他人の命を預かる判断を日々下し続ける仕事だ。マニュアルには書ききれない部分を、経験と直感で埋めていかなければならない。その重さを踏まえたうえで、Vaundyはヒロイズムを煽るのではなく、判断の根拠が説明しきれないという、人間的などうしようもなさの方に焦点を当てている。確信の足元にある不確かさを歌にするという選択は、ドラマそのものが描こうとする、命を預かる人間の生々しさと静かに呼応しているように感じられる。
すべてがサビのように鳴る、その先にあるもの
この曲を聴いていて印象に残るのは、映画の冒頭のような弦の響きから始まり、ミニマルなビートとシンプルなコード進行の上を、メロディが滑るように伸びていく構成だ。ある評では、この曲のサビについて、90年代のJ-POPを思わせるメロディの強度が語られており、イントロからAメロ、Bメロ、コーラスに至るまでの構成やアレンジのすべてが、そのサビの効果を最大化するよう緻密に配置されていると評されている[3]。派手な音数で押し切るのではなく、余白を残しながら曲全体の温度を少しずつ上げていくような作りに聴こえる。Billboard JAPANのチャートによれば、この曲はHot 100で週間20位、ダウンロードソングスでは週間13位、ストリーミングソングスでは週間41位を記録したと伝えられている[4]。爆発的な初動というよりは、ドラマの放送と並走しながら、着実に聴かれる層を広げていったタイプの一曲だったのだろうと思わせる数字だ。ある評論では、この曲がVaundyにとって過去の来歴ではなく、自分自身の内面に理由を求めていく作品であり、"自己の再発見"とでも呼ぶべき物語だと位置づけられている[3]。曲が進むにつれてトラックとボーカルがじわじわと熱を帯びていく展開も、迷いながら少しずつ確信に近づいていく過程そのものを音にしているように感じられる。作詞・作曲・編曲のすべてをVaundy自身が手がけている点も見逃せない[5]。曲を書き下ろした本人が、歌詞の中の「わからなさ」をそのままメロディの手触りにも反映させているように聴こえるのは、この一人がすべての工程に関わっているからこそだろう。
佐藤健が演じた、答えのない現場
この曲には公式ミュージックビデオが存在する。2025年5月6日に公開されたそのMVは、Vaundy自身が監督を務め、俳優の佐藤健が出演している[6][7]。佐藤健は、Vaundyが「常に時代の最先端にい続ける人」であり、彼自身の頭の中にあるビジョンを形にする手伝いをしたいと考えて参加を決めたという趣旨のコメントを残しており、撮影の体験について「ミュージックビデオというより、SF映画を撮っているような感覚だった」と語っている[7]。歌詞が「確信の根拠を説明できない」という内面の戸惑いを描いているのに対し、映像がSF的な質感を帯びているという組み合わせは興味深い。分かるということの手前にある不確かさを、現実離れした画づくりのなかに置くことで、判断の根拠という抽象的なテーマに、見て分かる手触りを与えようとしたのではないか。ただし、具体的にどんな情景が描かれているかについての詳細な公式解説までは確認できておらず、この記事では映像の細部までを断定的に語ることは避けたい。佐藤健という俳優の存在感と、Vaundy自身が監督することで生まれる作家性の強さは十分に感じられるものの、歌詞が持つ普遍的な深さと比べると、MV単体の物語がどこまで多くの人の記憶に重なるかは、曲や歌詞ほど断言しにくい。だからこそ今回、主視点には歌詞がいいを選んでいる。
説明できない判断を、東京で重ねた日々
