このサイトでは以前、KREVA「One feat. JQ from Nulbarich」を取り上げました。あの曲がきっかけでNulbarichを知り、ライブに出かけるほどになった経緯を書きました。今回はその、ちょうど逆向きの出会いの話です。KREVAさんから、PUNPEEを知りました。「夢追人 feat. KREVA」は、私にとってPUNPEEという書き手への入口になった1曲です。日本語ラップの世界で独自の言葉遣いを積み重ねてきたPUNPEEを、私はこの曲で初めて意識しました。すでに知っているアーティストが、まだ知らないアーティストと共演する。この形式の曲はいつも、新しい音楽への橋渡し役を果たしてくれます。KREVAという、すでに信頼を寄せていた表現者が認めた相手なら間違いないはずだという、根拠のない、それでいて揺るがない安心感を携えて、私はPUNPEEという世界に足を踏み入れることができました。
思えば、音楽との出会いというものは、いつも誰かの手を経てやってきました。自分1人でレコード店の棚を端から端まで漁って見つけたものより、誰かが「これはいい」と差し出してくれたものの方が、結果的に長く聴き続けている気がします。仕事で磐田の家や土地を見て回るときも、紹介というものの重みをよく考えます。信頼している人の紹介であれば、初めて顔を合わせる相手でも身構えずに済む。誰かが誰かを連れてくる。その連鎖のいちばん心地よい形を、この曲は音楽として教えてくれました。KREVAという1人のラッパーを追いかけていたはずが、気づけばPUNPEEという新しい世界の入口に立っていた。その巡り合わせを、ここに書き残しておきたいと思います。
予告なしの客演が話題を呼んだ曲
「夢追人 feat. KREVA」は、PUNPEEが2020年7月1日にリリースしたミニアルバム『The Sofakingdom』に収録された楽曲です。このアルバムは、2017年発表の1stアルバム『MODERN TIMES』以来となる待望のオリジナル作品で、KREVAと5lackという2人の客演を迎えた5曲入りの作品でした。この曲の興味深いところは、収録前の時点でKREVAの参加についてまったくアナウンスされていなかったという点です。アルバムに先駆けて2020年6月30日に公開されたミュージックビデオに、KREVAが登場したことで多くのファンが驚かされました。このMVは公開から1週間ほどで再生回数50万回を突破したと伝えられており、当時大きな反響を呼んだことがうかがえます(スピンコースター、Qeticなど各媒体が報じています)。事前情報を伏せたまま映像で明かすという発表の仕方そのものが、聴き手にとってのサプライズを最大化する演出だったのだろうと想像します。
2人の縁は、この曲でいきなり生まれたわけではないようです。音楽メディアの報道によれば、PUNPEEとKREVAは2003年、新宿のクラブでのイベントで初めて顔を合わせています。当時まだ駆け出しだったPUNPEEが5lackらとDJセットを披露し、その後にKREVAが出演したのだそうです。それから長い時間が流れ、2020年になって、PUNPEEの弟でもあるラッパーの5lackが「そろそろKREVAさんと組む時期ではないか」と後押ししたことが、このコラボレーションの直接のきっかけになったと語られています。PUNPEEは5lackに対して「ずっとやりたいと思っていた気持ちを後押ししてもらった」という趣旨のコメントを残しており、長年温めてきた願いが形になった瞬間だったことがうかがえます。17年という歳月を挟んで、1度すれ違っただけの相手と共演が実現する。この時間の長さそのものに、この曲の重みがあるように思います。
アルバム『The Sofakingdom』は、5曲という短い収録数ながら、PUNPEEにとって3年ぶりとなる重要な作品でした。そこにKREVAと5lackという、それぞれ違う立ち位置のラッパーを迎えたことは、PUNPEEが自身の音楽的な足場を改めて確認する作業だったのではないかとも感じます。既に確立された表現者を招くことは、自分の音楽をさらけ出す行為でもあります。その勇気ある選択の結果として、私のような新しいリスナーにまで曲が届いたのだとすれば、コラボレーションという形式の持つ力を、あらためて思わずにはいられません。
世代を越えた敬意が聴こえるトラック
この曲のビートを手がけたのは、海外のヒップホップシーンでも名の知られるビートメイカー、Nottzです。作詞はPUNPEEとKREVAの2人が手がけたとされています。聴いていると、どこか懐かしさを感じさせるトラックの上で、2人のラップが自然に呼応しているように聴こえます。PUNPEEのフロウは軽やかで、言葉の置き方に遊びがあるぶん、余白を大切にしているように感じられます。一方のKREVAは、ビートの重心にぴたりと言葉を乗せてくるような、安定感のある聴こえ方をします。異なる質感を持つ2人のラップが、1つのトラックの中で反発せずに重なっていくところに、この曲の聴きどころがあるように思います。世代の異なるラッパー同士が、互いへの敬意を土台にして初めて共演を果たした瞬間が、この曲には刻まれているように感じます。歌詞の内容そのものにはあえて踏み込みませんが、タイトルが示す通り、夢を追い続ける者たちへ向けられた曲だと受け止めています。
