このサイトでは、ソロで歌われた「(生)林檎博'18」版の「目抜き通り」も取り上げましたが、こちらは本来の姿である、トータス松本(ウルフルズ)とのデュエット版です。同じ曲でも、歌い手がひとりか2人かで、聴こえてくる景色はまったく違います。椎名林檎の都会的で切れ味のある声と、トータス松本の関西弁混じりの、体温の高いソウルフルな声。ジャンルも出自もまったく違う2人が、同じメロディーの上で声を重ねると、目抜き通りという場所に、思いがけない奥行きが生まれます。ひとりで歩く目抜き通りが孤独と覚悟の道だったとすれば、2人で歩く目抜き通りは、異なる歩幅の2人が、それでも呼吸を合わせて進んでいく道です。この曲の魅力は、2人が完全に溶け合うのではなく、それぞれの個性を保ったまま並んで歩いているところにあります。
GINZA SIXのオープニングテーマとして
「目抜き通り」は、2017年4月20日に発表された楽曲で、東京・銀座に開業した大型商業施設「GINZA SIX」のオープニングテーマとして書き下ろされました。作詞作曲は椎名林檎で、トータス松本をフィーチャリングに迎えたデュエット曲として制作されています。2019年5月27日発売のオリジナルフルアルバム『三毒史』に収録され、同年6月にはミュージックビデオも公開されました。
トータス松本は、大阪発のロックバンド、ウルフルズのボーカリストとして知られる歌い手です。「ガッツだぜ!!」のような突き抜けた明るさと熱量を持つ歌唱で親しまれてきた人であり、椎名林檎の緻密で都会的な音楽性とは、一見対極にあるように見えます。この組み合わせを実現させた背景には、銀座という日本を代表する目抜き通りに、東京の洗練と、日本各地から集まる人々の熱気の両方を映し込みたいという狙いがあったのかもしれません。歌詞にフランス語のフレーズを織り込みつつ、国際色豊かなテーマを扱うこの曲に、トータス松本の飾らない声が加わることで、洗練の中に生活者の体温が差し込まれています。
歩幅の違う2人
デュエットというのは、実はとても難しい共同作業です。声質もバックグラウンドも違う2人が、同じ拍子、同じ息づかいで進まなければならない。歩幅がぴったり合えば美しいハーモニーになりますが、少しでもずれれば、ちぐはぐな印象を残してしまいます。椎名林檎とトータス松本のこの曲は、あえて歩幅を完全には揃えず、それぞれの個性がぶつかりながらも道を譲り合っている、そんな緊張感のあるバランスの上に成り立っています。
結婚生活や長年の友人関係にも、これと似た感覚があります。歩幅がまったく同じ2人などいません。片方が少し急ぎ足で、もう片方が少しゆっくり。それでも長く連れ添っていくうちに、互いの歩幅の違いを織り込んだ、独自のリズムができあがっていきます。「目抜き通り」を2人で歩くこの曲を聴くと、完璧に一致することよりも、違いを抱えたまま並んで歩き続けることの方が、実はずっと豊かな関係を作るのだと感じさせられます。
東京で働いていた頃、出身も価値観もまったく違う同僚たちと、それでも同じ目的地に向かって仕事を進めていた時期がありました。歩幅を無理に揃えようとするのではなく、それぞれのペースを認め合いながら進む方が、結果として遠くまで一緒に行けることを、あの頃の経験から学んだ気がします。この曲のデュエットは、その学びを音楽の形で証明してくれているように聴こえます。
磐田の目抜き通りを、誰かと歩く
磐田で家や土地の相談を受ける仕事は、多くの場合、家族という「歩幅の違う人たち」と向き合う仕事でもあります。親の世代と子の世代、地元に残る人と離れて暮らす人。それぞれのペースも価値観も違う中で、ひとつの結論に向かって一緒に歩いていかなければならない場面によく出会います。無理に歩幅を合わせようとするより、違いを認めた上で、それぞれのペースのまま並んで進む道を探すこと。この曲のデュエットが体現しているバランス感覚は、そういう仕事の現場でも、大切な指針になっています。
ひとりで歩く目抜き通りにも、2人で歩く目抜き通りにも、それぞれの豊かさがあります。同じ道、同じ曲でありながら、歩く人数が変わるだけで景色がまるで違って見える。この曲を聴くたびに、人生の目抜き通りを、これまで誰と、どんな歩幅で歩いてきたのかを、あらためて振り返りたくなります。
ATAWI MUSICは、音楽を消費するサイトではありません。曲をきっかけに、誰かと歩幅を合わせてきた道の記憶を読み直す場所です。