東京で働いていた頃、自分の判断がなぜ正しいと言い切れるのか、説明しきれないまま決断しなければならない場面が何度もあった。会議の場では根拠を求められる。数字を示し、前例を挙げ、筋道立てて話す。それが仕事のやり方だと思っていた。けれど本当に難しい判断の瞬間、最後に自分を後押ししていたのは、きれいに並べた根拠ではなく、うまく言葉にできない勘のようなものだったと、いま振り返ると思う。その勘がどこから来たのか、当時は自分でも分からなかった。過去の失敗の記憶か、誰かの何気ない一言か、あるいはただの疲労からくる直感か。分からないまま、それでも決めなければ物事は前に進まなかった。「僕にはどうしてわかるんだろう」というタイトルは、そういう、説明のつかない確信をめぐる誠実な問いそのものだと思う。答えを急いで取り繕うのではなく、分からなさをそのまま抱え続ける。それは弱さではなく、自分の判断に対する謙虚さの表れだったのかもしれない。あの頃は、分からないことを分からないと認めるのが怖かった。今なら、分からないままでいることの方が、よほど誠実な態度だったと分かる。
磐田の家と土地で、確信の根っこを探す
磐田に戻り、家や土地の相談を受けるようになってから、この「どうしてわかるんだろう」という問いに、以前よりずっと近い距離で向き合うようになった。相続や空き家の相談では、正解が一つに定まらないことがほとんどだ。売るべきか、残すべきか、貸すべきか。制度や税金の知識だけでは決めきれない部分が必ず残る。長年この土地で仕事を続けてきた経験から来る直感が、最後に判断を後押しすることも少なくない。けれど、その直感の根拠をどう説明すればいいのか、いつも悩む。それでも、家族が代々暮らしてきた土地には、書類や登記簿には表れない時間の積み重ねがある。その積み重ねを踏まえたうえでの判断は、理屈だけでは説明しきれない確からしさを持っている。PJの訓練教官が、命を預かる現場でマニュアルの外側にある判断を積み重ねているように、自分もまた、土地と家族の記憶を踏まえて、言葉にしきれない確信を抱えながら仕事をしている。この曲が鳴らす、答えを急がない誠実さは、そういう仕事の手触りと静かに重なっている。なぜ今もこの土地に留まっているのか、なぜこの家業を続けているのか、明確な言葉で説明しきれないことの方が多い。それでも、朝起きて土地の景色を見て、今日も一日をここで過ごすと決める。その繰り返しの中に、説明のつかない確信が、少しずつ積み重なっている。Vaundyがこの曲で描いた、使命や情熱の根拠を問い直す姿勢は、大きな仕事や特別な使命を持つ人だけのものではない。日々の小さな判断を積み重ねながら生きている自分たちにも、同じ問いが静かに寄り添っている。分からないまま、それでも歩き続けてきた東京での時間も、いま磐田で家や土地と向き合っている時間も、この曲を聴くたびに、静かに肯定されているように感じている。
参考リンク
- [1] Vaundy、航空自衛隊全面協力ドラマ「PJ~航空救難団~」主題歌書き下ろし(コメントあり) - 音楽ナタリー
- [2] Vaundy、新曲“僕にはどうしてわかるんだろう”がテレビ朝日系木曜ドラマ「PJ~航空救難団~」主題歌に決定 - TOWER RECORDS ONLINE
- [3] 「僕にはどうしてわかるんだろう」に綴られた"自己の再発見"という物語 - Real Sound
- [4] 僕にはどうしてわかるんだろう - Wikipedia
- [5] Vaundyの作詞・作曲・編曲歌詞一覧 - UtaTen
- [6] 「僕にはどうしてわかるんだろう」ミュージックビデオ公開! - Vaundy Official Site
- [7] Vaundy「僕にはどうしてわかるんだろう」MUSIC VIDEO 出演 - Co-LaVo Inc.
- [8] 僕にはどうしてわかるんだろう(テレビ朝日系木曜ドラマ『PJ~航空救難団~』主題歌) / Vaundy:MUSIC VIDEO(Vaundy公式)
「わからないまま歩き続ける」感覚は、音楽の記憶にも、家や土地の記憶にも同じように残っています。
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