ヒップホップという音楽の面白さの1つは、ビート1つ、フロウ1つで、まったく異なる時代の空気を呼び込めるところにあると感じています。トラックメイカーが海外のアーティストであるという点も含め、この曲には国内外の音楽的な蓄積が幾重にも重なっているように聴こえます。この曲のトラックは、決して華美ではなく、むしろ抑えた質感で鳴っているように聴こえます。その抑制のきいたビートの上で、PUNPEEとKREVAという、活動歴も表現の仕方も異なる2人が、それぞれの言葉を積み重ねていく。声を張り上げるでもなく、静かに、しかし確かな熱量を伴って紡がれていくラップの応酬は、聴くたびに新しい発見があるように感じます。派手な演出に頼らず、言葉そのものの強度で聴かせようとする姿勢が、この曲の芯にあるように思えてなりません。
信頼している誰かが認めた才能
新しい音楽やアーティストとの出会いは、いつも予測できない形でやってきます。自分から積極的に探しに行くこともありますが、意外と多いのは、すでに好きなアーティストの客演やコラボを通じて、思いがけず知ることになるパターンです。KREVAという、すでに私にとって信頼できる表現者だったラッパーが、深いリスペクトを込めてPUNPEEと共演している。その事実だけで、PUNPEEという存在への信頼度は一気に高まりました。人からの紹介や推薦が、時に広告よりもずっと強い説得力を持つのと同じ仕組みだと思います。この曲を入口に、私はPUNPEEの他の楽曲も聴くようになりました。独特の言葉選びと、ユーモアと哀愁が同居しているように聴こえる世界観に、すっかり引き込まれていきました。1つの客演曲が、その後の音楽的な視野をこれほど広げてくれるとは、最初にこの曲を聴いたときには想像もしていませんでした。
考えてみれば、私たちは日常の様々な場面で、こうした「誰かの推薦」という判断材料に頼って生きています。初めて訪れる店を選ぶときも、初めて会う人を信用するかどうかを決めるときも、多くの場合、間に立つ誰かの存在が背中を押してくれています。音楽の世界も例外ではありません。むしろ、作り手同士が互いを名指しで認め合うヒップホップというジャンルにおいては、その推薦の重みが、他のどんな音楽よりも直接的に響いてくるように感じます。KREVAがPUNPEEを認め、PUNPEEがKREVAへの敬意を隠さない。その相互の信頼関係こそが、私のような部外者にとっての、いちばん確かな道しるべになったのだと思います。
2003年にすれ違うようにして出会い、2020年になってようやく形になった2人の共演には、待つことの意味を考えさせられます。すぐに結果を求めず、機が熟すのを待つ。5lackという第三者の後押しがあったこと自体、1人の意志だけでは動き出さない縁があることを示しているように思います。家や土地の相談を受ける仕事をしていても、似たようなことをよく感じます。すぐには決まらない話が、何年か経ってふとした拍子に動き出すことがあります。誰かがそっと背中を押してくれることで、長らく先延ばしにしていた一歩が踏み出せる。この曲を聴くたびに、そうした時間の流れ方を思い出します。長く手元に置いていた願いが、思いがけないタイミングで実を結ぶ瞬間は、音楽の中にも、日々の仕事の中にも、確かに存在するのだと感じます。
磐田で振り返る、連鎖する出会い
音楽との出会いの連鎖は、人との出会いの連鎖とも、どこか似ています。誰かに紹介された人が、また別の誰かとの縁をつないでくれる。磐田で家や土地の相談の仕事をしていても、こうした紹介の連鎖を日々実感しています。信頼している人が認めた相手なら、初対面でも安心して話を進められる。KREVAからPUNPEEへ、そしてNulbarichからまた別の誰かへ。音楽の世界で経験してきたこの連鎖の心地よさを、仕事の中の人との出会いでも大切にしていきたいと思います。休みの日に家で1人この曲を流していると、遠い新宿のクラブで生まれた縁が、20年近い年月を経て磐田の自宅のスピーカーまで届いていることに、不思議な感慨を覚えます。
家族と過ごす時間の中でも、この曲を思い出すことがあります。子どもがまだ知らない音楽や本を、大人になった今の自分が薦めることがある。反対に、子どもが見つけてきた何かに、こちらが教えられることもあります。信頼できる相手からの紹介であれば、世代が違っても、ジャンルが違っても、素直に受け取ることができる。KREVAとPUNPEEという世代の異なる2人の共演を聴きながら、家族の間で受け渡されていくものの形についても、あらためて考えさせられました。土地や家を見て回る仕事も、結局は次の世代へと何かを引き継いでいく営みです。音楽の連鎖も、仕事の連鎖も、根っこのところでは同じ営みなのかもしれません。
「夢追人」というタイトルは、夢を追い続ける者を意味します。KREVAとPUNPEE、それぞれが自分の道を長く追い続けてきた表現者同士が、この曲で交差しました。その交差点に居合わせたことで、私自身の音楽の旅も、また新しい道へと続いていきました。家族や土地との付き合いも、音楽の聴き方も、結局は同じところに行き着くのかもしれません。誰かが誰かを信じて連れてきてくれた縁を、大事に受け取ること。それだけのことを、この1曲から改めて教えられた気がしています。これからも、こうして連鎖していく出会いを、1つずつ丁寧に書き残していきたいと思います。