ギターという楽器は、弾く人によってまったく違う顔を見せる。同じコードを押さえても、鳴る音の質感が変わる。Vaundy「トドメの一撃 feat. Cory Wong」を最初に聴いたとき、私が反応したのは曲そのものより、そのイントロで鳴っているカッティングの粒立ちだった。軽やかなのに、芯が硬い。後で知ったことだが、そのギターを弾いているのはアメリカのファンクギタリスト、Cory Wongだという。2023年10月8日に配信リリースされたこの曲は、TVアニメ『SPY×FAMILY』Season 2のエンディングテーマとして書き下ろされ、Vaundyのアルバム『replica』にも収められている。ミュージックビデオには女優の長澤まさみが出演し、監督は児玉裕一。沈みゆく豪華客船の上で歌い踊る、モノクロームの映像だ。私は東京で働いていた時期、様々な国籍の人間が同じ現場に集まる仕事に何度か関わったことがある。言葉が完全には通じなくても、手を動かす技術だけは正確に伝わる瞬間があった。この曲を聴くと、あの頃の、道具と技術で人がつながっていく感覚を思い出す。フェスという一期一会の場で出会った日本のシンガーソングライターとアメリカのギタリストが、一曲の中で技術をぶつけ合っている。国境も言語も、演奏という具体的な仕事の前では、思ったより薄い壁なのかもしれない。磐田で家や土地の相談を受ける仕事をしていると、専門性の違う人間同士が一つの案件で手を組む場面によく出会う。この曲が鳴らしている緊張感のある噛み合い方は、そうした協働の記憶と重なるところがある。
フェスで出会い、一曲に結実するまで
Cory Wongは2023年、FUJI ROCK FESTIVALに初めて出演したギタリストだと伝えられる。fujirockers.orgの現地レポートによれば、同年のフェスでVaundyとWongが同じ会場に居合わせたことが、この曲のコラボレーションにつながったとされる。フェスという場は、出演者にとって偶然の隣り合わせが多い。楽屋やステージ袖ですれ違うだけの関係が、その場限りで終わることもあれば、後に作品という形で結実することもある。「トドメの一撃 feat. Cory Wong」は後者の例で、日本のシンガーソングライターとアメリカのファンクギタリストという、普段は交わりにくい二つの音楽的文脈が、一つの楽曲の中で正面から向き合うことになった。TVアニメ『SPY×FAMILY』Season 2は2023年10月7日に放送を開始し、その翌日にこの曲が配信されるという運びだったと伝えられている。アニメのタイアップという商業的な枠組みの中に、フェスでの偶発的な出会いが持ち込まれている構図は、興味深い。仕事の依頼というのは、たいてい後から計画されたものに見えて、実は数年前のちょっとした縁が種になっていることが多い。私自身、磐田で今抱えている案件の中にも、東京時代に一度だけ名刺を交わした相手からの紹介が起点になっているものがある。縁は、発生した瞬間には仕事の形をしていない。しばらく経ってから、ふとした拍子に「あの時の縁が、こういう形で戻ってきたのか」と気づく。フェスの楽屋で交わされたであろう一言も、おそらく最初は世間話程度のものだったはずだ。そこから半年ほどをかけて、実際の楽曲制作、アニメ制作サイドとの調整、MVの撮影という具体的な工程を経て、一つの完成品になっていく。出会いそのものよりも、出会いを実際の仕事に変換していく地道な工程のほうに、私はむしろ興味を惹かれる。
カッティングという手仕事
この曲の音楽的な骨格は、Cory Wongのギターカッティングにあると聴こえる。太陽に水のレビューでは、Wongの軽やかで俊敏なフレーズが楽曲に華やぎと刺激を添えていると評され、山下達郎を思わせるようなシティポップ的な高揚感を持つ演奏だとも書かれている。イントロで鳴るホーンとストリングスは、MVの舞台である豪華客船を思わせる音づくりになっているとの指摘もある。フルートの演奏が絡む中間部も含めて、バンドサウンドとして緻密に組み立てられた印象を受ける。カッティングという技術は、ギターの弦をミュートしながら細かく刻む奏法で、リズムそのものを楽器で表現するような仕事だ。派手なソロのように前に出るわけではないが、曲の推進力の大半をこの刻みが担っている。私はこれを聴くたびに、目立たないが仕事全体を支えている工程のことを思う。家の解体や土地の測量の現場でも、完成形として見える部分より、その下で地味に精度を積み重ねている作業のほうが、実は仕事の質を決めていることが多い。Wongのカッティングは、そういう縁の下の仕事が主役になり得ることを、音として証明しているように聴こえる。Vaundy自身のボーカルも、サビに向けて音域を押し上げていくような歌い方をしており、この上昇感がカッティングの刻む細かいリズムとせめぎ合うことで、曲全体に前へ前へと進む推進力が生まれているように感じられる。ギター、ボーカル、ホーン、ストリングス、それぞれの役割がはっきりと分業されていながら、全体としては一つの生き物のように動く。分業と統合が同時に成立しているという点で、これは一種のチームワークの音楽だと言い換えることもできるだろう。
数字が語る手応えと、語らない部分
