WISEの「会えなくても feat. 西野カナ」は、2009年5月27日に発売された楽曲で、同日リリースのアルバム『LOVE QUEST』に収録されている[1][2]。作詞はWISEと西野カナ、作曲はGiorgio Cancemiが手がけた[1]。WISEは本名を亀山晴児といい、名古屋出身で日米のルーツを持つラッパーである。NIGO、RYO-Z、イルマリ、VERBALらとともにTERIYAKI BOYZのメンバーとして活動し、2007年にソロ・アーティストとしてメジャーデビューを果たした人物だ[3][4]。この曲がとりわけ興味深いのは、単独で生まれた恋愛ソングではなく、西野カナが同じ2009年に発表した「遠くても feat.WISE」への“アンサーソング”として作られている点である[5][6]。「遠くても」が2009年3月18日にSME Recordsから発売され、女性側の視点で会えない切なさを歌った曲だとすれば[6]、この「会えなくても」はその返答として、男性側の想いを重ねる構造になっている[5]。
今回取り上げるのは、UNIVERSAL MUSIC JAPANの公式チャンネルで配信されている「会えなくても feat. 西野カナ / WISE」である[7]。この曲は、曲・歌詞・MVのどれを取っても語りどころがあるが、その中でも大石セレクションとして選びたいのは、二つの曲が呼応することで初めて完成する、歌詞の対話的な構造である。
メロウなトラックに乗る、ラップと歌声の距離感
音の面から見ていくと、「会えなくても」はGiorgio Cancemiが作曲を手がけた、R&Bの質感を持つ落ち着いたラブソングである[1]。派手なビートで押していくタイプのヒップホップではなく、むしろ夜に一人で聴くのが似合う、メロウで温度のある音作りが全体を包んでいる。WISEはTERIYAKI BOYZでの活動を通じて、英語と日本語を行き来する軽快なフロウで知られるラッパーだが[3][4]、この曲では技巧を誇示するよりも、言葉を一つずつ相手に届けるような、抑えたトーンのラップを聴かせている。
そこに西野カナの歌声が重なる。ラップと歌という異なる発声が同じトラックの上で交わるとき、二人の“声の距離”がそのまま曲の主題である「離れている二人」を音として表現しているように感じられる。WISEの語るようなヴァースと、西野カナの伸びやかなサビ。この対比が、会えない相手を思う気持ちの、言葉にならない部分を埋めていく。ラップパートで淡々と積み重ねられた想いが、サビで一気に感情の色を帯びる構成は、聴くたびに胸の奥を静かに動かす。数字の派手さで語られる曲ではないが、二つの声の質感の違いを丁寧に生かした音作りが、この曲を長く聴かせる強さの源になっている。
「遠くても」と「会えなくても」——二曲で完成する対話
歌詞をそのまま引用することはしないが、その構造について考えてみたい。この曲の最大の特徴は、単独の恋愛ソングとしてではなく、西野カナの「遠くても feat.WISE」と対になる“アンサーソング”として書かれている点にある[5][6]。「遠くても」は2009年3月に先に発表され、遠く離れた相手を思う女性側の視点から、会えない切なさと、それでも変わらない想いを歌った曲だ[6]。それに対して「会えなくても」は、同じ状況を男性側の視点から歌い返す。つまり、二つの曲は同じ一つの遠距離の関係を、別々の場所にいる二人がそれぞれの言葉で語っているという構図になっている。
この作りが優れているのは、片方だけを聴いても十分に成立しながら、二曲を並べて聴くことで初めて全体像が見えてくるところだ。会えない夜に、彼女は彼を思い、彼もまた同じ夜に彼女を思っている。互いの想いは直接には交わらないのに、聴き手だけがその両方を知っている。この“すれ違いながら重なっている”感覚こそが、遠距離という状況の本質を突いている。手紙を書いて、返事が届くまでの時間差の中にしか存在しない気持ちのやり取りを、二つの楽曲の関係そのものが再現しているのだ。