この曲がどれほど聴かれたかについて、正確なオリコンやビルボードの順位を、今回の調査で一次資料として確認することはできなかった。ただしSpotifyなどのサブスクリプションサービスでは相応の再生数を重ねているとされ、TOWER RECORDS ONLINEやRolling Stone Japanなど複数の音楽メディアがMV公開時にニュースとして報じていることから、リリース当時から一定の注目を集めていたことはうかがえる。数字がすべてを語るわけではない。むしろ、はっきりした順位が見つからないことのほうが、この曲の性格を物語っているようにも思う。アニメのタイアップ曲として広く聴かれながらも、ギター一本の技巧に踏み込んで語られることの多い曲だ。ランキングという横並びの指標よりも、演奏そのものの質で語り継がれるタイプの楽曲なのだろう。磐田で不動産の仕事をしていても、成約件数という数字には表れない評判、たとえば「あの人に頼んでよかった」という一言のほうが、長い目で見ると仕事を支えていることがある。この曲の評判のされ方は、そういう数字の外側にある手応えを思い出させる。楽曲配信という仕組み自体、再生数やチャート順位という定量的な指標を絶えず突きつけてくる世界のはずだが、この曲について書かれた文章の多くが、順位よりもギターの音色や演奏の質感について熱心に語っているのを見ると、作り手の技術に対する敬意のようなものが、聴き手の側にも自然と伝わっているのだろうと思う。数字で測れる評価と、数字にならない評価。仕事を続けていく上では、どちらも大切だが、後者を持ち続けられるかどうかが、長く続く仕事かどうかを分けるように思う。
土地に根を張る仕事と、旅する音楽
Cory Wongはミネアポリスを拠点に活動するギタリストで、日本のフェスに呼ばれ、日本のアーティストと一曲を作り、また別の土地へ旅立っていく。一方で私は、磐田という一つの土地に根を張り、家や土地の相談を通じて、そこに暮らし続ける人たちの生活を支える仕事をしている。動く仕事と、留まる仕事。一見対照的だが、この曲を聴いていると、両者は思ったより近いところにあるのではないかと感じる。旅する音楽家が残していくのは、その土地との一期一会の記憶であり、留まる仕事をする者が積み重ねるのも、一件一件の縁の記憶だ。動くか留まるかの違いはあっても、どちらも人と人との具体的な関わりを積み重ねている点では変わらない。「トドメの一撃」という曲名は、決着をつける最後の一手という意味だが、この曲自体はむしろ、フェスでのちょっとした出会いが、思いがけず一つの仕事に結実するまでの、地道な積み重ねの物語のように私には聴こえる。東京にいた頃の私は、常に動き続けることが仕事だと思っていた。今は逆に、一つの土地に留まり続けることで見えてくる仕事の形があると感じている。留まっているからこそ、遠い場所からやってくる音楽や、遠い場所での出会いが結実した仕事の話が、いっそう鮮やかに響くのかもしれない。磐田で家族と暮らし、日々の仕事を続ける中で、こうした遠い場所からやってきた縁の記憶を、時々こうして曲を通じて読み直している。
もう一度、あの一曲を聴く理由
この曲を繰り返し聴くようになったのは、ここ最近のことだ。リリースから時間が経ち、話題性という意味では落ち着いた頃になって、かえって曲そのものの構造がよく見えるようになった気がする。タイアップ曲というのは、放送中は文脈込みで消費され、シーズンが終わると急速に語られなくなることが多い。だがこの曲は、アニメのシーズンが終わった後も、ギタリストの技巧を語る文章の中で名前が挙がり続けている。それは、曲を成立させている技術そのものが、話題性という消費期限の外側にあるからだろう。私は仕事でも似たようなことをよく考える。案件が動いている間だけ評価される仕事と、案件が終わった後もその仕事のやり方が語り継がれる仕事がある。後者になるためには、目立つ部分だけでなく、カッティングのような目立たない部分の精度が問われるのだと思う。磐田で長く仕事を続けていくということは、派手な成約の瞬間よりも、その裏側にある地道な調整や確認作業の積み重ねが、結局は評判として残っていくということでもある。この曲のギターの刻みを聴くたびに、そのことを思い出す。フェスでの一期一会が、遠く離れた国の音楽家同士の技術のぶつかり合いに変わり、それがさらに、磐田で土地の仕事をする私の日常の記憶にまでつながってくる。曲は短い数分間のものだが、そこに折り重なっている縁の層は、思いのほか厚い。子どもが生まれてから、家で音楽を流す時間の質も変わった。以前は集中して聴き込むための音楽と、作業をしながら流す音楽をはっきり分けていたが、今は家事の合間や送り迎えの車の中で、断片的に何度も同じ曲を耳にすることが増えた。この曲もそういう聴き方をした一曲で、最初はイントロのギターだけが耳に残り、次第にサビの上昇していく歌い方に気づき、さらに時間が経ってからホーンやストリングスの存在に気づく、という具合に、聴くたびに違う層が見えてきた。断片的にしか聴けない生活の中でも、じわじわと理解が深まっていく曲があるというのは、ありがたいことだと思う。忙しさに追われる日々の中で、一つの曲を何度も聴き返す余裕自体が、実は小さな贅沢なのかもしれない。磐田での暮らしは、東京にいた頃に比べて時間の流れ方が違う。移動時間、近所付き合い、季節の行事、そうしたものの合間に、音楽を聴く時間が自然と組み込まれている。フェスという非日常の場で生まれた曲が、こうして日常の断片の中で少しずつ形を現していくという聴き方自体、この曲にふさわしい距離感なのかもしれないと感じている。
参考リンク
- fujirockers.org「新・世界3大ギタリストCory Wongが再来日!」
- skream.jp「Vaundy、新曲『トドメの一撃 feat. Cory Wong』がTVアニメ『SPY×FAMILY』Season 2 ED主題歌に決定」
- skream.jp「Vaundy、長澤まさみ出演MV&ノンクレジット・アニメ映像公開」
- Rolling Stone Japan「Vaundy、長澤まさみ出演MV『トドメの一撃 feat. Cory Wong』公開」
- TOWER RECORDS ONLINE「Vaundy、2ndアルバム『replica』よりMV公開」
- 太陽に水「Vaundy新曲『トドメの一撃 feat. Cory Wong』のグルーブに宿るリバイバル精神」
- Wikipedia「トドメの一撃」