作詞にWISE自身と西野カナの両名が名を連ねていることも、この対話的な構造を裏付けている[1]。二人が言葉を持ち寄って書いたからこそ、「遠くても」への返答として自然な温度を保てているのだろう。会えないという事実は変えられない。それでも、その事実の上に想いを重ね続けることはできる。派手な決めゼリフではなく、離れているという前提を静かに受け入れたうえで綴られる言葉だからこそ、この歌詞を主視点に選びたいと思った。
公式配信映像が伝える、静かな余韻
今回確認したのは、UNIVERSAL MUSIC JAPANの公式チャンネルで配信されている映像である[7]。曲が持つメロウで落ち着いた空気に寄り添うように、映像もまた派手な演出に頼らず、会えない二人の間に流れる時間そのものを静かにすくい取っている。WISEのラップと西野カナの歌が交互に主役を担う楽曲の構造が、映像の中でも視点の移り変わりとして感じられ、離れた場所にいる二人が同じ想いを抱えているという主題を、映像の側からも支えている。
ただし、映像単体としての物語の起伏や、強く印象に残る演出という点では、二曲が交わす往復書簡のような歌詞の妙に比べると、やや控えめな作りだと感じる。公式配信映像として曲の世界観を壊さず、丁寧に寄り添っている点は間違いないが、この記事では「遠くても」と「会えなくても」という二曲の対話構造を主役に据えたいという判断から、MVの評価は中位に置いている。それでも、曲を耳で追いながら映像を眺めていると、会えない相手を思う夜の静けさが、そのまま画面の余白に溶けているような感覚が残る。
会えない時間が、想いを確かめさせる
WISEはTERIYAKI BOYZという、日本語ラップの歴史の中でも独特の存在感を放ったグループの一員でありながら、ソロではこうした繊細なラブソングも手がけてきた[3][4]。「会えなくても feat. 西野カナ」は、その振れ幅の中でも、聴き手の日常にそっと寄り添うタイプの一曲だ。西野カナの「遠くても」と合わせて、遠距離恋愛の心情を歌った楽曲として、当時多くのリスナーの支持を集めた[5]。
ここで少し、私自身の話をしたい。私は磐田市で介護と不動産の仕事をしているが、若い頃に東京で働いていた時期、実家のある静岡とは物理的に距離があった。当時はまだ、会おうと思えば新幹線で帰れる距離だと軽く考えていて、なかなか足を運ばなかったものだ。磐田に戻り、介護の現場で高齢の方々と接するようになってから、その感覚は少し変わった。遠くに住む子や孫となかなか会えないまま日々を過ごす方は少なくない。電話越しの声や、たまに届く手紙、そういう細い糸のようなつながりを、静かに大切にしている姿を何度も見てきた。実家を整理する仕事の中でも、遠く離れて暮らした家族が交わした手紙や写真が、引き出しの奥から出てくることがある。会えない時間が長かったからこそ、その一枚一枚に込められた想いは重い。この曲が「会えなくても」続く気持ちを歌うように、人と人のつながりは、会える回数の多さだけで測れるものではないのだと、そういう現場に立つたびに思う。
「会えなくても」は、離れているという動かせない事実を出発点にしながら、その上に想いを積み重ねていく歌だ。だからこそ、会えることが当たり前でなくなった今の時代に、静かに効いてくる。派手な言葉で距離を埋めようとするのではなく、離れたまま同じ夜を思うという、ささやかで確かな結びつきを描くこと。二曲で一つの物語を完成させるその作りごと、この曲は聴く人それぞれの「会えない誰か」の記憶と重なっていく。
参考リンク
- [1] 会えなくても feat. 西野カナ - WISE - レコチョク
- [2] LOVE QUEST - WISE - UNIVERSAL MUSIC JAPAN
- [3] Wise (ラッパー) - Wikipedia
- [4] TERIYAKI BOYZのプロフィール - 音楽ナタリー
- [5] WISE 会えなくても feat. 西野カナ 歌詞 - 歌ネット
- [6] 遠くても feat.WISE - Wikipedia
- [7] 会えなくても feat. 西野カナ / WISE - YouTube(UNIVERSAL MUSIC JAPAN)
会えない時間の中でも人と人の想いが続いていくように、離れて暮らした家族が交わした記憶は、家や土地の中に静かに残っています。
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